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第63話 手つかずの宝箱を見つけちまった!

勇斗とアンジェロは、ダンジョンで未開封の宝箱を発見する。

 勇斗とアンジェロのダンジョン探索は、地下四階に到達した。

 しかし、そこから先は難しそうである。


「実力的には、もう少し進めそうだけどね」


「帰還の呪符だけでも買えたらな……」


 地階で売っているアイテムは高額すぎて勇斗たちには手が出ない。そのため、充分な量の食料や水を持ち込む必要があるし、帰りも歩きである。荷物の量的に、二人ではこの辺りが限界だろう。

 モンスターの相手は問題ない。戦闘に慣れてきた勇斗と、そもそも戦力として優秀なアンジェロのコンビは、初級パーティの域はもう越えている。

 パーティメンバーを増やすという話は、今のところ出ていない。アンジェロがどう考えているかはわからないが、勇斗はそれをあまり望んでいない。以前よりましになってきているとはいえ、コミュ障気質は未だ変わらないのである。


 このところの二人の目的は、聖女のメダル集めである。

 例の土ゴーレムが、必ずメダルをドロップすることを、二人は発見した。土ゴーレムはどの階層にもいて、地下深くなるほど体が大きく、強くなる。それでも他のモンスターよりは弱く、地下四階のものでも楽に勝てる。


 勇斗は言った。

「要するに、あれは運営の救済手段なんだと思う」


「救済手段?」


「俺たちみたいに金のない冒険者がアイテムを買えるようにするために、メダルを配ってんだよ」


「えー。普通に配ってくれたらいいじゃん」


「まあ、そこはゲームだからな」


 そう、ゲームである。運営は、明らかにゲーム的な発想を下敷きにしている。

 もちろん、冒険者のダンジョン攻略を支援することが目的ではあるだろう。しかし、その方法はいかにもゲーム的なのである。

 同じ日本人として、勇斗もその気持ちはわかる。多くの現代日本人にとって、ゲームは最大の娯楽であるからだ。


 あっ、とアンジェロが声をあげる。

「ユート、見て! 宝箱だ」


 あれ? と勇斗は首をひねった。

「あんなとこに、宝箱なんてないはずだけどな」

 勇斗は地下六階までの地図が頭に入っている。ギルバート伯の所有していたそれには、宝箱の位置も描きこまれていた。

 ため息をつきつつ、勇斗は言った。

「まあ、どうせ中身は空だ」


「でも、蓋は閉まってるよ」


「蓋が閉まってても、空だよ。こんな目立つところにあって、誰も開けてないはずないだろ」


「それはそうかもしれないけどさ……」

 言いながらアンジェロは宝箱に向かって歩いていく。


 勇斗も黙ってその後ろをついていった。


 宝箱の前に立ったアンジェロが言った。

「さあユート。こないだ習得した魔法の出番だよ」


 なるほど、と勇斗は苦笑した。それが目的だったか。

 勇斗とアンジェロは、年末に魔法ギルドを訪れた。そこで、新たな魔法をいくつか習得していた。

 そのうちのひとつが、罠感知の魔法であった。勇斗とアンジェロは、経験上、罠の恐ろしさを心底知っているのである。

「どーせ中身は空だぞ。感知する意味なくないか?」


「いいんだよ。練習なんだから」


 はぁ、とまたため息をついて、勇斗は宝箱に手をかざした。

 呪文を唱える。


『隠された罠を感知せよ』

 左手で魔石を握りこみ、気を送った。

「ディテクト・トラップ」


 宝箱が赤く明滅する。赤い光は、罠の存在を示していた。明滅のパターンは、トン・ツー・ツー・トンである。すなわち――。

「毒ガスが仕掛けてあるな」


「やっぱり罠付きかー」

 言いながら、アンジェロは嬉しそうである。

「じゃ、解除してみよう!」


 そうくるよな、と勇斗は苦笑する。罠解除の魔法も、合わせて習得したのである。


 アンジェロが胸を張って言った。

「毒ガスなら、もし発動しちゃっても、僕の解毒魔法があるから大丈夫!」

 それはアンジェロが新たに習得した魔法である。二人とも、過去の失敗に学んでいた。


 ふう、と勇斗は息をつく。罠の解除は、運が悪いと罠を発動してしまうのである。少しだけ緊張する。


『罠を解除せよ』

 勇斗は呪文を唱えた。

「リリース・トラップ」


 ふっ、と赤色の光が消滅した。


「成功?」


「ああ」

 勇斗はほっと息をつく。


「やったー! じゃあ、開けてみよう!」

 アンジェロは、喜び勇んで宝箱を開けた。


 勇斗は笑った。

「ま、どーせ空だけどな」


 いや……とアンジェロが言った。

「入ってる……。中身があるよ!」


「うそだろ!?」

 いくら罠がかかっているとはいえ、こんな目立つところにある宝箱が、未開封であるはずがない。


 しかし、アンジェロが宝箱から取り出したそれを見て、勇斗は納得した。


 アンジェロは嬉しげな声をあげる。

「聖女のメダルだ! 十枚もある!」


 間違いない。運営の仕業である。


 アンジェロが中身を取り出すと、宝箱は空気に溶けるように消えた。

「消えた!?」


「宝箱の配置はランダムかな。しかし、配置場所はなんとなく推測できそうだ……。リポップ周期がわかったら、定期的に回収してまわるって手もあるな……」

 勇斗はぶつぶつと呟く。


「勇斗?」


「アンジェロ、ついてきてくれ。俺にちょっと考えがある」


 地下四階には、袋小路になっている通路が六か所ある。そのうちのひとつが、先ほど宝箱を見つけた場所である。ということは、残り五か所も宝箱出現ポイントの候補になっている可能性は高いのではないか。

 そこを巡れば、労せずして聖女のメダルを集めることができるかもしれない。

 勇斗はそう考えたのである。

 しかしその考えは、上手くいかなかった。


 何故ならそこには――先客がいたのである。



「近づくんじゃねえ! ここは俺の縄張りだ!」

 冒険者は剣を片手に叫んだ。

 粗末な装備である。そもそも安物であろうに、手入れも行き届いておらず、みすぼらしい。


 アンジェロがあきれたように言った。

「縄張りって……ここはダンジョンだよ! 誰のものでもないから!」


「うるせえ。どこで寝ようが、オレの勝手だろうが! 俺ぁ、あと一週間はここにいるつもりだからよ。余所を探すんだな!」


「え!? なんで!? ここに住んでるってことなの!?」

 アンジェロは、全く理解不能というように言う。


 しかし、勇斗には彼の行為の意味がわかった。

「リポップ待ちかよ……」

 苦笑してしまう。やはりここは、宝箱の出現候補地であるのだ。

 どのくらいの頻度で宝箱がリポップするのかは知るところではないが、彼はここでそれをじっと待ち、宝箱が出現するたびにメダルを回収しているのである。


「そこまでするかね……」

 勇斗は言って、しかし、聖女のメダルが街で買い取られていたことを思い出す。先ほど勇斗たちが手に入れたメダルは十枚。売れば、聖金貨八枚弱になる計算である。


 目の前の冒険者の気持ちはわかる。わかるが――。

「セコい……」

 とほほ、と言いたくなるようなため息をついてしまう。


 その声が聞こえたようで、男が激高する。

「う、うるせえ! なんとでも言え! 俺ゃあ、これで、嫁と子供を食わせなきゃいけねーんだ!」


「いや。働きましょうよ! いま建築ギルドは人手不足でかなり給金いいっすよ」


「なんだと! 冒険者がそんな仕事できるかぁ!」


「しょうもな……」

 と勇斗は言った。男には謎のプライドがあるようだが、建築ギルドの仕事より、この行為のほうが誇り高いとでも言うのだろうか。

「アンジェロ、いこうぜ」

 勇斗はもう一度ため息をついてから、男に踵を返して歩み去った。

次回更新は6/18です。

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