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【第1章】プロローグ-ローズオットー級の美形
誰にだって隠しておきたいことの一つや二つある。
美容男子。
YouTubeやSNSではもてはやされているが、そんなのイケメンにだけ許された生態系だ。
男のマンションには不似合いなドレッサーに腰かけ、オリジナルバームの蓋を開ける。今日は、オレンジスイートとサンダルウッドのブレンドだ。棘のない甘酸っぱい香りが深い呼吸と共に体に沁みてくる。
いつもの儀式とはいえ、普通の男性会社員が、夜な夜なアロマと基材を調合して塗りたくっているなんて知られたら、どんな白い目を向けられるだろう。
――だけど、バレた。しかもローズオットー級の美形に。
なのにこっちの気も知らずに、その男は花弁をはらりはらりと散らすように、どんどん踏み込んで、巻き込んでくる。
自分の芯は見せないというのに。
なにより、香りで「ひとの心を読み解く」なんて……そんな責任重大なこと、普通の人間にできるわけないではないか。
どうしてこうなった……。