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第26話 私、思いついちゃったかも

水谷とフェリスは、ダンジョンの地図を表示する魔法を発見する。

冒険者の蘇生法について考えているところで、玲子はあるアイデアを思いつく――。

 城の会議室に皆が集まっている。


 今日は、週に一回の進捗確認会である。今回は、ダンジョンの魔法術式について調べているフェリスと水谷から、現状の報告が行われることとなっていた。


 これまでに、フェリスと水谷は、ダンジョンの構造に関する魔法術式を発見していた。これにより、ダンジョン内部の詳細な地形を把握できるようになったということである。それで、ランキングの際に冒険者らから提出された地図から、正しい踏破率を出すことができたのである。


「なにか新しいことがわかったの?」


 玲子の質問に、水谷が頷いた。

「はい。まずは、これを見てください」

 と言って、水谷が呪文を詠唱した。


「マップ・ダンジョン」


 その瞬間、水谷の正面の中空に、映像が浮かんだ。ダンジョンの詳細な地図である。


 えっ、と玲子は声を上げた。

「なにこれ!? 水谷、魔法が使えるようになったの?」


「はい。魔道具の力は借りていますが」


「まじで!? めっちゃすごくない!?」


「橘さんでもできますよ。これは、ダンジョンの管理者だけが使える魔法らしいです」


 フェリスが言った。

「ダンジョンの管理者は、ダンジョンと魔法的なつながりを持っておるようじゃ。ダンジョンコアのレプリカに頼らずとも、ダンジョンに干渉する魔法を使うことができる」


 水谷が頷く。

「今回の発見は、これもあるんですけども……」


「まだあるの?」


「はい。この地図魔法で表示されているものを調べていったところ、いくつかわかったことがあります。まずは、ダンジョン内のオブジェクトについてです」

 たとえば、と水谷が中空の地図にある、緑の四角いマーカーを指さした。

「これは回復オブジェクトです。アルスさんが冒険者から仕入れた情報によると、実物は祭壇の形をしているそうです。ランキングの際に、冒険者から地図を入手できましたので、その他のマーカーについても一通り照合ができています」


 階段に見えるマーカーはそのまま階段、ひし形は宝箱、壁の四角はシークレットドア、といった具合に、水谷はいくつか例を挙げていく。

「ひし形の宝箱のマーカーにはそれぞれ、青、黒、赤、紫の色がついてますよね。これは、宝箱のステータスを表しています。青は中身のあるもの。黒は中身のないもの。そして赤は、罠のかかったものです」


「罠?」


「はい。毒針、睡眠ガス、テレポーターなんかですね」


「罠の種類はわかるの?」


 こうやって、と水谷が地図上の赤い宝箱マーカーを指でつつく。

「タップすると、罠の種類が表示されます」


 たしかに、赤い宝箱マーカーの横に文字が表示された。ただ、玲子には読むことができない。


 水谷は言った。

「この罠は、テレポーターですね」


「読めるの!?」


「ええ。日常会話は無理ですけど、ダンジョンに関する用語であればある程度読めます。技術用語みたいなものなので」


 水谷、できる子である。


「同じく、青のマーカーをタップすると、宝箱の中身も見ることができます。紫のマーカーは、中身あり、罠ありです。これだと、タップしたら両方が表示されますね」


「宝箱の中身っていうのは、お金とか、武器とかのことよね?」


 玲子の問いに、アンドリューが答える。

「はい。他には、宝物や希少な魔道具などがございます」


「中身の補充はできるの? ダンジョンの魔法とかで」


 その問いには、フェリスが答えた。

「宝箱の中身については、ダンジョンの魔法で生成されたものではないと、わらわは考えておる」


「どういうこと?」


「物質を具現化する魔法自体は、そう難しいものではない。ただ、そのような魔法によって具現化された物質が、永続的に存在するとなると、それはもう奇蹟の領域となるのじゃ。魔法の効力のおよぶダンジョン内では存在し得ても、ダンジョンの外でそれが存在し続けるということは考えにくい」


 なるほど、と北條が言った。

「宝箱の中身は、冒険者がダンジョン外に持ち帰っているわけだもんね。それが消えたとかいう話はないわけでしょ?」


 アンドリューが頷く。

「はい。そのような話は聞いたことがございませんな。実際、私もかなりの数を持ち帰っておりますし」


 フェリスが言った。

「それに、そもそも金銭を具現化することはできぬのじゃ」


「そうなの?」


「金銭を作り出すことは神の御業じゃ。人の身では、神殿にしか許されておらぬ。当然ながらその術式は、厳重に秘匿されておる」


 となると、と玲子は、少し難しい顔をする。

「宝箱の中身は、魔法では補充できないってことね……」


 アンドリューが尋ねた。

「補充が必要なのですか?」


「できたらね。宝箱って、冒険の報酬としてすごく魅力的じゃん。なのに、先に誰かが中身を取っちゃったら、もうあとはずっと空のまんまなんでしょ? となると後発の冒険者は、ダンジョンで宝箱を見つけても嬉しくないわよね。開けたってどうせ空なんだもん。定期的に補充できれば、そういう冒険者も宝箱にわくわくできるじゃない」


「確かにそうでございますね。考えてもみませんでした」


「とはいえ、実際にモノを補充するとなると、いろいろ難しいわね。手作業で補充するのか、とかさ」


 水谷が言った。

「それについては、テレポーターが使えると思います」


「テレポーター?」


「転移の魔法です。罠にありましたよね。あれをモジュール化してやれば、おそらくその仕組みを使って、ダンジョン外からアイテムを宝箱の中に転移させられます」


「そんなことができるの!? 水谷すごすぎない!?」


 いやあ、と水谷が少し照れながら頭をかく。

「ないものを新しく作るのは難しいですが、あるものを他の形に転用することは比較的簡単にできそうです」


「既存のコードをコピペする感じ?」


「言い方はあれですが、そんな感じでイメージしてもらえると。ダンジョンを構築する術式は、元から高度にモジュール化されています。そのおかげで、機能の模倣と移植は比較的容易です」


「てことは、ダンジョンの解析が進めば、できることが増えていくってわけね。面白くなってきた!」


 こほん、と咳払いをして、水谷が言った。

「今回見つかった地図魔法の機能は、これだけじゃないんです」


「まだあるの!?」


「この魔法は、モンスターや冒険者の状況についてもリアルタイムにモニターできます。ここを見てください」


 地図で水谷が指した先には、通路の中央に、三角が五つと、丸が六つ表示されていた。


「三角が冒険者で、丸がモンスターです。これはたぶん、戦闘しているのかな? それぞれ色がついてますよね。これが緑から赤へグラデーションで変わっていきます。おそらくは残り体力を示しているのではないかと」


 見ているうちに、冒険者を示す三角のうちの一つが、少しずつ赤に染まっていった。


「ダメージを受けると赤くなる感じね?」


「はい。完全に赤くなると、瀕死状態だと思われます」


 水谷がそう言っている間に、三角は完全に赤くなり――しばらくしてから消えた。


「……消えちゃったけど?」


「消滅は……死亡です」


「え? 冒険者、死んじゃったの?」


「残念ながら……」


「えっ? いま?」


 水谷は無言で頷く。


 玲子は思わず、こわ……、と呟いた。


 見れば、残りの三角は、通路を一目散に退却していくところであった。四つの丸がそれを追うが、三角は、なんとかそれを振り切った。あるのはただの三角でしかないのに、見ているだけで緊張感がある。


 ごめん、と玲子は言った。

「ちょっと、これ見るのしんどいかも……」


「僕も初めて冒険者が死ぬ瞬間を見たので、ちょっときてますね……」


 場がどんよりとした。


「やっぱ、あれだね」

 北條が、皆を励ますように、無理やり明るい声を出した。

「どうにかして、冒険者が死なないようにしないとだね!」


 水谷が答える。

「そ、そうですね。なんとか、生き返らせる方法を探してみます」


 フェリスが言った。

「しかし、蘇生魔法の術式は神殿が秘匿しておる。入手するのは困難じゃぞ? それに、成功率の問題もある」


「ダンジョンの魔法の中に、そういったものがあれば……」


 水谷の言葉に、フェリスが首を振る。

「ダンジョンで起こる現象に蘇生はない。つまり、現状のダンジョンの魔法では不可能と考えられる。となれば、新しく作るしかないのじゃ。とはいえ、蘇生の術式をイチから作るのは現実的ではないゆえ、神殿の術式を入手する必要があるのじゃ」


「アルスさん、どうにかなりませんか?」


 アルスもまた、首を横に振る。

「さすがに、神殿の秘術となると難しいですね……」


 何ごとか考え込んでいた玲子がそこで、待って、と手を挙げた。

「水谷、これまで見つかった機能を、他に転用することは、難しくないのよね?」


「はい。おそらく……」


「私、思いついちゃったかも」


「何をです?」


「冒険者を死なせない方法を、よ」

 玲子はにやりと笑った。

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