21話
今さらですが、今後の投稿速度は遅くなりますが、定期的に上げるのは確実なので長い目でみていてください。
PS全話通して大体30話で一区切りするように練っているのであと数話お付き合いくださいorz
劇で例えるなら、一番盛り上がる瞬間へと至るシーン。もしくは前座……。
曇天を貫く光輝く一柱が、灰色の街並みを形成する陥落街において色彩を与えていた。だがそれは優しや温かさとは別種。見た目は陥落街と相反しているものだが本質はひどく寄っている。むしろ、陥落街を圧縮し煮詰めたような暴力的な力が感じ取れた。
「……フゥー。逆境よね、現状」
才華は嫌な汗を流しながら視界に映る多勢に文字通り牙を向いていた。
それは日付が変わろうとしていた時の事だった。
夜斗に身体の隅から隅まで検査され、身も心も丸裸。もう見せてない部分は無いくらいに調べ尽されてから数刻。
自宅で惚けている時に、自身の携帯端末に見知らぬアドレスからメールが届いた。才華の携帯端末は、登録されている連絡先からしか連絡が来ない様に設定されている。加えてセキュリティも高度なものがインストールされているのだ。持ち主同様、携帯端末も鉄壁のはずが、何故かメールが受信された。
その違和感と相手への興味から恐る恐るダイア封筒型のアイコンをタップする。
小さな演出を経て開かれたメールは、実に簡素でありさらに挑発じみた内容を含んでいた。
「なによこれ……」
メールと一緒に添付されていたのは動画ファイルだった。才華が本文を読み終えたタイミングを見計らったように、そのファイルが勝手に開き再生されたのだ。
映像は何処か解らない。しかし、そこに映る二者の片割れは解樹璃音だ。倒されたかと思うと、璃音と対峙していた黒装束の双眸が窺え、息つく間もなく夜斗が登場し、絶望の色を濃くした顔で動かなくなった。
そこで動画がプツンと切れ後は真黒な画面が続くだけ。
「それで私を動かそうということかしら……いいわよ好感度上昇イベントか罠か知らないけれど、あなたに乗ろうじゃないッ」
そうして準備をして、陥落街へと赴いた。
――もうこれ、罠よね?
自分の浅はかさを悔やみつつも現状打破をするために脳をフル回転させていた。
彼女が現在展開している術式は、中途開放している【付与】系統。その特製を活かした異能は術者の身体に影響を与えるモノであり、容易に人を兵器へと変える。
陥落街へと潜った瞬間から継続させている術式。才華は幸い、実力が飛びぬけているお蔭で相手を戦闘不能にとどめるだけで済んでいる。
今のところ誰一人殺していない。
しかしその甘さがこの現状だ。一撃必殺ではなく、相手の動きを止めるための技ばかりを駆使していた。白兵戦、銃撃戦ならそれで終わる話だが、異能者という戦人は声さえ出せれば戦える人種。
集中砲火を掻い潜り新たな敵兵を狩っていく。それでも、一人当たりの攻撃頻度が下がるだけであり、数は増すばかり。
彼女の鋭利な爪が、敵の大腿部を割き。鞭のようにしなる脚が相手を軽々と吹き飛ばす。
「キリがない――ッ!?」
才華の死角からスキルが飛来してきた。無駄のないオーラ操作によって余波すら感じさせなかった異能。獣染みた第六感が才華に警鐘を鳴らせたが、それは、彼女を標的とした一撃ではなかったため、才華は躱すという動作すら省いた。
「貴女は」
「へぇ……黒須才華。あんたがここに居るのには驚きだが――やはり甘いな」
黒須才華の前に現れたのは、陽炎を使い自身の座標を狂わせている炎髪の少女、南条那由だ。
不遜な顔を歪ませている原因は苛立ちからだろう。格好も動きやすそうだが、所々傷を負っている。彼女もまたここまで来る間で戦闘を行ってきたと推測できた。
そんな那由が八つ当たりのように、才華が足止めした異能者達にスキルを放つ。
阿鼻叫喚。
四方八方隙間なく、地獄が奏でられていく。
「南条さんッ。もういいでしょう!」
才華は嗚咽を堪えて、奏者である少女に叫んだ。
「もういい? 何が? あんたのやっているのは悪戯に相手を傷つけているだけ。それこそ、学園で男どもにしていることと同じで価値がない。気のあるふりして弄んだかと思えば、興味がないような、関係が無いような素振り――反吐が出る」
「そう思われたっていいわ。けれど今貴女がしているのは私と何が違うの? いいえ、それ以上に残酷でしかないわッ!」
「一緒? 残酷? ふざけるなよ。これはあたしのただの腹いせだ。面白くもなんともない。不快感は拭えない。苛立ちは募るばかり……ただの負のサイクルだ」
「なんでそんなこと……」
苛烈を極める中で才華の零した疑問を那由が目敏く拾い上げた。
「あたしの術式が利用されたからだ。どこの誰かも知らない組織か宗教にな」
「どういうことかしら?」
「ッチ。一々教えるのがメンドイな、このオッパイは。――メールだ、メール」
メール……その言葉に思い当たる節が才華にはあった。もしかしたら、と那由へと向けていた不満を一旦押し殺して、内容を問う。
「なるほどな。それであんたがこんな所にいるわけだ」
「差出人に心当たりは?」
「あるわけないと言いたいところだが――噂程度の話で陥落街の主という人物が居るらしい。そいつがどうもあらゆる時間、場所に存在しているだとか……安直に考えて、監視カメラにハッキングや隠しカメラ、人脈。そういった類が得意な人物だろ――ってもう終いかよ」
周囲に二人以外の異能者の存在が感知できないと解るや、那由は踵を返して新たな狩場を探そうと動こうとする。
「ねえ南条さん」
「なんだ?」
「貴女は自分自身のためにこんなことをしているのよね、そこに意味はあるの?」
「――復讐だ。あんたには一生関係ない話だろ。さっさと自分の仕事を熟せよ。どうせあの光柱が関係してんだろ」
「なら一緒に、もしかしたら……」
「馬鹿か。あんたとあたしじゃ相容れない。特に戦場での立場や戦闘の意味、他者の意識……そういったものが違いすぎる。今は我慢して付き合えるだろうが、連携なんてまともに取れる気がしない。最悪誤射で命が消える羽目になりそうだ――お人好し過ぎるだろこいつ」
もうこれ以上は話す気がないと那由は炎の翼を生み出し羽ばたかせて彼方へと消えていった。
「ハァ……最近同性に嫌われている気がするわ」
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