第62話 どっちつかずだよなぁ……
ダンジョン探索の合間に、建築ギルドで働く勇斗。そんな生活に、彼は思うところがあるようで――。
勇斗は、ダンジョンに行った翌日に一日休みをとり、更にその翌日は建築ギルドの仕事をした。
入場料が撤廃されたことで、ベルモントの街には多くの冒険者が押しかけている。宿はあっという間にいっぱいになり、多くの冒険者は郊外のテントで寝泊まりしていた。
建築ギルドは、西の宿屋地区の外周に、臨時の宿泊所を建築している。この世界の建物は基本的に石組であるが、それを作るには時間がかかる。急増した需要に対応するため、急造のログハウスを次々と建築していた。
「ユートは冒険者だから、ダンジョンに行くのは仕方がない」
と建築ギルドのマスターは勇斗に言った。
「しかし、正直なところ、もっとこっちを手伝ってもらいたいんだよな。給金も倍は出すからよ」
そうなれば、はっきり言ってダンジョンに潜るより稼ぎになる。勇斗の実力では地下三階がいいところで、そこで魔物を倒して得られる素材など、この街にはありふれたものである。ただでさえそうなのに、ダンジョンに潜る冒険者が急増したことで、ますますその価値は下落している。
反面、建築ギルドの工賃は上がり続けていた。既にギルドの仕事をして一年以上になるので、勇斗もそれなりの技術を身に着けている。おかげで、新人よりもいい給金を得ているのである。
アンジェロと約束した手前、勇斗は定期的にダンジョンに潜っているが、建築ギルドの仕事も続けたいと思っていた。お金のためである。
なんか、売れない芸人みたいだな……と勇斗は思った。
勇斗の現状になぞらえれば、冒険者のほうが芸道だろうか。副業のつもりでやっていた仕事が軌道に乗り、そちらが正業になっていくというのも、売れない芸人がよくエピソードトークで話す内容である。
もしかすると勇斗にとっては、建築ギルドの仕事がそれかもしれなかった。
「どっちつかずだよなぁ……」
丸太を抱えて、勇斗は呟いた。
「ユートって、冒険者もやってたよな?」
昼休憩で弁当を頬張っていると、隣に座った男に声をかけられた。ゴルドという建築ギルド所属の大工である。勇斗より十歳ほど年上で、職歴も十年になろうというベテランである。
「はい。そうっすけど」
答えつつ、一瞬身構えた。しかし、他の者ならまだしも、ゴルドの言葉に他意はないと思いなおす。嫌味を言うような人間ではないのである。
「聞いたんだけどな。なんか最近、ダンジョンでメダルが手に入るようになったんだって?」
「そうなんすよ」
「ユートも持ってるのか?」
「はい。こないだ一枚手に入れましたけど、一枚きりじゃ使いようがなくって」
「使いよう? 使うってどういうことだ?」
「ダンジョンに新しく店が出来たんですけど、そこでメダルとアイテムと交換できるんす。ただ、一番安いやつでもメダル二十枚がいるんで、もっと集めないと意味ないんすよ」
「なるほどなあ。そういうことだったのか……」
うんうん、とゴルドは頷いた。
勇斗は首をひねりつつ尋ねた。
「どうかしましたか?」
「いやな。最近、街にそのメダルを専門で買取する店が出来たらしくってな」
「えっ!」
「俺は骨とう品を集めるのが趣味なんだ。急に出てきたそのメダルなんてもんが、どんな価値があるのか気になってたんだが……。いや、そういう理由なら納得だ。俺の守備範囲外だな」
そう言ってまた、うんうん、と頷いた。
リアルマネートレードだ……と勇斗は思った。元の世界では、当然のように規約で禁止されている行為である。しかし、考えてみれば、この世界はゲームではないのである。
勇斗は、ごくりとつばを飲み込んで、ゴルドに尋ねた。
「ちなみに、メダル一枚はいくらで取引されてるんですか?」
「たしか……聖四半金貨三枚だったかな。まあまあいい値がするよな」
なるほど、と勇斗は頷いた。
アイテムと交換する際、聖女のメダル一枚は聖金貨一枚に相当する。それより、少し安い値で買い取っているということである。
というか……聖女のメダルをダンジョンで獲得して、街で売れば――。
「もしかして、ダンジョン探索一本で食っていける?」
「まってくれ! ユート!」
勇斗の呟いた言葉に、慌ててゴルドが言った。
「考えていることはわかるが、今はうちも大変なんだ! 頼むから考え直してくれ」
余計なこと言っちまった、と悔やむゴルドに、勇斗は苦笑した。
「大丈夫っす。こっちはこっちで、ちゃんとお手伝いしますから」
当面は、どっちつかずでいいだろう。
それはそれで、悪くない気がした。
次回更新は6/17です。




