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【完結】婚約破棄されましたが、慕ってくれる部下と共に妖を討伐する毎日です!  作者: 奈津みかん
【4】動き

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44. 「わかればいいんだよ。うまいことやっとけよ」

 ひと月の謹慎を言い渡された修介は、自室ですぱすぱと煙草を吸いながら、手元の書類を見ていた。家から出ることを禁じられていたが、使用人を興信所に行かせ、鈴原彰吾について調べさせた。その内容をまとめさせた資料だ。


「鈴原彰吾は、鈴原家の現在の家長、鈴原 雅和の養子……。実両親は不明……親戚筋からのもらい子との噂……」


(何か粗はないか?)


 貧乏ゆすりをしながら唸った。


「――年齢的には、孫くらいだよな」


 足の振動が激しくなる。 


「――鈴原には、何か、あるはずだ。何か」


 大学まで、ろくに家紋の力を訓練したことがないということも、その資料には書いてあった。家紋持ちの家庭の子息で家紋の訓練をしている者ならば、家紋の力を試す試合などで顔を合わせることは当然ある。しかし、彰吾とそのような訓練をしたことがあるという者はおらず、家紋の訓練経験がないということは、噂では聞いていたが。


(それが、突然入隊試験で一番? そんなことあるか?)


 ちぃっと舌打ちをする。自分は幼いころから【雷霆(らいてい)】の家紋を使いこなす訓練をしてきた。

 防衛隊の隊員はほとんどが同じように家紋を使う特殊な訓練を積んでいるはずだ。

 訓練経験もない人間に家紋術の力で負けたというのが心底悔しい。

 

(――綾子も同じだよな)


 ふと修介はふと思い出した。 

 綾子も入隊するまで家紋の訓練はそれほど受けていなかったと聞いている。

 

(まぁ、綾子の場合は入隊時の成績はそんなに良くなかったはずだけど)


 綾子が入隊時は討伐成果があげられなかったというのは知っている。

 しかしその後、入隊から数年での綾子の活躍は目覚ましかった。

 個人での妖討伐数隊内3位、そして中央公園に出没した九尾の狐の撃退への貢献。


(長年の人の努力を露とも思わないの、本当イラつくな)


 貧乏ゆすりが激しくなる。


(あいつら、似た者同士っていうか、何かありそうだよな)


 しばらく考えこんだ修介は立ち上がった。


「――経歴を、もっと調べてやろう」


 どこかに彰吾に反撃するような材料があるはずだ。

 もっと深く、相手を知る必要がある。

 ――そのためには。


「隊の人事情報を探すのが一番だな」


 防衛隊では入隊時に経歴の調査をするはずだ。

 家柄や、どのような家紋を持っているのか、素行不良な点はないか。

 そんなことが細かく記された人事情報があるはずだ。


「保管は中央詰め所の管理室……だよな」


 修介は唸った。

 資料はあったとしても厳重に管理されているはずだ。

 

「――畜生! イライラする!」


 修介は机を蹴り飛ばすと、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱した。

 何もかもがうまくいかない。

 調べれば何か出てきそうだが、管理室に入り込んで調べることは不可能だろう。


 全てのことに対して怒りが湧いてきた。

 それは、華に対しても。


(みんな俺のこと馬鹿にしやがって。華ちゃんだってそうだ!)


 修介はひっくり返った机を踏みつけた。


(華ちゃんから婚約破棄してくるってどういうことだ? そもそも言い寄ってきたのは向こうなのに、あの尻軽女!)


 修介はちぃっと舌打ちをした。


 ふと、婚約披露宴の会場での華の言葉を思い出した。


『――修介さんの元婚約者の綾子さんには、こういうの似合わなかったでしょう?』

『そういえば、綾子さん、今日はひとりでいらっしゃるのかしら?』

『姉と綾子さんが親しくしていたので』


(華ちゃんは綾子のことをよく気にしていたな……)


 独り言つ。振り返ってみれば、華はやたらと綾子のことを話題に出していた。


「――俺に近づいてきたのも、綾子の婚約者だから?」


 その考えに至った修介は頭が沸騰するほどの怒りに襲われた。


(綾子、綾子、綾子、みんな綾子のことばかりだ!)


 誰もが自分より綾子を評価する。父親でさえも、だ。

 それは綾子と婚約していた間、ずっと修介が感じていた劣等感だった。


(華ちゃんまでもか! あんな小娘のくせに俺のこと馬鹿にしやがって!)


 鬱屈した修介の怒りの矛先は、華へと方向を変えた。


(華ちゃんのところなら行けるな……)


 とにかく、溜まりに溜まった怒りの感情を発散する先が必要だった。

 修介は立ち上がると羽織を羽織って、使用人を呼んだ。


「お前、俺は体調が悪いから、これから明日まで部屋に入ってくるなよ」


「しかし、お坊ちゃま……」


「言っていることはわかるよな」


 腕の家紋を光らせて周囲に雷の光を走らせた。

 ばちばちばちと身体のすぐ近くで電撃が弾ける音がして、使用人は「ひぃ」と息を呑んだ。

 昔からこの使用人には、家紋の練習と称して【雷霆】の力を試していた。

 ――(あと)が残らないように加減して。

 電撃が走る痛みを身体で覚えているはずだ。


「わ、わかりました。だから、それはやめてください」


 使用人は青ざめた表情で頭を何度も下げる。


「わかればいいんだよ。うまいことやっとけよ」


 修介はそう言うと、窓を開けて外へ飛び出た。


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