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開花

彼女が目覚めた夜、最後の蕾が花開いた。

既に葉桜の盛り、目を留める人もない。そんな中、彼女は息を吐いた。

ごぼぼ、と、無数の泡が空気を上って行く。吸う水が彼女の肺を満たした。

ゆら。月明りが射す闇がゆれた。

彼が闇を泳いで来る。しなやかな肢体。甘い薫りが彼の軌跡を漂う。

彼女は誘われ、彼を追う。細い幹を蹴った躰が月明りを浴びて輝く。

ふわり。躰にまとわる空気を払いながら、彼女は彼の跡を追って泳ぐ。

最後の蕾が小さく微笑み、彼女を見送った。


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