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アフタートーク:星空の下の宴

(エンディングテーマ曲が終わり、画面が切り替わる。場所は同じスタジオかもしれないが、照明は暖色系で温かい雰囲気に。中央のテーブルには、先ほどまでの緊張感が嘘のように、色とりどりの料理や飲み物が豪華に並べられている。対談者たちも、少しリラックスした表情で席についている。)


あすか:「いやー、皆様、本当に白熱した議論、お疲れ様でした!頭を使うとお腹も空きますよね?実は今宵、皆様には、ご自身の時代や好みにちなんだ、とっておきのお料理をご用意いただいたんです!」(テーブルの料理を嬉しそうに見渡す)「これは豪華ですねー!早速ですが、どなたからご紹介いただけますか?」


イムホテプ:(威厳を保ちつつも、少しだけ表情を和らげ)「では、我から始めよう。」(テーブルの一角を示す。そこには、素朴な土鍋に入った豆の煮込み、平たいパン、デーツやイチジクなどが並んでいる)「これは『フル・メダンメス』。ソラマメを柔らかく煮込んだ、我が国では古くから食されている滋養ある料理だ。そして、こちらはデーツ(ナツメヤシの実)と蜂蜜を練り込んだパン『アイシュ・メラフラ』。ナイルの恵みであり、労働を支える力であり、神々への感謝を示す捧げ物ともなる。」


セーガン:(興味深そうに豆の煮込みを取り分け)「ほう、フル・メダンメス…レンズ豆ではなくソラマメですか。タンパク質が豊富そうですね。いただきます。」(一口食べ)「おお、優しい味だ。豆本来の甘みと、クミンなどの香辛料が効いていますね。パンも素朴で美味しい。」


プラトン:(パンをちぎり、煮込みにつけて食べる)「うむ、飾らない、大地の味がする。蜂蜜の自然な甘さも心地よい。イムホテプ殿、あなたの民が、これらを糧として、あの壮大な文明を築いたのですね。」


ニーチェ:(パンを無言で齧り、豆を少しだけ口にする)「フン、甘いな。だが…悪くない。腹は満たされる。」(意外にもパンをもう一口)


あすか:「次はどなたでしょう?プラトン様、お願いできますか?」


プラトン:「うむ。」(テーブルの別の区画を示す。そこには、オリーブオイルがかけられた魚介のマリネ、白いチーズ、焼き魚、そしてデキャンタに入った赤ワインが置かれている)「こちらは、我々の饗宴シュンポシオンでも供されたであろう品々だ。新鮮な海の幸をオリーブオイルとレモンで締め、山羊の乳から作ったチーズ(フェタチーズ)、そしてシンプルな焼き魚。重要なのは、食事そのものよりも、これを囲んで交わされる対話ディアロゴスなのだがね。」(ワインを皆に注ぐ)


ニーチェ:(ワイングラスを掲げ、香りを嗅ぐ)「ワインか、それは良い。対話には、時に潤滑油も必要だからな。」(一口飲み)「ふむ、悪くない酸味だ。」(マリネを口にし)「ほう、魚の生臭さが消え、爽やかだ。オリーブオイルとやらは、なかなか使えるな。」


セーガン:「まさに地中海式の健康的な食事ですね!新鮮な魚介類、良質なオリーブオイル…シンプルですが、素材の良さが際立っています。饗宴、楽しそうですね。どんな対話が?」


プラトン:(微笑んで)「愛について、善について、国家について…テーマは様々だよ。時には夜が更けるのも忘れ、真理を探求したものだ。」


イムホテプ:(焼き魚を静かに味わう)「ナイルの魚とは、また違う風味だな。海の香りがする。」


あすか:「哲学談義に花が咲きそうですね!さあ、次は…ニーチェ様!よろしくお願いします!」


ニーチェ:(待ってましたとばかりに、自信満々に自分の料理を示す。そこには、見るからにボリュームのあるソーセージの盛り合わせ、山盛りのザワークラウト、どっしりとした黒パン、そして大きなジョッキに入ったビールが鎮座している)「これぞ、ゲルマンの魂!大地の力だ!見よ、この腸詰ヴルストを!そして、このザワークラウト(発酵キャベツ)を!これらを食らい、この黒パンを齧り、この力強い麦酒ビールあおれば、どんな虚無にも、どんな運命にも、敢然と立ち向かう力が湧いてくるだろう!」(ビールジョッキを高く掲げる)


あすか:「わー!すごい迫力ですね!まさに力が湧いてきそうです!」


セーガン:(ソーセージを興味深そうに眺め)「ソーセージにも色々種類があるんですね。発酵食品のザワークラウトも、腸内環境に良いとされています。いただきます。」(ソーセージとザワークラウトを口にし)「おお、これは…!肉の旨味とスパイス、そしてザワークラウトの酸味が絶妙なバランスです!ビールが進みますね!」


プラトン:(黒パンを少し齧り、ソーセージを試す)「うむ、質実剛健、という言葉がふさわしい味だ。少々塩気が強いが、生命力を感じる。」


イムホテプ:(ビールには手を付けず、ソーセージを一切れだけ、やや警戒しつつ口にする)「……。独特の燻した香りだな。我が国の料理とは、随分と趣が異なる。」


ニーチェ:(満足げにビールを飲み干す)「フン、分からんか、神官殿。これこそが、生の肯定だ!」


あすか:「さあ、最後はセーガン様ですね!どんなお料理でしょう?」


セーガン:「ええと、私は現代アメリカから来ましたので…家庭でよく食べられる、アップルパイをご用意しました。」(綺麗に焼かれたホール状のアップルパイを示す)「まあ、私の専門は天文学ですが…(笑)。科学的な大発見の後など、仲間たちとこういう素朴なお菓子で祝うこともありました。リンゴとシナモンの香りには、どこか懐かしい、宇宙の片隅にある故郷の温かさを感じさせる…かもしれません。」(パイを切り分け、皆に勧める)


プラトン:(パイを一口食べ、目を細める)「ほう、これは…素朴で、心が安らぐ甘さだ。リンゴの酸味と生地の香ばしさが良い。」


ニーチェ:(意外にも美味しそうにパイを頬張る)「フン、甘い菓子か…だが、悪くない。このリンゴの煮具合、シナモンの加減…なかなか計算されているな。」


イムホテプ:(少しだけパイを口にする)「異国の菓子か。デーツの甘さとは違う、爽やかな甘みだな。」


あすか:「わー、美味しそう!私もいただいていいですか?」(セーガンが笑顔でパイを渡す)「ありがとうございます!んー!美味しいー!」


(和やかに食事を楽しみながら、雑談が始まる)


セーガン:「しかし、イムホテプ様、先ほどの議論でも少し触れましたが、あの巨大なピラミッドの建設は、本当に驚異的です。現代の技術でも容易ではない。当時の測量技術や労働力の組織化について、もう少し詳しく伺いたいです。」


イムホテプ:(少し得意げに)「フフ、それは国家機密でもあるが…まあ、ナイルの星々の運行を読む天文学、緻密な測量術、そして何より、ファラオへの忠誠と神々への信仰に燃える、我が民の団結力があればこそだ。」


プラトン:「ニーチェ殿、あなたは音楽にも造詣が深いと聞く。あなたの言う『超人』は、一体どのような音楽を好み、あるいは創造するのだろうか?やはり、ディオニュソス的な、情熱的で力強い音楽かね?」


ニーチェ:(目を輝かせ)「そうだとも!魂を高揚させ、大地を踏みしめさせ、生の悲劇性をも肯定させるような、力と深淵を兼ね備えた音楽だ!例えば、ワーグ…いや、よそう。彼は後に私を裏切った。」(少し不機嫌になる)


あすか:(話をそらすように)「セーガン様は、本当に宇宙に行かれたんですよね?月面歩行とか!」


セーガン:「ええ、直接ではありませんが、私の研究はアポロ計画にも貢献しました。人類が他の天体に降り立つというのは、まさにコロンブスの航海にも匹敵する、知の冒険でした。」


(話は尽きず、互いの時代への好奇心、収録の感想、あるいは些細な共通点などで、本編の激論が嘘のように和やかな(時に皮肉も交えつつ)時間が流れていく)


あすか:「いやー、美味しいお料理と楽しいお話、本当に時間はあっという間ですね!皆様の意外な一面も垣間見えて、すごく貴重な時間でした!」


(名残惜しい雰囲気の中、アフタートークが終了し、解散の時が近づく)


あすか:(カップに残った飲み物をゆっくりと飲み干し、ふぅ、と息をつく)「あー、本当に美味しくて、楽しい時間はあっという間ですね…。イムホテプ様のエジプト料理から、セーガン様のアップルパイまで、まるで食の世界旅行でした!それに、本編では聞けなかった皆さんの個人的なお話も、すごく興味深かったです。」(少し寂しそうな表情で)


あすか:「もっと皆さんの時代の暮らしや文化について、お伺いしたかったのですが…残念ながら、そろそろ本当にお別れの時間のようです。皆様を、それぞれの時代へお送りしなければなりません。」


(あすかの言葉を合図にしたかのように、スタジオに静かで美しい、星がキラキラと瞬くような効果音(SE)が流れ始める。天井からは、オーロラのような淡く、しかし神秘的な光がゆっくりと降り注ぎ始め、スタジオ全体を幻想的な雰囲気に包み込む)


あすか:「あ…クロノスが、時空の扉が開く準備ができたと告げています。」(少し名残惜しそうに対談者たちを見渡す)


イムホテプ:(最初にゆっくりと立ち上がり、他の三人とあすかに向かって、古代エジプト式の厳かな礼をする)「案内人殿、そして異邦の賢人たちよ。短い間であったが、興味深い時間であった。汝らの言葉、あるものは理解し難く、あるものは我が信念とは相容れぬものであったが…それぞれの道で、真理と思うものを探求し続けるがよい。」(プラトンに向かい)「哲学者殿、魂の探求、怠るな。」(ニーチェに向かい)「若き破壊者よ、その情熱を、混沌ではなく創造へ向けよ。」(セーガンに向かい)「科学者殿、星を数えるだけでなく、その奥にある秩序も見よ。」


イムホテプ:「さらばだ。マアトの光が、汝らの行く末を照らさんことを。」(彼の体を包む光が強まり、まるで砂嵐のように粒子となり、静かに掻き消えていく)


プラトン:(イムホテプが消えた空間を静かに見つめ、それから他のメンバーに向き直る)「…古代の知恵は、我々が失った何かを持っているのかもしれんな。」(穏やかに微笑む)「ニーチェ殿、君の激しい言葉の中にも、真理の欠片はあったように思う。セーガン殿、君の語る宇宙の壮大さは、私のイデア界への憧憬を新たにしてくれた。案内人殿、このような素晴らしい対話の機会を設けてくれたことに、改めて感謝する。」


プラトン:「良きディアロゴス(対話)であった。願わくば、それぞれの場所で、我々は真理の探求を続けようではないか。魂は不滅なのだから、あるいはまた、どこかのイデア界で再会できるかもしれぬな。」(彼の姿が柔らかな白い光に包まれ、次第に透明になっていき、静かに消える)


ニーチェ:(プラトンが消えると、腕を組み、フンと鼻を鳴らす)「イデア界だと?死んでもまだそんな寝言を言うか、あの男は!」(残ったセーガンとあすかに、挑戦的な視線を向ける)「科学者よ!星屑の計算にうつつを抜かし、生の躍動を見失うなよ!データではなく、意志こそが世界を動かすのだ!」「案内人!次があるならば、もっと骨のある、我輩と渡り合えるような狂人を呼ぶことだな!今回は少々、生ぬるかった!」


ニーチェ:「まあ良い!さらばだ!退屈はしなかったぞ!次に我輩が現れる時、世界はさらに我輩の思想に近づいているだろう!その時まで、せいぜい『超人』への努力を怠るなよ!」(閃光が一際強く輝き、まるで雷が落ちたかのように、彼の姿が一瞬で掻き消える)


セーガン:(ニーチェが消えた方向を見つめ、やれやれといった風に苦笑する)「…最後まで、嵐のような人でしたね。」(あすかに優しく微笑みかける)「あすかさん、そしてクロノス、本当に、本当に素晴らしい体験をありがとう。イムホテプ様の古代文明の深さ、プラトン先生の哲学の普遍性、そしてニーチェさんの…あの強烈なエネルギー。異なる時代の偉大な知性に触れることができ、科学者として、一人の人間として、これ以上ないほど刺激を受けました。」


セーガン:「私たちの探求の旅は、まだ始まったばかりです。宇宙にも、そして私たち自身の意識の中にも、解き明かされるべき謎は無限に広がっています。未来は不確かですが、知恵と勇気、そして互いへの思いやりがあれば、きっと乗り越えていけると信じています。」(手を振る)「さようなら。また、いつか、どこかの時空で。」(彼の体を優しい青い光が包み込み、まるで星屑が宇宙に還っていくように、静かに姿を消していく)


あすか:(一人になったスタジオで、賢者たちが消えていった空間を、名残惜しそうに、しかし穏やかな表情で見つめている)「……行ってしまわれたんですね。」(傍らのクロノスタブレットにそっと触れる)「まるで、壮大な夢を見ていたみたい…でも、彼らの言葉、彼らの情熱は、確かにここにありました。そして、きっと私たちの心の中に、これからも生き続けるはずです。」


あすか:(視聴者に向かって、深く、心を込めてお辞儀をする)「さようなら、偉大な賢人たち。そして、ありがとう。あなたの物語が、より豊かになりますように。」


(あすかの最後の言葉と共に、スタジオの光がゆっくりと消えていき、完全な暗転となる。静寂の中に、遠い星の瞬きのようなSEだけが、かすかに響いている)

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