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ラウンド4:科学の光と影~宇宙と意識の謎~

あすか:「ラウンド3では、ニーチェ様の『神は死んだ』という言葉を巡り、価値観の根源が揺さぶられました。絶対的なものを失った時代に、私たちは何を信じればいいのか…その問いは、現代を生きる私たちにも重くのしかかります。そこでラウンド4では、現代において最も信頼性の高い知の体系の一つ、科学の視点から、この永遠の謎、『死後の世界』に迫りたいと思います。」(セーガンに穏やかな視線を向ける)


あすか:「セーガン様。科学技術は目覚ましい発展を遂げ、宇宙の成り立ちから生命の仕組みまで、多くのことを解き明かしてきました。その科学の光は、『死』そして『死後の世界』について、私たちに何を教えてくれるのでしょうか?そして、そこにはどのような影…つまり限界があるのでしょうか?」


セーガン:(穏やかな表情で頷き、語り始める。背景には、ボイジャーが撮影した有名な「ペイル・ブルー・ドット」の画像が大きく映し出される)「ありがとう、あすかさん。まず、皆さんにこの写真をご覧いただきたい。これは、約60億キロ彼方から撮影された私たちの太陽系です。そして、この中に見える、ほとんど点のような、淡い青い光…これが私たちの故郷、惑星地球です。」


セーガン:「広大な宇宙という劇場の中で、私たちの存在は、なんと小さく、そして儚いことでしょう。しかし同時に、この一点に、私たちが知る限りの全ての生命、全ての歴史、全ての愛と憎しみが詰まっている…それは奇跡と言っても過言ではありません。この宇宙的な視野を持つことが、死後の世界を考える上でも重要だと、私は考えます。」


あすか:「ペイル・ブルー・ドット…本当に、点のようにしか見えないんですね…なんだか、切なくなります。」


セーガン:(微笑んで)「しかし、希望もあります。科学的に見れば、私たちを含む全ての生命は、この宇宙に普遍的に存在する物質…かつて星の内部で生まれた元素から成り立っています。私たちは文字通り『星屑』なのです。そして、生命は物理法則と化学法則に従い、自己複製し、進化し、そして個体としては必ず死を迎える。これは、良いも悪いもなく、宇宙の自然なプロセスの一部です。」


セーガン:「そして、『意識』や『魂』についてですが…」(背景映像が、活動する脳のCGに切り替わる)「私たちの思考、記憶、感情、人格といったものは、この驚くほど複雑な器官、脳の神経細胞のネットワーク活動と密接に関連していることが、現代の脳科学によって明らかになりつつあります。脳が損傷を受ければ人格が変わることも、特定の記憶が失われることもあります。そして、脳の活動が不可逆的に停止する『脳死』を迎えた時、現在の科学的理解に基づけば、残念ながら意識もまた永続的に消滅すると考えるのが、最も合理的で、矛盾のない説明となります。」


セーガン:「これまで皆様が語られたような、死後も人格を保ったまま存続する魂や、具体的な審判、あるいは来世といった世界が存在するという主張を裏付ける、客観的で、誰もが再現・検証可能な科学的証拠は、現時点では見つかっていません。これは、科学者として誠実にお伝えしなければならない事実です。」


イムホテプ:(我慢ならぬといった様子で、杖を床に打ち付ける)「事実だと?それは汝らが『事実』と呼ぶものに過ぎぬわ!物質の殻しか見えぬ盲人が、魂の輝きをどうして捉えられようか!汝らの科学とやらは、星の数を数え、石の重さを測ることはできても、マアトの真理の重さ、魂の永遠の価値を理解することはできまい!我々が数千年受け継いできた神聖なる知恵は、汝らの矮小な科学よりも遥かに深く、真実に到達しているのだ!」


プラトン:(静かに挙手し、セーガンに向き直る)「セーガン殿、科学が明らかにした宇宙の壮大さと生命の仕組みには、深い敬意を払います。脳と意識の関係についての知見も、非常に興味深い。しかし、あえて哲学的な問いを立てさせていただきたい。」(少し間を置いて)「例えば、私が今、このスタジオの照明の『明るさ』を感じている、この主観的な体験そのもの…あるいは、目の前にある水の『冷たさ』の感覚…いわゆるクオリアと呼ばれるこの質感を、脳内の電気信号や化学物質のやり取りだけで、完全に説明し尽くすことができるのでしょうか?」


プラトン:「さらに言えば、『私』が『私』であるという、この自己意識の根源は、一体どこから来るのか?物質的な脳細胞の集合体が、どうしてこのような主観的な『内なる世界』を持ちうるのか?これは、物質と精神の関係性という、古来からの哲学的な難問であり、現代科学にとっても、依然として大きな謎…いわゆる『ハード・プロブレム』として残されているのではないでしょうか?科学の光が、まだ届いていない領域があるのではないかと、私は考えます。」


ニーチェ:(腕を組み、嘲るような、しかし真剣な眼差しで)「フン、科学、科学…まるでそれが絶対的な真理であるかのような口ぶりだな、科学者殿。」(セーガンを真っ直ぐに見る)「忘れるな、科学もまた、世界を理解し、支配するための、人間が作り出した一つの『解釈』、一つの『遠近法』に過ぎんのだ。それを絶対視することは、かつての神やイデアと同じく、新たな権威、新たな『偶像』を作り出すことに他ならん!」


ニーチェ:「宇宙が広大で、人間がちっぽけな星屑だと?それがどうした!その『事実』とやらが、我々の生の価値を決定づけるわけではあるまい!重要なのは、客観的なデータではなく、我々自身が、この一度きりの、偶然の産物かもしれぬ生を、いかに肯定し、いかに燃焼させ、いかに意味を与えるか、ということではないのかね!科学の前に人間が矮小化され、創造的な意志が押しつぶされては、元も子もないだろう!」


セーガン:(それぞれの発言を真摯に受け止め、落ち着いて応答する)「イムホテプ様、古代の知恵や信仰が、人々の生や社会に大きな意味を与えてきたことは、科学者としても尊重します。ただ、科学は、検証可能な証拠に基づいて議論を進めるという方法論をとります。」


セーガン:(プラトンに向き)「プラトン先生のおっしゃる通り、意識の起源、クオリアの問題は、現代科学における最大のフロンティアの一つです。脳活動と主観体験の間の正確な繋がりは、まだ完全には解明されていません。科学は決して万能ではなく、常に未知の領域に対して謙虚でなければならない、と私も強く思います。」


セーガン:(ニーチェに向き)「ニーチェさん、あなたの指摘も重要です。科学は客観的な事実や法則を探求しますが、それ自体が『どう生きるべきか』という価値判断を与えるものではありません。科学的知見を踏まえた上で、人間が自らの意志で意味や価値を創造していくことの重要性は、私も否定しません。むしろ、宇宙における我々の存在の稀有さ、奇跡性を知ることは、この生をより大切にし、豊かに生きるための力となりうると、私は信じています。」


あすか:(深く頷きながら)「科学の光と影…宇宙の壮大さと、私たち自身の意識の謎…なんだか、知れば知るほど、分からないことの大きさも実感するような、不思議な感覚です。」(クロノスタブレットに表示された脳の複雑なネットワークを見つめる)「科学は私たちに多くの答えを与えてくれましたが、同時に、新たな、そしてより深い問いをも投げかけているのかもしれませんね…」


(科学という現代的な視点が提示され、それに対する信仰、哲学、そして生の肯定という立場からの応答が交錯する。意識の謎、科学と価値観の関係という根源的なテーマが浮かび上がり、スタジオには深い思索の空気が満ちる中で、ラウンド4が終了する)

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