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第50話 課金アイテムなに作る?

運営メンバーは、課金アイテムの検討を進めていく――。

 北條が尋ねた。

「で、玲子ちゃん的には、残りのアイテムで優先したいものってある?」


「そうねぇ……」

 と言って、玲子は企画書を眺めた。

 作成候補のリストには、こうある。


 ・帰還アイテム

 ・食料アイテム

 ・結界アイテム

 ・全回復ポーション

 ・軽量化アイテム

 ・ステータスブースト

 ・マジックバッグ

 ・装備(指輪)


 リストの最上位に書いてある帰還アイテムは、既に作ることを決めている。

 あとは、何を優先的に作っていくかである。


 玲子は言った。

「食料アイテムは、いろんなパーティから要望があった。できれば作りたいと思うんだけど……どうやって作るか、とっても難しいわね」


「橘さんは、どういう感じのものをイメージしてるんですか?」

 と水谷が尋ねた。


「たとえば、呪符を起動したら、温かくておいしいごはんが召喚される、みたいな」


 北條が笑って言った。

「そんな、ドラえもんの秘密道具じゃないんだから」


「そのごはんは、ダンジョンの魔法で作るってことですか? 食べて、空腹が満たされて、ちゃんと栄養になるって意味ですよね?」

 そう言って、水谷は眉を顰める。

「さすがに難しいかもしれません……」


「そうよね……。でも、それ以外に方法を思いつかないし……」


「たとえば、出来合いの料理をどこかから転移する形なら、簡単に作れるなと思ったんですが……」


 なるほど! と玲子は唸る。

「その発想はなかったわ」


 感心する玲子に、北條がツッコミを入れた。

「ていうか、それってただの出前じゃん!」


「あれ? 本当だ!?」


「どうします? 転移魔法を使った出前システム作ることになりますけど……」


 水谷の言葉に、少し考えこみつつ、玲子は言った。

「それも、ありっちゃあ、ありなんだけど……。そうなると今度は、オペレーションの問題が出てくるわね」


「オペレーションって?」


「配膳は転移魔法でいけるけど、注文受けて、調理するところは人力になるでしょ。食事の時間帯に注文が殺到することを考えると、それを調理人が時間内に捌けるかっていう問題が出てくるわ」


 北條が尋ねた。

「玲子ちゃん、飲食の経験あるの?」


「昔、バイトでね」


 水谷が言った。

「ていうか、調理人って誰ですか?」


「誰か雇うしかないわよね。まあ、伝手があるのは、うちのお城の料理人くらいだけど……」

 玲子は考え込む。

「これはアイテム単体でどうこう言ってもしようがないわね。もし、出前システムを作るとしたら、どのくらいかかる?」


「すぐできますよ。二日もあれば大丈夫でしょう」


「まあ、そんなもんか」

 しかし問題は、それ以外のところにある。

「このアイテムは、できたらやる程度に考えましょう。私のほうで動いてみるわ。一旦、保留で」

 すぐに結論の出る問題ではなさそうである。


 北條が言った。

「他には?」


「冒険者には受けが悪かったんだけど、結界アイテムは需要があると思う。絶対に魔物が侵入できない、完璧な結界であれば、という条件付きだけど」


 水谷が言った。

「それなら割と簡単に作れますね。トイレに設定したのと同じ結界を、アイテムにすればいいんです」


 ダンジョンの魔法で、特定のキャラクターを対象に、特定エリアへの入出場を制限できる仕組みがあるのである。フロアの階段や、先日作ったトイレには、魔物が侵入できない設定がなされている。


 北條が尋ねた。

「冒険者には、なんで受けが悪いのかな?」


「そもそもが、結界自体にいい印象がないみたいなの。だから、うちがどれだけ信頼性があるって言って売っても、信じてもらえないかも」


「商材としての潜在価値はありそうだけど、売れるかどうか未知数ってことね」

 と言って、北條は腕を組んだ。


「よろしいでしょうか?」

 とメルルが手を挙げる。


 どうぞ、と玲子はメルルを促した。

「結界の使用は、野営時をイメージされていますか?」


「ええ。その通り」


 玲子の返答に、メルルは頷く。

「冒険者は、野営時に結界を使うことはほとんどなく、その代わりに不寝番を置きます。だいたい、数時間おきに交代で、一人が起きているイメージです」


「そうみたいね。結界は信用ならないとかで。だから、完璧な結界さえあれば、その不寝番がいらなくなると思うのだけど」


「いえ。それはおそらく難しいかと存じます」


「えっ、どうして?」


「命が懸かっているからです。結界が百パーセント安全だと言われたとしても、リスクを考えればそれを完全に信じることはできません。念のために不寝番は置くでしょう」


 あっ、と玲子は声をあげる。

 メルルの言うことは、たしかに正しい。

 蘇生術があるとはいえ、死のリスクは最大限に避けたいものである。


「そうなると、わざわざ高価な結界アイテムを買うまでもない……か。うん、この案は棄却しましょう」

 売れないものをわざわざ作る必要はないのである。


 北條が言った。

「じゃあ、他は何がいいかな? この、全回復ポーションってやつはわかるけど、軽量化アイテムっていうのは?」


「荷物を軽量化したいって要望が結構出たのよね。所持品の重量を軽くする魔法とか、なにかできないかなと思って」


「既存の魔法にないの?」


「ないらしいわ。だから要望で出ているわけで」


 水谷が尋ねる。

「フェリスさん、どうでしょう?」


「浮遊魔法……重力操作……などで、出来ないことはないか。うーむ、目的に対して少々、やりすぎの感があるのう」


 北條が言った。

「そもそも、冒険者がそれを欲しいって言ってるのは、荷物を楽に運びたいってことだよね」


「そうね。そうだと思う」


「だったら、軽量化にこだわる必要もないんじゃない? 楽に運べればいいっていうことだけなら、他の方法も考えられるよ」


「そっか。荷物運搬用の召喚獣とかでもいいわけね」


「まあ、それもやりすぎ感あるけど」


 水谷が言った。

「だったら、ダンジョン内配送サービスとかどうでしょうか? これも転移を使えば簡単に作れます」


「さっきの出前と同じじゃん! でも、外部オペレーションが不要な分、こっちは実現性が高いわね」

 少し考えこんだ玲子が、あっと声をあげる。

 これ! と指さしたのは、企画書にある、マジックバッグの文字である。

「一応、案としては出しておいたけど、実現性が疑問だったの。転移を使えばいけるかもしれない」


 水谷が尋ねた。

「マジックバッグっていうのは、どういったものなんですか?」


「いっぱい物を入れられるバッグ。中身の重量も無視できるとなおいい。ドラえもんの四次元ポケットをイメージしてもらえるとわかりやすいかも」


「てことは、バッグの入り口が、どっか別のところに繋がっている感じですか?」


「そう。本当に四次元空間みたいなやつを魔法で作ることを考えてたんだけど、転移魔法を流用するなら、ダンジョン内に倉庫を作っちゃえばいいのよ」


「マジックバッグを使うことで、倉庫にアイテムを入れたり出したりできるっていう感じでしょうか? どうやって対象物を指定するかが課題ですが、それ以外のところは実現性が高そうですね」


「でしょう?」


 北條が言った。

「いっそのこと、バッグじゃなくしてもいいかもね。アイテム召喚の呪符とかでもいいわけでしょ?」


「そうですね。召喚対象を文字で書きこんで指定させられますし、呪符のほうが都合がいいかもしれません」


「なるほど。バッグだと繰り返し使えちゃうしね。呪符であれば使う分だけ買ってもらえるから、商売的にもそっちがいいかも」

 玲子は頷いた。

「じゃあ、これも制作候補としましょう」

 

 他のアイテムについても一通り検討して、リリース時点でのアイテムラインナップは、以下に決まった。並び順がそのまま、制作優先度である。


 ・帰還の呪符

 ・アイテム召喚、送還の呪符

 ・全回復ポーション

 ・(できれば)食事出前の呪符


「とりあえず、各アイテムの概要は今日中にまとめるけど、仕様書の作成は三日ちょうだい。その間に、北條と水谷は、あらためて各工程の見積もりをお願い。それを元にスケジュールを引くわ」


 玲子は、ぱん、と大きく手を打った。

「年が明けると同時に、入場税を撤廃する。それまでに、可能な限り課金アイテムを準備するわ。頑張っていきましょう!」


 玲子の言葉に、皆が決意を込めて頷いた。

いろんな意見が出るのはいい会議です。

次回更新は5/30です。

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