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第28話 おお、冒険者よ! 死んでしまうとはなさけない!

グリフォンに頭を嚙み砕かれて死亡したジミー。

ダンジョンの見知らぬ部屋で目を覚ました彼は、自分が生きていることに驚く。

そこで突然、謎の声が聞こえてきて――。

 ジミーは目覚めた。


 見慣れた天井である。石組みのそれは、ダンジョンの天井だ。どうやら床で仰向けに寝ているようである。

 夢を見ていたのだろうか。とても恐ろしい夢だった。

 体を起こして周囲を見回す。


 すぐに、おかしい、とジミーは思った。

 仲間たちはどこに行った?


 不意に、どこからか声が聞こえた。


「おお、冒険者よ! 死んでしまうとは情けない!」


 その声音は、男とも女ともつかない、不思議なものであった。


 なんだって? 死んだ? 俺がか?

 全く理解が追い付かず、ジミーは途方に暮れた。

 死んだということは、先ほど見た夢のようなものは、現実だったということか。

 ここはどこなのだろう。ダンジョンではないのか。


 教会の教えによれば、すべての生き物は死んだ後に、裁きの使徒たるアディールの審判を受ける。その審判により、死後の行き先が決まるということである。

 ここはその、裁きの間か?

 ジミーは盗賊ではあるが、盗みを働いたことはない。その技能は冒険者としてのものであって、罪業とは無縁である。行先は楽園か、悪くても同じ人間としての新たな生であろうと思われた。


 不思議な声が言った。

「あなたには二つの選択肢があります」


 そらきた、とジミーは思った。楽園か、新たなる生か。

 思ってから、選択肢? と疑問が湧き出る。アディールの審判は絶対のものである。神による宣告と等しい。それを、選んでよいというのは、どういうことだろうか?


「ひとつは、このままダンジョンの外に出ることです」


 ジミーは、ぽかんと口を開ける。

 ダンジョン? ダンジョンって言ったのか?


「この場合、あなたが今回のダンジョン探索で得たものは、すべて没収されます」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 思わずジミーは叫んだ。まったく意味不明であった。

「俺は死んだのか? いったいここはどこだ? ダンジョンの外っていうのは……?」


「もうひとつは、先ほどあなたが死んだ場所に戻ることです」

 ジミーの言葉が聞こえていないかのように、声は先を続ける。

「この場合、取得物は没収されずに残ります。だだし、あなたの死の原因となった場所に戻ることになるので、それなりの覚悟が必要でしょう」


 ジミーはグリフォンとの戦闘を思い出す。グリフォンの嘴で頭蓋を割られた記憶が生々しくよみがえる。思わず頭に手をやった。ジミーの禿頭には傷一つない。


「そこの扉から出れば、ダンジョンの外に出ることができます。こちらは無料です」


「無料?」


 首を傾げたジミーに、声が続ける。

「死んだ場所に戻るには、復活料として、そこの祭壇に聖金貨三十枚をお支払いください」


「金とるのかよ!」

 ジミーは思わず声を上げた。


 返答はなかった。その代わりに声が言った。

「もう一度、説明をお聞きになりますか?」


 ジミーは首を振って、扉に向けて歩き出した。



 扉を開けると、見覚えのある場所に出た。ダンジョンの大門である。


 そこには、カイルがひとり、所在なげに佇んでいた。


 部屋から出ると、背後の扉は自動的に閉まり、姿を消した。シークレットドアの類のようだが、盗賊の特技で探知しても、消えた扉は見つからなかった。なんらかの魔法的なものなのだろう。


「カイル!」

 声をかけると、たったいま気づいたかのように、カイルがジミーを見た。虚脱した顔に、ゆっくりと喜色が滲んでいく。


「ジミー! おまえもここに来たのか!」

 カイルは、生きていたのか、と問わなかった。その気持ちが、ジミーにはわかった。本当に自分は生きているのだろうか?


 ジミーはカイルに尋ねた。

「ここはダンジョンの外、だよな?」


 カイルは頷いてから言った。

「あの部屋の扉を開けたら、外に出た。ジミーもあの部屋に行ったんだな?」


「ああ。あの部屋はなんだ? 裁きの間、ではないよな?」


「聖典によれば、裁きの間には金色の天秤がある。死者はそれに心臓をささげ、裁きの使徒アディールが、その罪の重さを量るんだ。あの部屋に天秤はなかったし、心臓もささげていない。だから、裁きの間ではないと思う」

 カイルは生臭ながらも僧侶である。特に信心深くもないジミーより、聖典に関する知識は豊富に持っていた。


 ジミーは言った。

「それじゃあ、俺たちは、生きてる……んだよな?」


 首をかしげつつ、カイルが答えた。

「そうだな……。どうやら、そういうことらしい」


 ジミーの心に、じわじわと安堵がこみ上げてくる。カイルもそれは同じであるようだ。

 二人して、思わず長いため息をつく。


「ジミー! カイル!」

 背後から声がした。

 振り返るとレイアが立っている。その背後の扉がすうっと消えた。


 ジミーは手を振った。

「よかった! お前も生きてたのか!」

 今度は、生きている、という言葉がすんなりと出た。


「おい、おまえたち!」

 大門の衛兵が近寄ってくるのが見えた。

「おまえたちは、ルミナス伯のところのパーティだろ? 今朝ダンジョンに入ったよな? 大門を通らずに一体どうやって出てきたんだ?」


 ジミーとカイルとレイアは、顔を見合わせて言った。


「こっちが聞きたいよ!」


 彼らの心からの言葉に、衛兵は怪訝そうな顔を浮かべた。

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