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第94話 六月のランキング発表

冒険者たちの前で、六月のランキングが発表される。

一位となったのは果たして――?

 六月の月初めである。

 冒険者ギルドの前に、冒険者たちが詰めかけている。


 ギルドの正面扉から、ギルドマスター代理のギルガメッシュが姿を現すと、彼らから歓声が上がった。

 それに手を挙げて応えながら、ギルガメッシュはあえてゆっくりと歩を進める。


 掲示板に一枚の紙を広げると、ばん! と手のひらで叩いた。

「さあ! お待ちかねのランキングだ!」


 ギルガメッシュの言葉に、おおお、と歓声が上がる。


 そして、ランキング一位に記載された九階の文字を見て、更に大きな歓声を、詰めかけた冒険者たちはあげた。


 ついに来たか――と交わされる声。


「ギルバート伯のところは、先月の時点で、地下八階の踏破率がやばかったからな」

「神殿騎士たちの勢いもすごいぜ。なんせ、探索開始一か月で地下七階に到達してたんだから」


 どっちだ? と問う声がする。

 一位となったのは、ギルバート伯か、神殿か。


 やがて、ランキングを眺めていた冒険者の一人が気づく。

「ま、待て! ちがうぞ!」


「なんだって?」


「神殿騎士は三位だ。地下八階、踏破率八十パーセント」


「ギルバート伯は……二位だぞ! 地下九階に到達してるが、踏破率は、五パーセントだ!」


「じゃ、じゃあ、一位は誰だっていうんだ?」


 掲示されたランキングの前に立つ男が、そこにあった名前を読み上げる。


「ユート・サナダ……。地下九階の踏破率は……十パーセント」



 魔晶石の発掘中、ガルベスの叫び声を聞いた勇斗たちは、すぐに現場へ駆けつけたのだが、そこにガルベスの姿はなかった。


「どこに行った!?」


「待って!」

 焦って奥へ進もうとするノルムを、アンジェロが呼び止める。


「なんだ?」

 怪訝そうにして、ノルムは振り返る。


「それ以上、先に行ったらだめだ」


「どういうことだ?」


「落とし穴があるよ」


 アンジェロの言葉に、勇斗は先の地面を見やる。

 確かに、地面には違和感があった。妙に汚れているのである。

 それは、ダンジョン内の落とし穴――幻で作られた地面の特徴である。


「じゃ、じゃあ、ガルベスはそこに落ちたってことか?」


「多分、そうだと思う」


「……生きてると思うか?」


「正直、わからない。でも、生きてるなら助けないと」


 おーい! とノルムが地面に向けて呼びかけた。

 その様子は、少し滑稽である。


 下からの返事はない。


「行くしかないか……」


 ノルムが呟くと、シャーリーが勇斗を見ながら言った。


「勇斗、お願いできる?」


「まかせろ!」

 勇斗は、浮遊の魔法を皆にかける。ぽう、と青い光に皆が包まれた。

「これで大丈夫だ」


 ノルムとシャーリーは頷いた。

 地下七階までも、彼らは勇斗と一緒に、落とし穴ショートカットを使ってきたのである。浮遊魔法で、ダメージなく落とし穴を落下できることは、既に理解している。


 理解してはいるが、やはり飛び降りる瞬間は、足がすくむようである。

 二人は、ごくりとつばを飲み込むと、いくぞ! と気合を入れて足を踏み出した。


 勇斗とアンジェロが、その後に続く。


 落下。加速。そして減速。

 いつもの感覚のあと、地面に足を下ろした。


「ここって?」

 と、シャーリーが周囲を見回しながら問う。


 ノルムもまた、疑問交じりに言う。

「たぶん、地下九階……だよな?」


「たぶん……」

 と勇斗も言った。たぶんとしか言えないのである。


「ガルベスは……いないな。血痕みたいなのも見当たらない」


「生きてるんだわ! 探さないと!」


 シャーリーの言葉に、皆が頷いた。


「どうする? 手分けするか?」


「いや、二次遭難なんてことになったら最悪だ。皆で動くぞ」

 言いながら、勇斗は地図を取り出した。

 自動的に周囲の壁が書き込まれ、自分たちの位置もわかる、魔法の地図である。


「これがあれば、多少は安心だ。ガルベスを見つけて、できれば階段で上に向かいたいところだな」


 勇斗たちは、それから一時間ほど、ダンジョンを彷徨った。


 探索というような立派なものではない。

 モンスターに遭遇しては逃げ、逃げた先で別のモンスターに遭遇し、また逃げた。

 行き先を選ぶような余裕はなく、とにかく、危険の少なそうな方向に進んだ。


 ガルベスは見つからず、上へ向かう階段もない。

 勇斗は、自分が何をしているのかわからなくなっていた。


「もしかして……」

 アンジェロが、ふと言った。

「ガルベスって、そのまま落下死して、もう生き返ってるのかも……」


 あー、と皆が声を合わせる。

 すっかりその可能性を忘れていた。


 それであれば、ガルベスが見当たらなかったのも無理はない。


「いや、待て。生き返るとき、血痕って消えるのか?」

 勇斗は疑問に思って問いかける。


 それには、誰も答えられなかった。


「しかし、血痕が消えるんでなきゃ、落とし穴を落ちても、無傷だったってことになるが……」

 とノルムは言った。

「あの高さだぞ。そんなことありえるか?」


「どんだけガルベスが頑丈でもありえないか……」

 と勇斗は言った。

 高低差は、百メートルはあったのである。


「じゃあ、私たちがここに来たのって……無駄足?」

 シャーリーがため息をついた。


 そのため息は、皆に伝染する。


 四人が帰還の呪符を用いて地階に戻れば、果たしてそこには、心細げな表情を浮かべたガルベスが待っていたのであった。



「見て見て! ユート! 一位だよ!」


「なんだって俺の名前で登録してんだよ……」


「だって、ユートがうちのパーティのリーダーじゃん」


「嫌だって言ったのに……。俺なんか、ハズレ勇者で名が通ってるんだぞ……」


 実際、ランキングに掲載された名前から、その異名を思い出した者がいるようである。ひそひそと囁き交わされる声が、勇斗の耳にも聞こえる。


「だからいいんじゃん。汚名返上といこうよ!」

 アンジェロが満面に笑みを浮かべて、勇斗の肩を叩いた。


「なあ。おまえ、ユートだよな?」


 後ろから声をかけられて、勇斗は思わず身構えた。

 それが見知った顔であったので、少しだけ安堵する。


「覚えてるか? 輸送任務で一緒だった……」


「はい。その節は、お世話になったっす」


 名は思い出せないが、顔だけは覚えている。

 アンジェロと出会うことになったダンジョンでの輸送任務で、パーティリーダーをしていた男である。


「ランキング一位って、すごいじゃないか!」


「ありがとうございます!」


「いやあ、俺もあの後、貴族の雇われになったんだけど、ランキングには縁遠くてな。率直に言って、羨ましいよ」

 男は頷きながら言った。


「いやいや。俺なんか、たまたまっす」


「たまたまで出来ることじゃないだろう。俺も追いつけるように頑張るよ。じゃあな」

 言って、男は去っていく。


 それをきっかけに、次々と冒険者が声をかけてきた。


 皆が勇斗に祝いの言葉をかけ、去っていく。


 勇斗は、皆が去ってから、ぽかんとした表情を浮かべて立ちすくんだ。


「なんか、拍子抜けだ」

 と勇斗は言った。


「どうしたの?」

 とアンジェロが尋ねる。


「どうやって地下九階に行ったんだって、事細かに追及されると思ってたんだけど、全然そんなことなかったからさ」


 ぷっとアンジェロが噴出した。

「そんなこと気にしてたの? そんなの、聞いたって教えてくれるわけないんだから、わざわざ聞くわけないじゃん」


「そういうもんか? 本当のことを隠して、どう言い訳しようかなんて考えてたのは、無駄だったか……」


「そういうもんだよ。冒険者はお互いの秘密を尊重するんだ」


「なるほど。じゃあ俺も、アンジェロの秘密を尊重しないとな」


「ええっ!? 僕の秘密って……勇斗は知ってるの?」


「いーや。知らない」

 言うと、アンジェロは心の底からほっとした表情を浮かべる。


 勇斗は笑った。

 いつもより、ずいぶんと気分よく。

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