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第34話 フェリス先生、魔法について教えてください

フェリスは魔法について講義する。

既に簡単な魔法を使える玲子は、北條に得意げに自慢するが――。

 会議室の黒板を後ろにして、フェリスが仰々しく宣言する。

「それでは、魔法についての講義を始めさせていただくのじゃ」


 受講生は、玲子、北條の二名である。

 水谷は同席しているものの、実務を通してある程度理解している。同席は、説明の補助といった形である。


「まず、魔法とは何かというところから始めたいと思う」

 そう言ってフェリスが、黒板になにごとか文字を書く。


「先生!」

 と玲子が手を挙げる。


「なんじゃ? タチバナ殿」


「読めません!」


 そうじゃった、とフェリスが唸った。

「ではミズタニ殿。板書をお願いできるかの?」


「わかりました」

 と言って、水谷がフェリスの隣に立つ。


 フェリスの書いた文字の横に、日本語で「魔法」と書いた。


 フェリスはひとつ頷くと、話を続ける。

「魔法というのは、端的にいえば、マナのエネルギーを利用するための技術体系じゃ。マナのエネルギーはそのままでは利用できぬゆえ、魔法という技術をもって、現象に変換する必要がある」


「現象?」


「魔法によって起こされる事柄、火を起こす、氷を作る、傷を癒すなど、それらのことを現象と呼んでおる」


 フェリスの説明を聞いた水谷が、黒板に書く。


 マナ → 魔法 → 現象


「次に、魔法がどのようにして発動するかじゃが……。最初に結論から言えば、構築した魔法回路にマナを供給することで魔法が発動し、魔法に応じた現象が発生する」


 玲子と北條が、ぽかんと口を開けた。


 じゃろうな、とフェリスが笑う。

「ひとつずつ説明していこう。まず、魔法回路じゃが、これはマナというエネルギーを現象に変換させる装置と考えると良い」


 やはり、ピンとこない。


 水谷が先ほど書いた「魔法」を消して、「魔法回路」と書き直す。


 マナ → 魔法回路 → 現象


 フェリスが説明を重ねる。

「たとえば、ファイア・ボールは火球を撃ち出す魔法じゃ。すなわち、この魔法における魔法回路は、マナを火球に変換する装置である。この魔法回路にマナを流し込むことで、マナが火球となって撃ち出されるわけじゃ」


 水谷が補足するように板書しながら言った。

「この場合、マナが入力で、火球が出力になるわけですね」


 マナ(入力) → ファイア・ボールの魔法回路 → 火球(出力)


 北條が言った。

「家電みたいなものかな。たとえば、扇風機だったら、電力を風力に変換する装置なわけで」


 なるほど、と玲子は頷いた。

「電力がマナで、風を起こすっていうのが現象なわけね」


「せんぷうきというのが何かはわからぬが、納得いただけたかの?」


「まあ、なんとなく」

 と玲子が言う。


「では次に、魔法回路をどのように構築するかに移ろう。ある意味で、これが魔法という技術の根幹じゃ」

 こほん、とフェリスが咳払いする。

「魔法回路は、術式によって構築することができる」


「術式というのは、ダンジョンの構築に使われていたりするあれよね?」


「そうじゃ。より正確に言えば、術式によって魔法回路を構築し、その魔法回路によってダンジョンの諸現象を発生させている、ということになる」


 術式 →(構築)→ 魔法回路


 ううん? と玲子は首をひねる。

「そもそも、術式っていうのは具体的にどんなものなの?」


「記述、もしくは口述された、古代魔法語じゃ」


「言語なの?」


「うむ。魔法回路を構築するための、特殊な言語じゃ」


「言葉を紡ぐだけで、その魔法回路っていうのが出来るわけ?」


「そうなのじゃ!」

 とフェリスが意気込んで言った。

「それこそが、この古代魔法語の偉大なところなのじゃ! 正しい手続きに則って言葉を組み立てることで魔法回路を現出させしめる、この言語があるゆえに我々は魔法という技術の恩恵に与かることができるのじゃ!」


「そ、そうなのね……」


 水谷が冷静に言った。

「術式がコードで、魔法回路が実行ファイルみたいな感じで、僕はイメージしてます」


 なるほど、と玲子は頷く。玲子も仕事柄、最低限のプログラムの知識はある。


 こほん、とフェリスが咳払いをした。

「魔法回路を構築するための術式は、古代魔法語を用いればどのような方法であっても良い。ダンジョンのように恒久的に稼働させたいのであれば、記述式が望ましい。反対に、魔物との戦闘のように即興性が必要であれば、口述式、つまり詠唱による術式のほうが勝手がよかろう」


 北條が尋ねた。

「まだちょっとイメージできてないんだけどさ。術式で構築される魔法回路っていうのは、どこに構築されるの?」


「マナが流れる物質であればなんでも良い。一般的には触媒というものが用いられる」


「触媒?」


「魔法使いがよく使うのは杖じゃな。詠唱で杖に魔法回路を構築して、魔法を行使するのじゃ。あとは、呪符などもよく用いられる。ようは紙じゃ。これは、あらかじめ記述によって魔法回路を構築できるゆえ、魔法使い以外でも扱える」


 へえ、と北條が感心する。


「触媒には、マナツリーという樹木がよく原料として用いられる。マナの伝導率が高いゆえ、現象への変換効率が高いのが特徴じゃ」


 さて、とフェリスが言った。

「理屈としては以上となる。実践に移るとしようかの」


 あれを、とフェリスが言って、水谷が布袋から指輪を取り出した。


「どうぞ、北條さん。橘さんはもう持ってますね」


 北條が指輪を受け取る。

「つければいいの?」

 指輪を矯めつ眇めつして、渋面を浮かべた。

「これ、ちょっとダサいんだけど……」


「文句があるなら、北條さんが自分でデザインして、改めて小物屋に発注してください」


「え! いいの? やったー!」


「自腹ですからね!」


「ぜんぜんオッケー。お金も暇もあるし」

 言いながら、北條は指輪を填めた小指を立てる。

「これでいい?」


 水谷がため息をついて、はい、と頷く。


 フェリスが言った。

「では、実際に魔法の使い方を説明いたそう。この指輪には、予め魔法回路を構築するための術式を刻んでおる。ご存じ、ダンジョンの地図魔法のものじゃ」


「この指輪も触媒なの?」


「うむ。これは銀でできておる。金属の中では、最もマナ伝導性が高い物質じゃ。この指輪のように、単一の機能の魔法回路が刻まれている道具を、魔道具と呼ぶ」


「どうやって使うの?」


「先ほど説明したように、魔法回路にマナを流し込むことで、現象が発生する。マナの供給源は、これじゃ」

 と言って、フェリスは小さな石をつまんで見せた。


 その石は、幾何学的な、正八面体の形状で結晶している。


「それは?」


「魔石という。マナが結晶したものじゃ」

 フェリスが魔石を掌に載せる。

「魔石は、気を流し込むことで、マナを放出する性質がある。このように……」

 フェリスが言うと、すぐに、ダンジョンの地図が中空に浮かび上がった。


 え? と玲子が言った。

「呪文の詠唱は要らないの?」


「術式は魔道具に刻まれているゆえ、改めて詠唱する必要はない。が、詠唱をしたほうが、魔石に気を送りやすくはあるじゃろう。わらわは気の扱いに慣れておるからの」


「そうなのね。要るものかと思ってたわ」


 北條が尋ねた。

「ていうか、気ってなに?」


「体内を流れる生命エネルギーじゃ。気は、非常に微弱じゃが、マナと同質のエネルギーなのじゃ。それゆえ、気を呼び水として使うことで、魔石からマナを抽出することができるのじゃ」


「それって、誰にでもあるの?」


「うむ。誰にでもあるし、誰にでも扱うことができる。多少の訓練は必要になるがの」


「私はできるようになったもんね!」

 玲子がドヤ顔で言った。


「玲子ちゃんができるんだったら俺にもできそうだね」


「なにそれ? 感じわるーい」


「まあ、俺ってたいがい器用にこなせちゃうほうだからさー」


 得意げな北條であったが、実際は苦戦した。


 気のコントロール方法は、フェリスの説明によれば、こうである。

 まず、丹田に気が集まるイメージをする。丹田は、へその下あたりを指すらしい。

 そこで気を練る。エネルギーを増幅させるようなイメージである。

 丹田で練った気を、体内で巡らせて指先に送る。その指先で魔石に触れ、気を送り込む。


「えー、難しすぎるんだけど……」

 北條が泣き言を言った。


 したり顔をして玲子が言う。

「そんな簡単にできたら苦労しないわよ」


「玲子ちゃん、感じ悪い……」


「では、ちょっとサポートするかの」

 フェリスがそう言って、呪文を詠唱する。

「ディテクト・マナ」


 途端、魔石が光を宿す。


 北條が尋ねた。

「これは?」


「マナを可視化したのじゃ。この状態で、気を練ってみるとよい」


 北條はフェリスに言われた通り、丹田に意識を集中する。すると、へその下が、ぼんやりと光り始めた。

 北條が、おお、と声を上げた。


 キモっ、と玲子は言った。


 北條が玲子を睨みつつ、フェリスに尋ねた。

「この、ぼんやり見えてるのが、気なわけだね?」


「うむ。見えないものをコントロールするより、やりやすかろう?」


 北條が人さし指を立てて、気を集中する。

 それが体を流れていく様子が、玲子の目にも見える。

 光が、丹田から胸元まで、ゆっくりと移動してーー、そこで消えた。

 ああっ、と北條が声をあげる。


 なるほど、とフェリスが言った。

「気の練り込みが足りておらぬな。丹田で上げた圧力で、指先まで押し出していくイメージじゃ。それと同時に、呪文を詠唱したほうが、気をコントロールしやすい」


 ふうむ、と北條が考え込んで、やってみる、と言った。


 北條が丹田に気を集める。そこで、前回より少し長く、溜める時間を作った。


 呪文を詠唱する。

「マップ・ダンジョン」


 光が、すっと指先に移動して、魔石に流れ込む。魔石から強い光が放たれた。

 そしてーー。


 中空に、ダンジョンの地図が浮かび上がった。


「できたー!」

 北條が両手を上げた。


 おお、とフェリスが感嘆の声をあげた。

「タチバナ殿よりスムーズにできたの」


「ちょっ、それ言わないで!」


「玲子ちゃんはどのくらいかかったの?」


 そうじゃのう、とフェリスは考え込む。

「半日くらいはかかったかのう……」


「やめてー!」

 玲子は顔を手で覆った。

今回は閑話っぽい感じの話でした。魔法の理屈は、一度どこかで書いておきたかったんですよね。

次回更新は5/2です。

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