16話
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夜斗は帰宅し、自室へとすぐさま移動した。時刻は九時をまわったところで、夕食はとっていないが、空腹よりも放課後に調べた才華の情報を整理する方が重要だった。
学園にある私室の雰囲気をそのままに、小さな小物などのインテリアが彩っている。
「やっぱりか」
ハイエンドPCの前でインスタントコーヒーを一口嚥下してから確信を持った口ぶりで呟いた。
黒須才華の状態の記録と術式の使用履歴が映し出されている。
現在の身体情報は安定の一言。
「実技の時は異常だな――『星炎』が発動した瞬間か」
頬杖をついて睨むように視線を送る。
目線の動きを感知して、ウィンドウが新たにポップした。そこには、どこからか録画された、才華の実技時のものだ。
内包するオーラが術式を通り、世界を上書きする――という刹那だった。
炭酸飲料が破裂するように、術式からオーラが爆発した。過剰なオーラに耐えられなかったのだろう。
「詰まる所、本当に『星炎』が原因だったのか」
「帰ってきて、そうそう部屋に籠るってお前」
コンコンと開けっ放しの扉を今更になって叩くのは片手に缶ビールを持った妙齢の女性――解樹璃音。服装はラフなものを選んで着ているが出る所は出ており、さらにいつもはパンツスーツで出ていない太ももまで露出している。年齢の割に肌艶はかなり良い。
「居たのか。てっきり本社か、瀬尾さんのバーかと思っていた。どうしたんだ?」
「ん? 明日に中央市に行くことになったからな。その準備だ」
「早いな」
作業の手を止めて、椅子ごと義親の方へと向いた。
「準備。だからな。現地での用意とかあんだよ」
「なるほど。色々と迷惑をかけてすまない」
「バーカ。親っつのーはな子供が突っ走った後の掃除をするもんなんだよ」
「義務だからか?」
「客観的ならそう言うかもしれねぇ。んでもな親からすればそれは親心、愛情の一環なんだ。だから気にすることじゃねぇんだよ」
お酒の勢いなのか恥ずかしげもなく彼女は告げると、息子のPCを覗き込んできた。仄かに香る煙草の匂いに混じるオリエンタル系の香水。そのことがついさっきまで出かけていたことを物語っていた。
「つか何してんだ?」
「解析。黒須才華を含めた実技テストが行われた日の違和感の正体を探ってる。後近い」
「おいおい。お前、欲情でもしてんのか? まーあ、まだあたしもイケる身体つきっだてのは自負してんだけどなぁ」
璃音がニヤニヤと人の悪い笑みでの頬を二度三度突く。
「ハァ、そうじゃない。璃音の身体が年齢と良い意味でそぐわないのは昔から知っている。そうじゃなく、臭い」
「んなッ……お、お前、あたしが加齢臭するってのか!?」
「煙草と香水の混じった匂いがきついんだ。せめてシャワーくらい浴びてくれ」
「んだよ。そんくらいか。気にすんじゃねぇよ。この匂いを数日は嗅げないんだぜ?」
「……」
「無視かよ!? ――……で、あれか。先日の件か」
璃音が真剣みを帯びた雰囲気へと一瞬で移り変わった。
「『星炎』……スフィア制の術式だな。この三月に発表されたばかりだが、【強化】の術式としての扱いやすさ、威力が高いからか、すげぇ人気なんだよな」
「確か実戦や実技、模擬戦。色々な場で使われているな」
「特にここ二年くらいからこのスフィアなんて名乗ってるエンジニアの術式が蔓延ってる。野良だというのに恐ろしく出来が良い。ただ安全面を放棄している節が強い」
お互いに静かに、それでいて唸る様に情報のやり取りをしていく。
デスクの端に缶ビールを置き、璃音が思案顔をつくった。
「あたしも使ったが発動までのラグが極めて少ないし、オーラの燃費も良かった」
「……なら璃音的にみて、こいつが作為的に術式を変更した、もしくはするタイプに思うか?」
数秒の沈黙をもって世界最高のエンジニアが、口を開く。
「発表ペースがかなり早い……どこか妄執に囚われてる感じなんだが――それが純粋なんだよ。他者にまき散らすんじゃなくて、誰か、どこか一点に集中してるんだよな。だからそういうことはしない。寧ろ今頃犯人探しに躍起になってそうだ」
「ふむ。――ありがとう、助かった」
夜斗の中で凹凸が嵌っていくように何かが浮かび上がった。
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