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第60話 課金石を作ろう!

課金石製作のため、玲子は城内の工房に赴く。

「それでしたら、城内の工房で制作したらいかがでしょう?」

 メダルの制作についてアルスに相談したところ、すぐにそう提案された。


「城内の工房? そんなのがあったの?」

 初耳である。確かにこれまで、玲子たちには用のなかった場所ではある。


「普段は、城内の鉄製品のメンテナンスをしています。職人の腕はいいので、多少は複雑な意匠のものも作れると思います」


「それはいいわね! 格安でやってくれるかしら?」


「給金はアンドリュー様から出ていますけど、作業量によっては追加で支払いが必要かもしれませんね」


「そうよね。あんまり出せないと思うんだけど……」


「ひとまず、工房長にお会いになりますか?」


「そっか、城内だもんね。だったら、とりあえず会ってみたいわ」


「ではこちらへ」


 アルスに案内された場所は、城の庭であった。そこにある一戸建ての小屋に、玲子は見覚えがある。

 見れば、煙突から煙が上がっていた。


「ここが工房なのね!」

 見かけた覚えこそあるものの、中に入ったことはなかった。


「ボルヘス殿! いらっしゃいますか!」

 入口でアルスが呼ばわると、すぐに扉が開いた。中から熱気が噴き出してくる。


「あっつ!」

 と玲子は言った。


 工房から出てきた人物が玲子を見る。おそらく彼がボルヘスであろう。


「なんだ? 運営の聖女様じゃねえか。俺に何か用かい?」


 あの熱気の中、ボルヘスは汗ひとつかいていない。

 かなり背は低いが、がっしりとした体つきである。袖口から除く腕は、玲子の何倍あるだろうか。

 そして、顔を覆うような長い髭とくれば――。

「ドワーフ!?」


「なんだ、嬢ちゃん。ドワーフを見るのは初めてか?」

 がはは、とボルヘスは笑った。

「まあ、俺たちゃ、あんまり城中へは行かねえからな。ほとんどこの工房の中だ」


「工房があるというのも知らなかったわ」


「で、聖女様が何の用だ?」


「その、聖女様ってのはやめてくれる? 私は橘玲子。レーコでも、タチバナでも、どっちで呼んでも構わないわ」


「わかった。じゃあ、レーコって呼ばせてもらうかな。俺のこともボルヘスでいいぜ。かたっ苦しい貴族言葉なんざ苦手でな」


「オッケー。よろしく、ボルヘスさん」

 玲子はボルヘスに手を差し出す。握り返した手のひらは、とても堅かった。職人の手である。


 玲子は言った。

「今日はお願いがあってきたの。メダルを作ってほしい」


「メダル? どんなやつだ?」


 玲子は懐から二枚の紙を取り出す。一枚は制作するメダルの仕様書。もう一枚は北條の描いた玲子の肖像画である。


「へえ、こいつはべっぴんさんだ! よく描けてるじゃねえか」

 肖像画を見たボルヘスが感嘆の声をあげる。


 玲子は赤面した。

 この絵を見たメルルの反応も、ボルヘスと同じであった。彼女の場合は、もっと大げさであったが。


 気を取り直して玲子は言った。

「寸法通りにメダルを作成して、その片面にこの肖像を刻印してほしい。裏面は無地でいいわ」


「メダルの寸法は、どのくらいの精度がいる?」


「だいたいで大丈夫。全く同じにする必要はないわ」


「肖像は……このままでもいけそうだが、多少は簡略化したほうがいいかもな」


「それはお任せする」


「刻印の精度も、だいたいでいいか?」


「ええ。でも、あまり個体差が出すぎない感じにはしてほしい」


「なるほど。どんくらいの数を作る予定だ?」


「そうね……」

 と玲子は頭の中で計算する。

 メダル一枚を聖金貨一枚相当と考えると、月の配布は、売り上げの十パーセント程度だろうか。だとすると……。

「月に三千枚くらいかしら」


「そりゃ相当な数だな!」


「もちろん、数に応じて、こちらからある程度の報酬はお支払いします」


「それは別にいいや。俺たちはアンドリューさんに俸禄をもらってるからな。片手間でやってやるよ」


「えっ! 片手間でやれる数?」


「できるさ。そんなに精度がいらねえってんなら、工房の若手の練習にぴったりだ。もちろん、材料費とかそのへんは出してもらうがな」


「ええ。それはもちろん」


「それだけの数を作るってことは、彫金細工じゃ回らねえな。てことは、型打ち鍛造だな」


「型打ち鍛造?」


「硬い金属で作った型にメダルを置いて、ハンマーで叩きつけるんだ。同じ意匠のもんを複数作るには、こいつが具合がいいだろう」


「なるほど。作り方もお任せします」

 玲子にとっては完全なる専門外である。ボルヘスの言う通りで構わない。


「で、材料はどうする? あまり硬い金属だと、型がすぐ潰れちまうから、やわらかめの金属がいいんだが」


「やわらかめの金属って、どういうもの?」


「まず金だな。それから銀。鉛は柔らかすぎるな。錫なんかでもいいかもだが、まあメダルなら金か銀だろう」


「ちなみにお値段は?」


「金が一キロで聖金貨二千枚、銀なら一キロで聖金貨二十枚ってところだな」


「銀でお願いします!」

 百倍違うのなら選択の余地はない。製造原価はできる限り安くしたいのである。

「ちなみに銀一キロから、メダルは何枚くらい作れるの?」


「直径が三センチ、厚さ五ミリだから……だいたい二十五枚強か」


「じゃあ三千枚作るには……百二十キロも必要なの!? ええと……聖金貨二千四百枚も原価にかかる!?」


「……ちなみに銅なら一キロで聖金貨二枚ってとこだ。一キロから三十枚くらいは作れる。見栄えは悪くなるがな」


「銅でお願いします!」

 見た目で価値を与えるものではない以上、そこに費用を充てたくないのである。


 ボルヘスがあきれ顔で言った。

「自分の肖像が刻印されるんだろ? もっと豪勢にしたいとか思わないのかねえ」


「ぜんっぜん思わない。ていうか、私の肖像とか本当は勘弁してほしい」


「はははは。レーコは謙虚なんだな。気に入った」

 玲子の背中を、ボルヘスが笑いながら叩いた。一瞬、息が詰まるほどの強い力であった。

次回更新は6/13です。

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