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第44話 尾籠な話で恐縮ですが

玲子たちはダンジョンのトイレ設営計画について検討する――。

 古城の会議室である。


 さて、と玲子は皆を前にして言った。

「ダンジョンに公衆トイレを作るにあたって、三つの課題があります」


 指を一本立てる。

「まずはひとつめ。便器や洗面台などのオブジェクトをどう用意するか」


 もう一本指を立てる。

「ふたつめ。公衆トイレ設置を、冒険者にどう説明するか」


 また一本を立てる。

「みっつめ。清掃をどうするか」


 はい! と水谷が手を挙げる。


 びっ、と玲子が水谷を指して言う。

「はい。水谷くん」


「みっつめなんですが、ダンジョンには自浄作用があるという話でしたよね。それじゃダメなんですか?」


「ダメです!」

 と玲子は言った。

「三日間も汚物がそのままとかありえません!」


「なるほど」

 と言って、水谷は考え込む。

「どのくらいの頻度で浄化されれば、玲子さんは納得できます?」


「そうね……。できれば、すぐにでもと言いたいところだけど、それが難しいようなら、便器の下に汚物槽になる空間を作るとして、半日に一回くらいは浄化してほしいところだわ」


「半日ですか……。浄化に関する魔法のモジュールを調査してみますが、どうなるかは未知数ですね……」


 北條が言った。

「とはいえ、ダンジョンでのことだから、清掃員を雇うというのも現実的ではないもんね」


「そうね。他に方法はないかしら?」


 玲子の問いに、フェリスが答える。

「自然界の掃除屋と言えば、スライムなぞが考えられるな」


「スライム?」


「うむ。あやつらは小動物を食らったりもするが、基本的にはスカベンジャーじゃ。主に死体を食らって生きておる。排せつ物なども捕食対象のひとつじゃな」


 うーん、と玲子は考え込んだ。

 トイレにスライムがいる状況を想像する。


 普通に怖かった。


「それはさすがに無理なんじゃ?」


 水谷が頷く。

「誰もトイレを使えなくなりますね……」


 北條が言った。

「ていうか、そもそも、トイレに魔物が入ってこないようにしないとじゃない?」


「たしかに! 徘徊している魔物が入ってくるようじゃ、おちおち用も足していられないわね」

 うーん、と玲子は考え込む。

「結界的なものが必要になるか……。ダンジョン魔法で、そういったものはあるかしら?」


「魔物を侵入できないようにすることはできますよ」

 水谷はあっさりと答えた。


「え!? できるの?」


「はい。ダンジョンの各エリアで、キャラクターの属性ごとに、侵入可否の設定ができます」


「キャラクター?」


「あ、すみません。僕がそう呼んでいるだけですけど、冒険者とか、魔物とか、魔族とかのことです。ダンジョンマップに、三角とか丸とかのマーカーで示されるものですね」


 確かにゲーム開発では、プレイヤーの操作するモデルをプレイヤーキャラクターと呼んだりする。玲子は納得して頷いた。

「ていうか、そんな設定できるんだ?」


「現在、各階層の階段は、魔物だけが侵入できない設定になっています。それと同じものを、トイレに設定すればいけるはずです」


「それじゃ、その方向でよろしく」


 水谷が改めて尋ねる。

「トイレ清掃のほうはどうしましょう?」


 うーん、と玲子は考え込んだ。

「どうにかして、ダンジョン浄化のしくみを使うしかなさそうね。水谷、悪いけど、こっちも頑張ってくれる?」


「わかりました。やってみます」


 北條が言った。

「で、便器とかのオブジェクトはどうする? 俺たちで作るの?」


 玲子は答えた。

「そこは正直、出来合いのものを市場で買ってきてもいいとは思ってる。その場合、ダンジョンに搬入しないといけないけど」


 水谷が言った。

「搬入は、テレポーターを使ってやれなくはないです。でも、折角ですから、ダンジョン魔法で作ってしまいたいですね」


「でも、できる?」


「こんなこともあろうかと!」

 水谷が胸を張りつつ言った。

「――準備しておきました!」


「まじで!? 水谷って、もしかしてヤマトの真田さん!?」


「課金アイテムを作るにあたって、ダンジョン内でアイテムを生成する必要がありましたので、研究を進めていたんです。既に実証段階まで進んでいます」


「さすが水谷! ということは、デザインさえ決まれば、設置できるのね」


「はい。三面図があれば、ダンジョン内に生成できます」


 それを聞いた北條が眉をしかめる。

「デザインは、やれって言われればできなくはないけど……」

 包帯の巻かれた右腕を挙げた。

「この状態だから、左手でやるしかないかなぁ」


「そういえば、例のデザイナー候補はどうなってる?」


 玲子の質問に、アルスが答える。

「ひとまず話は通してあります。本人としてもかなり乗り気のようです」


「じゃあ、近いうちに面接をしましょう。日程の調整をお願い」


「わかりました」


 北條が言った。

「しかし、最初の仕事が便器のデザインって、ちょっと微妙かも」


 そうね、と玲子は苦笑する。

「でも、お仕事での創作って、そういうものだから」


 水谷が言った。

「あとは、冒険者にどう説明するかですね」


「それなんだけど……」

 と玲子が眉根を寄せる。

「なんかわかんないけど、勝手にできた、って言うのは無理があるかしら……?」


「いや、無理でしょ!」

 と北條がつっこんだ。

「玲子ちゃん、私がなんとかするって、インタビューのとき冒険者に言っちゃったんでしょ? どう考えても、玲子ちゃんがトイレ設置したのバレバレだよね」


 そうよね……、と玲子はため息をついた。


 アンドリューが言った。

「それですが、建築ギルドに依頼してみるのはいかがでしょう?」


「建築ギルド?」


「ベルモントの建造物の、建築作業全般を担っているギルドでございます」


「建築ギルドに、ダンジョンのトイレを作ってもらうってこと?」


「いえ。トイレを作る作業自体は、ダンジョンの魔法で行います。ですが、それを作ったのが建築ギルドであると、偽装してもらうのです」


 玲子は驚く。

「えっ? そんなこと頼んで大丈夫なの?」


「ギルドマスターとは旧知の仲。彼は信頼できる男です。秘密は守ります」


 玲子は考え込む。

 それから言った。

「偽装工作をする必要があるわね。建築ギルドの人には、実際にダンジョンに入ってもらわないといけないわ」


「確かに。それは必要でございますね」


「建築ギルドの人って、戦闘はできるの?」


「いえ。腕っぷしはありますが、戦闘技術はほぼありません」


「ということは、護衛をつける必要があるわね。でも、そのへんの冒険者を護衛に雇うわけにはいかない。冒険者に、ダンジョン魔法発動の現場を見られたら事だもの」


「それでは、私とギルガメッシュが護衛をいたしましょう」


「え!? それはそれで大事な感じがするけど?」


「ダンジョンで何かを建築するというのは、これまでなかったことでございます。その技術を秘匿するため、一般の冒険者を同行させるわけにはいかない。冒険者には、そう説明いたしましょう」


 北條が笑って言った。

「まあ、まるっきり嘘ってわけじゃないか。秘匿する建築技術っていうのが、ダンジョンの魔法だっていう点を除けばね」


「あとは、建築中にダンジョンを閉鎖する必要があるかどうか……」

 と言って、玲子は考え込む。

「できればサービスを止めたくない。ランニングチェンジでいけないかしら?」


 水谷が言った。

「少なくとも、魔法を発動するタイミングでは、トイレを作るエリアに冒険者を立ち入らせないようにしないとですね。見られたら大変です」


「蘇生術のセーフルームは、冒険者から見えないところに作ったけど、今回はそうはいかないわね」


 アンドリューが言った。

「それであれば、我々がエリアの封鎖をいたします。交信珠で連絡を取り合えば、なんとかなるでしょう」


 玲子は頷いた。

「これらを踏まえて、計画を立てましょう。アンドリューは建築ギルドとの折衝をお願い」


「心得ました」


「水谷とフェリスさんは、これに関連するダンジョン魔法の調査を続けて」


「はい」

「承知した」


「北條は……」

 と言って、玲子は口ごもった。特にやってもらうことがないのである。

「まあ、安静にしててちょうだい」


 北條は苦笑した。

トイレの話が続いてなんか申し訳ないです……。

次回更新は5/22です。

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