異世界を自由にカスタマイズした転生先は悪役令嬢、になる前の話
櫛田茉莉絵は死んだ。死因は過労。茉莉絵の一度目の人生はベランダで終わった。
眼を開く。雲の上だった。けど、雲の上に立っている感触は足裏には伝わらない。下半身が消えていたから。上半身は確認できた。でも、腕を広げる、身体を伸ばすなどの運動行為は出来ない。頭は固定されている。口は開かない。唯一、可能だったのは眼の開閉だけ。
「ようこそ、天界へ」
若い女の子の声。見た目は天使だった。純白の装いに、特徴的な真っ白い翼、頭には天使の象徴とも言える輪っかが浮かんでいた。
茉莉絵は本当に自分が死んだと悟った。
「櫛田茉莉絵様。厳正なる審査の結果、貴方様は転生に選ばれました」
転生か、今時かも知れない。まさか自分が小説や漫画の主人公と同じ境遇になるとは思わなかった。
天使が指をくるくる回す。口が開ける様になった。
「実は、地球人を別の世界へ転生するにあたって改定が行われました」
「何が変わったんですか」
「ズバリ! 転生先を選べる、です!!」
茉莉絵の前にも多くの日本人が異世界へ転生を果たした。でも、最近の日本人は自分の理想の世界を願うようになり、自分の願望強目の世界をご所望するようになった。天使界は、協議の結果、候補をいくつか選び、審査に合格した者に転生先を選ばせる権利を与えるルールを設けた。
茉莉絵の周りにシャボン玉が浮かんでいる。触れると内部の情報を観ることが出来た。勇者、騎士、聖女、王様、追放、ざまぁ、恋愛、貴族令嬢、悪役令嬢、婚約破棄、復讐、スローライフ、魔法使い、魔女、ハーレム、百合、ゲーム世界、乙女ゲーム世界、色々ある。どの世界を選んでも、茉莉絵の第二の人生は順風満帆になる可能性は高い異世界ばかりだった。茉莉絵自身のまま転生できるし、性別変更で異世界の転生も出来ることが分かった。異世界の情報を変えて自分好みに変更できる。
自分の願望の世界へ転生できる。考えれば考えるほど、頭を悩ます。
大好きなゲームの世界。好きな漫画の主人公やヒロイン、動物になってのびのびとした生活。
考える事、30分。天使娘に願望世界のシャボン玉を渡した。
「えっとー............セーブ機能搭載の悪役令嬢になって、ヒロインの攻略対象を皆、男性から女性に変更、ヒロイン含めて全員悪役令嬢に絆され攻略可能な世界。追伸、銀髪キャラでスタートしたいです」
内なる願望を解き放った気分。
「わかりました! これで決定でよろしいでしょうか」
天使娘はあっさり承諾した。意外に願望世界設定緩いかも。
「では、最後の儀式を行います」
天使娘はシャボン玉を口に含んだ。天使娘は茉莉絵の頬に手を添える。茉莉絵は初対面、人生初のファーストキスを天使娘に捧げてしまった。天界、雲の上、誰も見ていない。二人だけの空間。
茉莉絵は驚き、恥ずかしい気持ちになりながらも、しばらく天使娘とのキスを楽しんだ。重なり合う唇は離れる。
茉莉絵の身体は消えていく。余韻もないまま、茉莉絵は願望の異世界へ転生していった。
天使娘は天を見上げ微笑む。
「いってらっしゃいませ!」
一人残った天使娘はリストを眺める。リストに記されていたのは全員女性。天使娘の担当は、女性を異世界へ転生させる。方法は自由。内なる願望を叶えるのに十分だった。天使娘はボソッと呟く。
「次はどの子とキスしようかしら♡」
天使娘は今日も仕事に励むのだった。




