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なおす

作者: たま
掲載日:2026/02/28

いつも読んでいただきありがとうございます。

他にも作品がありますので読んでもらえたら嬉しいです。

宜しくお願いします。

ダンジョンで癒す、心の傷


桜が舞い散る春、私は憧れの大学に入学した。キャンパスは希望に満ち、新しい出会いの香りが漂っていた。その中で、彼と出会った。優しい笑顔と、私の話を真剣に聞いてくれる瞳に、すぐに心を奪われた。二ヶ月後、私たちは付き合い始めた。毎日が輝いて見えた。一緒に図書館で勉強し、学食でおしゃべりし、夕暮れ時に手をつないでキャンパスを歩く。そんな幸せな日々が続いていた。


ある雨の木曜日、早めに授業が終わった私は、彼にサプライズで会いに行くことにした。彼がよくいるカフェに向かう途中、公園のベンチで彼の姿を見つけた。でも、一人じゃなかった。隣には、長い髪をなびかせた別の女子学生がいて、彼はその子の手を握り、今まで私に見せたことないような柔らかい笑顔を浮かべていた。


その瞬間、世界の色が褪せた。胸が締め付けられるように痛み、足が地面に釘付けになった。彼は私に気づき、慌てた表情を浮かべたが、もう遅かった。私は振り向き、その場を走り去った。涙が止まらなかった。信じていたもの、愛していた時間が、一瞬で崩れ去った。


その夜、私はベッドで泣きながらスマホをいじっていた。SNSは彼と彼女の幸せそうな写真で溢れていた。見るたびに心がえぐられるようだった。ふと、変な広告が目に入った。「心の傷を癒すダンジョンへ。スキルを修復し、不要な記憶を収納します。」最初は怪しいと思った。でも、もうどうでもよかった。この苦しみから逃れたい一心で、広告に記載されていた古びた喫茶店の住所に向かった。


喫茶店の奥のドアを開けると、そこは現実とは思えない空間が広がっていた。古びた石造りの廊下、壁には不思議な光を放つ苔が生えている。看板のような石板が立っていて、こう刻まれていた。「汝の傷ついたスキルを修復せよ。汝の重すぎる記憶を収納せよ。」


最初の部屋には、壊れた「信頼」のオルゴールが置かれていた。ネジが外れ、音も歪んでいた。私は慎重にネジを巻き直し、欠けた部分を金色の光で満たしていった。修復するうちに、彼との楽しかった記憶も、最後の裏切りの瞬間も、全てが等しい過去の一部として整理されていくのを感じた。


次の部屋には、「自己愛」の鏡が割れて散らばっていた。私は一片一片を拾い集め、丁寧に接着していく。割れた鏡には、彼に振り回され、自分を見失っていた私が映っていた。鏡が修復されるにつれ、映る自分の顔に自信が戻っていくのを感じた。私は私だ。誰かの評価で価値が決まるわけじゃない。


最後の部屋は、巨大な「記憶の収納庫」だった。無数の引き出しが壁一面に広がり、それぞれにラベルが貼られている。私は「初恋の痛み」と書かれた引き出しを開けた。中は柔らかい光に包まれていた。彼との写真、プレゼントしたペン、一緒に行った映画のチケットの半券。全てをそっと引き出しの中に収めた。鍵をかけるとき、涙がこぼれたが、今回は悲しみだけじゃなかった。別れを認め、前に進む決意の涙だった。


ダンジョンを出ると、喫茶店の窓から朝日が差し込んでいた。一晩中いたはずなのに、外の時間はほとんど経っていないようだった。胸の重りは消えていた。まだ完全に治ったわけじゃない。でも、呼吸が楽になった。自分を大切にしようと思えた。


大学に行く道すがら、彼と彼女が笑いながら歩いてくるのを見かけた。以前なら崩れ落ちそうだったのに、今回はただ、静かに道を譲った。彼は複雑な表情で私を見たが、私は軽く会釈をして、その場を離れた。


図書館で新しい専門書を読んでいると、隣の席の男子学生が声をかけてきた。「その本、面白いですよね。私も興味あって…」優しい目をした、眼鏡の男の子だった。私は少し照れくさそうに笑い、本の話をし始めた。


心にできた傷は、時が経てば瘡蓋になる。でも時には、自分で手当てをし、膿を出し、きれいに包帯を巻く必要がある。ダンジョンでの経験は、私にその方法を教えてくれた。スキルを修復し、重すぎる記憶を収納する。それは、過去を否定することじゃない。過去を適切な場所に置き、今の自分を生きるための儀式なのだ。


桜はとっくに散り、キャンパスは新緑に包まれていた。私は傷ついた「信頼」を修復し、壊れかけた「自己愛」を接着した。痛みの記憶は、きちんと収納庫の引き出しに仕舞った。そして今、少しずつ、新しいページをめくろうとしている。

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