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第65話 出口がない!?

宝箱から聖女のメダルを集め続けるザムザは、転移の罠を発動させてしまう――。

 ――失敗した。


 そう思ったと同時に、ザムザの視界に光が満ちた。重力が消える。内臓がぐんにゃりと揺れた。

 一瞬のことである。


 すぐに光が失われて、身体の重さを感じた。

 視界が戻れば、そこは、当然ながらダンジョンであった。

 ただ、明らかに先ほどまで居た場所ではない。

 転移の罠が発動したのである。


 ザムザはぐるりと周囲を見渡す。正方形をした小部屋であった。物は何も置かれていない。正面と右手側の壁に、扉が一つずつあるだけである。

 幸いなことに、部屋に魔物はいなかった。

 すぐに死ぬような状況にはないことに、ほっと一息をつく。

 もちろん、まだ油断はできない。ここが何階かもわからないのである。


 ザムザはすぐに、荷物を検めた。

 背嚢の中の食料、水。腰に下げた布袋の中の、薬品類と、聖女のメダル。

 いずれも失われてはいない。


「食料と水は、食い詰めてあと五日くらいか。それで脱出できる程度の階層であればいいんだが……」


 いずれにしても、この部屋から出る必要があるだろう。

 ザムザは慎重に、正面の扉を開けた。


 そこには、先ほどいたのとほぼ同じ小部屋があった。違うのは、扉の位置だけである。今開けた後ろの扉と、もうひとつ、右側の壁に扉があった。

 選択肢は二つしかない。戻るか、進むか。

 ザムザは進むことを選んだ。右側の壁の扉を開ける。


 次の部屋は、先ほどと全く同じであった。いま開けた後ろの扉と、右側の扉。

 再び右側の扉へ。次の部屋も同じ。

 ザムザは、嫌な予感がした。


 次の扉を開けると、全く同じ小部屋に出た。

「まじかよ……」

 呟いて、ザムザは足元に聖女のメダルを一枚置いた。


 それから、先ほどと同じく、右側の扉をくぐる。

 扉を四回くぐったところで、ザムザは床に置かれた聖女のメダルを見つけた。

 やはり、元の場所に戻ってきている。


 ザムザは頭の中に地図を描いた。

 同じサイズの正方形の小部屋。それが二×二で正方に並んでいる。それぞれの部屋は扉でつながっているが――外にはつながっていない。

「なんだよ、ここは……」


 そう呟くザムザは知らない。

 この場所が、運営の水谷が作った、開発用のサンドボックスエリアであることを――。



 ザムザは一日をかけて、周囲の壁を調べて回った。わかったことは、シークレットドアの類は存在していないか、ザムザの能力では見つけられないということである。

 つまりここは、完全な閉鎖空間なのだ。


「まずい……」


 そのまま床にへたり込み、考えを巡らせた。

 どうする? どうすればここから出られる?

 何のアイデアも浮かばない。ザムザの心に恐怖がよぎった。この先には、飢えと緩慢な死が待っている。


 ふと、酒場で聴いた噂を思い出す。聖女のもたらしたダンジョンの奇蹟――蘇生術の噂である。

 曰く、ダンジョンで死んだ冒険者は、一人残らず、復活の間と呼ばれる小部屋で蘇生されるそうである。

 もしや、ここがその復活の間ではないだろうか。自分でも知らぬうちに、命を失っていたのでは?

 いや、噂では、扉を開けるとそのままダンジョンの外に出られるということであった。それに、祭壇があるとも言っていた。やはり、ここは復活の間ではないだろう。


 死ねば、ここから出られる……?

 蘇生の噂を信じるならば、そういうことになる。


 いや、とザムザは首を振る。信じられるわけがない。蘇生術は高価で、成功率の低いものなのだ。

 それに、噂ではこうも聞いている。蘇生して外に出るときには、ダンジョン内で取得したすべての物が没収されてしまうらしいのである。

 手元には、十日かけて集めた百枚近い聖女のメダルがある。これを失うわけにはいかない……。


 ザムザは、大きくため息をつき、顔をあげた。

 そこで――。

「えっ?」

 目を疑った。

 いつの間にか、眼前に宝箱が出現していたのである。



 この宝箱は、聖女のメダル入りの宝箱をダンジョンに配置するにあたって、テストのために水谷が配置したものである。

 宝箱の一定時間でのランダムポップ、メダル枚数のランダム化、転移を応用した宝箱へのメダル補充、更には罠のランダム設置などなど。

 宝箱の設置には、諸々の新規機能の追加が必要だったのである。

 その新規機能のチェックのため、サンドボックスエリアに置かれた宝箱――。

 それに、ザムザは一縷の望みを見出した。

 宝箱にもし転移の罠がかかっていれば……。

 少なくともここからは出られることになるのである。

 ザムザは立ち上がると、宝箱へ手を伸ばした。



 サンドボックスエリアに、ザムザが侵入していることに、運営は気づいていなかった。

 それどころではない問題が、彼らにも発生していたのである。



「聖女のメダルを買い取る商店が、街にできているようです」

 そう玲子に報告したのは、アンドリューである。


「まじ!? リアルマネートレードじゃん」


「りあるまねーとれーど?」


「ゲーム内アイテムを、現実の金銭で売買すること。元の世界では基本的に規約で禁止してるわね」


 玲子の言葉に、アンドリューは頷いた。

「なるほど。こちらでも、早急に禁止したほうがよろしいかと存じます」


「そう? 元の世界では、法律とかそのへんが面倒だから禁止してるんだけど、こっちの世界なら別に良くない?」


「売買自体は問題ないのですが……。実は一部の商店で、聖女のメダルを使って買い物ができるようになっております。メダル一枚が、聖四半金貨三枚相当になっておるようです」


「え? お金のかわりになってるってこと?」


「はい」


「すご。さすがにそれは予想外だわ」


「どうやら、それらの商店のバックには、ギルバート伯がおるようです。目的は、聖女のメダルを安く手に入れることで、課金アイテムを割安で手に入れることでしょう」


「あの貴族ならやりかねないわね……」

 玲子は考え込む。

「でも、攻略の一方法とも言えるわ。どうして禁止しないとまずいの?」


「それは……」

 アンドリューが言いかけたとき――。


「大変です!」

 アルスが飛び込んできた。

「神殿より緊急の呼び出しが!」


 ああ、とアンドリューが嘆息した。

「間に合いませなんだか……」


「なに? どういうこと?」


「聖女のメダルが、街中で金銭の代わりに使われているというのは報告の通りでございますが、これが大変にまずうございます」


「え? それがどうまずいの?」


「我々は神殿より、貨幣製造の責めを受けることになるでしょう……」


 その言葉で、玲子はこの世界の理を思い出す。

 あっ、と声が出た。


 アンドリューは言った。

「そうです。この世界の貨幣は、神が作りたもうたもの。人による貨幣の製造は、神殿によってしか許されておりませぬ」

次回更新は6/20です。

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― 新着の感想 ―
てっきり意図したおしおき部屋かと思ったら半ばバグだった、大変 物理で作っちゃうからーw
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