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2話

この日の朝、悠霧は最高に気分が良かった。起床して高ぶった気持ちのまま自室からリビングに移動し、両親と朝食を取る。その間にテレビで流れていた今日の占いは第一位だった。

 前日の準備――特に服選びには数時間悩みに悩んだ。そのせいで睡魔が顔を出しているが先の占いの結果が、それを吹き飛ばしてくれた。

 しかしだ。

 ヒマラヤ並の歓喜からマリアナ海溝並の悲哀へと叩き落された。

 待ち合わせ一〇分前――。

 自宅の最寄駅から二駅、海岸沿いの繁華街。流石に休日ということもあり親子連れやカップルで賑わっている。待ち合わせに指定した駅前の小さな広場もまた人口密度は高かった。

 それでも、その中で一際目を引く少女が紅ノ木悠霧だ。

 淡い色合いのペプラムブラウスに白のカーディガンを羽織ったガーリーコーディネート。ゆるふわに巻かれたボブヘアーと相まって彼女らしさが前面に押し出されている。

 悠霧が腕時計で時間を確認し九時五〇分を過ぎた頃。人垣が割れ、自然にレッドカーペットが構築される。

「な、なんで……」

 悠霧の声が驚愕に震えていた。その視線先には、オフショルダーのトップスにスキニージーンズのファションを着こなす少女。歩き方もそれこそファッションモデルさながら。だが、見覚えがある故に彼女が芸能人ではないということを強く理解させられる。

 さりとて有名人では無いかと言えばそうでもなく。異能者の界隈ならば紅ノ木家と同等もしくはそれ以上の存在。

 一〇時を目前とした時計台の足元を、濡れ羽色の長髪を靡かせて優雅に通るのは黒須才華だった。

 しかし悠霧が目を奪われたのは彼女だけではない、その横を一緒に歩く男子だ。才華とは不釣り合いすぎるほどの格好だ。まさか本当にジャージでこの繁華街まで来るとは思いもしなかったのが悠霧の正直な心境だった。

 それに付随して疑問が脳内を駆け巡る。

 何故、夜斗と才華が一緒に居るのだろうか?

「あら、こんにちは。紅ノ木さん」

 ニッコリと微笑を浮かべる天使。けれども悠霧は知っていた。その笑みが勝ち誇った挑発の――悪魔の笑みだと言うことを。

「は、はい。こんにちは、夜斗君……と、黒須先輩」

「ああ。早いな、悠霧」

「そ、そうですか? わたしもさっき着いたばかりですよ? そ、そんなことよりッ。な、なんで夜斗君とその人が一緒に居るんですか!?」

慌てふためいている悠霧をあざ笑うように才華が笑みの色を一層濃くしてから口を開いた。

「実は私も偶然、今日彼と約束していてね、デートの。だから一緒に行こうと誘ったら、貴女と鳳君とも行くと言っていたのよ。だから同行させて頂こうと、ね」

「そんな話、一度たりとも聞いてないですよ。どういうことですか、夜斗君ッ」

「どうもこうも。昨日の夜に、この人から突然連絡が着て、唐突に明日デートをしようなんて言っていたからな……まあ結果だけ話せば現状に落ち着いた訳だ」

「日程をずらすとかなかったんですか?」

「買い物の内容が似ていた気がしたからな。それに女子の物を買うのに俺の意見よりも同性の方が参考になると判断したんだが……間違いだったか?」

「ま、間違いじゃないですけど……よりにもよってこの人なのは」

 不満の部分はひとりごちる様にボソボソとこぼした。

 せめて、他の人――特に自分よりきれいな人以外をチョイスして欲しかった悠霧である。

 間違いなく駅前広場で視線を独占している女子二人だが、その占有率はほんの少し体感程度ではあるが才華の方が多く集めている気がしていた。

「ともかく今日はよろしくね、紅ノ木さん……と、鳳君」

 才華が視線をあらぬ方向へと投げたかと思えば、その先にはきれいめファッションで身を包んだ少年――鳳空御が立っていた。

 女性数人が彼を華やかに彩る様に人垣を作っている。だが誰一人として成果を上げた女性は居ないようで、うまくあしらわれている。それでもかわるがわる挑戦している。

 その最中に絶世の美少女と言っても過言ではない才華から声を掛けられれば女性陣は否応なしに引かざるを得ない。

 ある種、助けられた空御は小さく溜息を吐いて、夜斗達の元へと駆けると才華に感謝を述べた。

「なんか修羅場になりそうだったから遠目に様子を窺ってたら――まあ先の有様だったわけだが……終わったのか? それとも夜斗が終わったのか?」

 空御がニヤリとすると夜斗は嫌そうに目を逸らす。気分を悟らせない様に「行こう」と短く告げると表情を読まれないために率先して歩いた。


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