表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/91

第61話 変なゴーレムに遭遇しちまった!

勇斗たちは、地下一階で見たことのないゴーレムと遭遇する。

「ユート、めっちゃいい感じじゃん!」


 アンジェロの言うとおりであった。

 久しぶりのダンジョンであるにもかかわらず、勇斗は順調である。


 覚悟が決まったというのもあるだろう。モンスター相手に、ひるむことがなくなった。正面から戦うことができているのである。

 そしてなにより、一年にも及ぶ肉体労働と日々の鍛錬により、勇斗の体は明白に鍛えられていた。昔より、イメージ通りに体が動くようになっていたのである。


 元より反射神経自体は悪くない。格闘ゲームも得意だったのである。

 そうなれば、地下一階のモンスターなど、相手にならない。


「俺、成長してる!」

 勇斗は喜びに打ち震えた。


 レベルアップもない。パラメータもない。

 それでも、人間は成長できるのである。


 アンジェロが言った。

「これなら、地下二階に行けそうじゃない?」


「ああ。一階にはゴブリンがいるから、できれば避けたいところだしな」

 ゴブタローについては、無事ダンジョンに帰したと、ギルガメッシュより聞いている。だとすれば、もうゴブリンは相手にできない。


 勇斗たちは順調に、しかし慎重に、ダンジョンを進んでいく。


 えっ? とアンジェロが言った。

「あれ、ゴーレム、だよね?」


 アンジェロの指さす先にいたのは、確かにゴーレムであった。

 勇斗は尋ねた。

「ゴーレムって、めっちゃ強いやつなんじゃなかったか?」


「地下五階とかにいるって聞いたことある」

 とアンジェロは言った。

「でも、なんか聞いてたのとは違うっていうか……小さくない?」


「ああ、小さいな」

 頭はなく、胴体に大きな顔がある。顔つきに恐ろしい感じはなく、むしろ愛嬌がある。

 小柄なアンジェロよりも更に小さいその体は、ずんぐりむっくりして、かわいく感じるほどであった。


 勇斗は呟いた。

「なんか、見たことあるような……」


 それは聞こえなかったようで、アンジェロが言った。

「身体は、石じゃなくて、土みたいだね」


「ああ、土だな」


「なんか、弱そうじゃない?」


 アンジェロの言葉に、勇斗は考え込む。頷きたいところではあった。

 ややあって、勇斗は言った。

「でも、こんなやつ、前からいたか?」


「いないね。地下一階でゴーレムなんて見たことないよ」


「となると、初遭遇のモンスターってわけか……」

 また勇斗は考え込む。

 地下一階にいる時点で、強いはずがない。ゲームの常識的には、そのはずである。しかし、この世界はゲームではない。弱いと断じることはできなかった。


 しかし、なぜ急に新モンスターなどが出現したのか?

 そう考えたとき、勇斗は閃いた。


 運営か!? 運営が配置したのか?


 いやまて、とすぐに否定する。

 どうして運営がダンジョンにモンスターを配置する? 運営の目的は、冒険者の支援ではないか。


「ユート!」

 とアンジェロが叫んだ。


 勇斗は思考の海から急浮上する。

 飛来してきた土塊を、間一髪かわした。


「くそ! 見つかっちまったか」


 土ゴーレムは、自らの口の中に手を入れて、土塊を取り出した。再びそれを、こちらに向けて放る。

 緩慢な動作である。避けるのは容易い。


「とりあえず接近するよ! こっちには遠距離の攻撃手段がない!」

 言ってから、アンジェロは前に駆ける。土ゴーレムとの距離が一気に詰まる。


 アンジェロは正拳を放った。土ゴーレムのわき腹が抉れる。

「こいつ、脆いぞ!」


 アンジェロから遅れて、勇斗もまた土ゴーレムの前に立つ。ゴーレムの緩慢なパンチをかわし、剣で一閃する。土ゴーレムは、腰の位置で両断される。

 ゴーレムは、ごぼおああ、と奇妙な断末魔をあげてから土塊に変わり、その土塊もすぐに消えた。


「え? めっちゃ弱くない?」

 とアンジェロが言った。


 勇斗は頷く。

「このダンジョンで最弱だな」


 勇斗は、最弱のモンスターというので思い出した。ファンサガの最弱モンスターも、土ゴーレムであった。ずんぐりむっくりして、愛嬌のある顔つき、頭はなく胴体に顔が……。

「え、これって、ファンサガのやつ?」


「ファンサガって?」


「そういうゲームがあったんだよ。こいつは、そこに出てくるモンスターに似てるんだ」


「へえ。前にもドラクエ? ってやつのセリフと同じって言ってたよね」


「そういえば、そうだったな」

 勇斗は頷いた。ドラクエほどの国民的ゲームではないが、ファンサガもそこそこ人気があった。もしかすると運営にもプレイヤーがいるのかもしれない。なにせ、運営のメンバーは、勇斗と同じ日本人なのである。


 いやまて、と勇斗は再び思う。

 だから、どうして運営がモンスターをダンジョンに放ってるんだ?

 そもそも、モンスターを作って配置できるなんてことがあるだろうか?


「勇斗、見て!」

 とアンジェロが言った。


 アンジェロの視線の先を、勇斗も見る。何かが落ちていた。

 コインのようなそれを拾い上げる。表に彫られた肖像を見て、勇斗は呟いた。

「これって、例の聖女様か?」


「聖女のメダルだ!」

 とアンジェロが言った。


「聖女のメダル?」


「冒険者の間で噂になってたの知らない?」


「知らない」

 と勇斗は言った。アンジェロ以外の冒険者の知り合いはいないのである。


 アンジェロは、はぁ、とため息をついた。

「地階に新しく店が出来たでしょ。そこで販売しているアイテムは、このメダルと交換できるんだよ」


 その説明で、勇斗はピンときた。

「なるほど。こいつは、課金石なんだな」


「課金石?」


「そういうのがあんの。ゲーム内でしか使えないお金みたいなやつ」


 そこでまた、勇斗の記憶が刺激される。

「そういえば、ファンサガの課金石は、龍のメダルだったな……」

 手元のコインを矯めつ眇めつする。

「それでこいつが、聖女のメダル……」

 どちらにも、運営サイドの人物の肖像が彫ってある。


「偶然だよな……?」

 と勇斗は呟いた。



 地階に戻った勇斗たちは、さっそく聖女のメダルをもって店に向かった。

 ダンジョンの店に置いてあるアイテムは、ダンジョンから出ると消えてしまう。そのため、いま購入するわけではなく、メダルとアイテムの交換レートの確認のためである。


 帰還の呪符、聖女のメダル五十枚。

 アイテム召喚、送還の呪符、聖女のメダル二十枚。

 全回復ポーション、聖女のメダル二十枚。


「要するに、メダル一枚が聖金貨一枚相当なわけか」


「みたいだね」


「てことは、これ一枚で建築ギルドの半日分…」


「ははは。ここでしか使えないから、そうはならないけどね」


 店の前に立ち会話する勇斗たちの横で、立派な身なりをした冒険者が、店員の前にじゃらっとメダルを置いた。

「交換だ。帰還の呪符をたのむ」


「あいよ!」

と店員は愛想よく言って、メダルに手をかざした。メダルの一枚一枚が、緑色の光を放った。


優斗は小声でアンジェロに尋ねた。

「あれはなんだ?」


「わかんないけど、たぶん真贋を確認してるんだと思う」


 なるほど、と勇斗は頷く。


 アンジェロがため息とともに言った。

「それにしても、いいなー。帰還の呪符」


「たしかに、めっちゃ便利だよなぁ」


「五十枚集めれば、僕たちもあれが買えるんだね」


「一枚じゃ何にもならねーな」


「頑張って集めよう!」


 決意したように言うアンジェロに、勇斗は笑って頷いた。

次回更新は6/16です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ