第61話 変なゴーレムに遭遇しちまった!
勇斗たちは、地下一階で見たことのないゴーレムと遭遇する。
「ユート、めっちゃいい感じじゃん!」
アンジェロの言うとおりであった。
久しぶりのダンジョンであるにもかかわらず、勇斗は順調である。
覚悟が決まったというのもあるだろう。モンスター相手に、ひるむことがなくなった。正面から戦うことができているのである。
そしてなにより、一年にも及ぶ肉体労働と日々の鍛錬により、勇斗の体は明白に鍛えられていた。昔より、イメージ通りに体が動くようになっていたのである。
元より反射神経自体は悪くない。格闘ゲームも得意だったのである。
そうなれば、地下一階のモンスターなど、相手にならない。
「俺、成長してる!」
勇斗は喜びに打ち震えた。
レベルアップもない。パラメータもない。
それでも、人間は成長できるのである。
アンジェロが言った。
「これなら、地下二階に行けそうじゃない?」
「ああ。一階にはゴブリンがいるから、できれば避けたいところだしな」
ゴブタローについては、無事ダンジョンに帰したと、ギルガメッシュより聞いている。だとすれば、もうゴブリンは相手にできない。
勇斗たちは順調に、しかし慎重に、ダンジョンを進んでいく。
えっ? とアンジェロが言った。
「あれ、ゴーレム、だよね?」
アンジェロの指さす先にいたのは、確かにゴーレムであった。
勇斗は尋ねた。
「ゴーレムって、めっちゃ強いやつなんじゃなかったか?」
「地下五階とかにいるって聞いたことある」
とアンジェロは言った。
「でも、なんか聞いてたのとは違うっていうか……小さくない?」
「ああ、小さいな」
頭はなく、胴体に大きな顔がある。顔つきに恐ろしい感じはなく、むしろ愛嬌がある。
小柄なアンジェロよりも更に小さいその体は、ずんぐりむっくりして、かわいく感じるほどであった。
勇斗は呟いた。
「なんか、見たことあるような……」
それは聞こえなかったようで、アンジェロが言った。
「身体は、石じゃなくて、土みたいだね」
「ああ、土だな」
「なんか、弱そうじゃない?」
アンジェロの言葉に、勇斗は考え込む。頷きたいところではあった。
ややあって、勇斗は言った。
「でも、こんなやつ、前からいたか?」
「いないね。地下一階でゴーレムなんて見たことないよ」
「となると、初遭遇のモンスターってわけか……」
また勇斗は考え込む。
地下一階にいる時点で、強いはずがない。ゲームの常識的には、そのはずである。しかし、この世界はゲームではない。弱いと断じることはできなかった。
しかし、なぜ急に新モンスターなどが出現したのか?
そう考えたとき、勇斗は閃いた。
運営か!? 運営が配置したのか?
いやまて、とすぐに否定する。
どうして運営がダンジョンにモンスターを配置する? 運営の目的は、冒険者の支援ではないか。
「ユート!」
とアンジェロが叫んだ。
勇斗は思考の海から急浮上する。
飛来してきた土塊を、間一髪かわした。
「くそ! 見つかっちまったか」
土ゴーレムは、自らの口の中に手を入れて、土塊を取り出した。再びそれを、こちらに向けて放る。
緩慢な動作である。避けるのは容易い。
「とりあえず接近するよ! こっちには遠距離の攻撃手段がない!」
言ってから、アンジェロは前に駆ける。土ゴーレムとの距離が一気に詰まる。
アンジェロは正拳を放った。土ゴーレムのわき腹が抉れる。
「こいつ、脆いぞ!」
アンジェロから遅れて、勇斗もまた土ゴーレムの前に立つ。ゴーレムの緩慢なパンチをかわし、剣で一閃する。土ゴーレムは、腰の位置で両断される。
ゴーレムは、ごぼおああ、と奇妙な断末魔をあげてから土塊に変わり、その土塊もすぐに消えた。
「え? めっちゃ弱くない?」
とアンジェロが言った。
勇斗は頷く。
「このダンジョンで最弱だな」
勇斗は、最弱のモンスターというので思い出した。ファンサガの最弱モンスターも、土ゴーレムであった。ずんぐりむっくりして、愛嬌のある顔つき、頭はなく胴体に顔が……。
「え、これって、ファンサガのやつ?」
「ファンサガって?」
「そういうゲームがあったんだよ。こいつは、そこに出てくるモンスターに似てるんだ」
「へえ。前にもドラクエ? ってやつのセリフと同じって言ってたよね」
「そういえば、そうだったな」
勇斗は頷いた。ドラクエほどの国民的ゲームではないが、ファンサガもそこそこ人気があった。もしかすると運営にもプレイヤーがいるのかもしれない。なにせ、運営のメンバーは、勇斗と同じ日本人なのである。
いやまて、と勇斗は再び思う。
だから、どうして運営がモンスターをダンジョンに放ってるんだ?
そもそも、モンスターを作って配置できるなんてことがあるだろうか?
「勇斗、見て!」
とアンジェロが言った。
アンジェロの視線の先を、勇斗も見る。何かが落ちていた。
コインのようなそれを拾い上げる。表に彫られた肖像を見て、勇斗は呟いた。
「これって、例の聖女様か?」
「聖女のメダルだ!」
とアンジェロが言った。
「聖女のメダル?」
「冒険者の間で噂になってたの知らない?」
「知らない」
と勇斗は言った。アンジェロ以外の冒険者の知り合いはいないのである。
アンジェロは、はぁ、とため息をついた。
「地階に新しく店が出来たでしょ。そこで販売しているアイテムは、このメダルと交換できるんだよ」
その説明で、勇斗はピンときた。
「なるほど。こいつは、課金石なんだな」
「課金石?」
「そういうのがあんの。ゲーム内でしか使えないお金みたいなやつ」
そこでまた、勇斗の記憶が刺激される。
「そういえば、ファンサガの課金石は、龍のメダルだったな……」
手元のコインを矯めつ眇めつする。
「それでこいつが、聖女のメダル……」
どちらにも、運営サイドの人物の肖像が彫ってある。
「偶然だよな……?」
と勇斗は呟いた。
地階に戻った勇斗たちは、さっそく聖女のメダルをもって店に向かった。
ダンジョンの店に置いてあるアイテムは、ダンジョンから出ると消えてしまう。そのため、いま購入するわけではなく、メダルとアイテムの交換レートの確認のためである。
帰還の呪符、聖女のメダル五十枚。
アイテム召喚、送還の呪符、聖女のメダル二十枚。
全回復ポーション、聖女のメダル二十枚。
「要するに、メダル一枚が聖金貨一枚相当なわけか」
「みたいだね」
「てことは、これ一枚で建築ギルドの半日分…」
「ははは。ここでしか使えないから、そうはならないけどね」
店の前に立ち会話する勇斗たちの横で、立派な身なりをした冒険者が、店員の前にじゃらっとメダルを置いた。
「交換だ。帰還の呪符をたのむ」
「あいよ!」
と店員は愛想よく言って、メダルに手をかざした。メダルの一枚一枚が、緑色の光を放った。
優斗は小声でアンジェロに尋ねた。
「あれはなんだ?」
「わかんないけど、たぶん真贋を確認してるんだと思う」
なるほど、と勇斗は頷く。
アンジェロがため息とともに言った。
「それにしても、いいなー。帰還の呪符」
「たしかに、めっちゃ便利だよなぁ」
「五十枚集めれば、僕たちもあれが買えるんだね」
「一枚じゃ何にもならねーな」
「頑張って集めよう!」
決意したように言うアンジェロに、勇斗は笑って頷いた。
次回更新は6/16です。




