第21話 ランキングイベントは稼げるんです!
ランキングの実施で増えた売り上げに喜ぶ玲子たち。
玲子は、その仕掛けについて説明する――。
古城の一室。もともとは食堂であったが、大きな円卓をぐるりと囲むように座れるその部屋を、今では皆が会議室と呼んでいる。
その会議室に、関係者が集まっている。領主のアンドリュー、管理者である玲子、水谷、北條。そして、アルスである。
今日は月初めであり、先月の売上についての報告と、相談をすることになっていた。
会議はアンドリューの報告から始まった。
「先月の売上ですが、聖金貨五千枚となりました」
おお、と皆がどよめきの声を上げた。
聖金貨五千枚は、おおよそ五千万円相当である。
それは、前月の倍以上の金額であった。
アンドリューは続けた。
「ランキング上位を目指して、ダンジョンへの挑戦を増やしたパーティが多かったのに加え、貴族が更なる冒険者の雇用に踏み切ったようで、入場者数が倍近く増えております。同時に、入場税を聖金貨三十枚に増額したため、大幅な売上増となりました」
よし、と玲子はこぶしを握る。
「ただ、まあ、ここから必要経費を引かないといけないけどね」
玲子の言葉にアンドリューは頷く。
ランキングの実施に伴い、上位者に対して報酬を用意した。それが玲子の言う必要経費である。
一位のパーティの入場税は免除。そして、二位と三位のパーティの入場税を聖金貨十枚に、それ以外の十位以内のパーティの入場税を聖金貨二十枚に、それぞれ減額するとした。
アンドリューが言った。
「ランキングに入った貴族に、報酬として払い戻した額は、総額で聖金貨千枚ほどでした」
そうなると、純利益は、聖金貨四千枚ということになる。それでも十分な売上増であった。
北條が言った。
「しかし、昔のゲーセンのハイスコアランキングみたいで古臭いって思ったけど、効果があるもんだねえ」
玲子は答える。
「ランキングは今だって有効よ。ソシャゲのイベントなんかでも、たまにあるでしょ?」
「まあ、たしかに、あるっちゃある。でも、あんまり見ないのはなんで?」
「それは、ランキングという施策に大きな欠点があるから。ランキングは、ごくごく一部のユーザーに対してしか訴求しないのよ」
「そうなの?」
ええ、と玲子は頷く。
「ランキングは、ほんの一握りの、トップ層にいるユーザーに対してしか訴求しない。あまり真剣にプレイしてない、いわゆるライトユーザーと呼ばれる層にはほとんど効果のない施策なの」
ああ、と北條は納得する。
「それは確かにそうかも。ランキングなんて自分には関係ないって思っちゃう」
「だけど、ダンジョンに挑む冒険者とそれを雇用する貴族に、ライトユーザーはいない」
玲子はにやりと笑った。
「貴族たちは、上位に入ろうという競争心を煽られて、こぞってダンジョンに挑んでくれたわけ。プライドにかけてね。報酬はおまけみたいなものよ」
水谷が言った。
「それにしても、冒険者の皆さんも、ものすごい盛り上がりようでしたね」
「ああ、あれはね」
玲子はいたずらな笑みを浮かべて、片目をつむる。
「アルスくんにお願いしたのよ」
「アルスさんに? 何をですか?」
水谷の問いに、アルスが答える。
「冒険者の皆さんに、ちょっと噂を流しまして。ランキングを始める半月前くらいから、冒険者ギルドが面白いことを企んでるらしいぞ、と」
玲子が頷く。
「まず、噂レベルの情報を流して、ユーザーの期待感を煽ったの。ユーザーコミュニケーションは、近年のゲームでは必須だわ」
北條が苦笑して言った。
「噂を流すのは、ユーザーコミュニケーションって言うのかな?」
「SNSで予告を流すのと、本質的には変わらないわ」
「まあ、そういうことにしておいてもいいけどさ」
アルスが続けた。
「次に、ランキングの実施が発表されたところで、貴族と接触しました。彼らには競争心を煽るよう、どこそこの貴族がランキング上位を狙っている、などといった噂を。貴族間のライバル関係を見越して、名前を変えつつ」
北條がまた苦笑する。
「それはもう風説の流布だわ」
「貴族が乗らなきゃ、どうしようもなかったのよ。それに、この国の法律には違反していないし」
玲子の言葉に、アルスが頷く。
「流言飛語、権謀術策は、宮廷においては日常茶飯事です。タチバナ様の行為は正当と言えましょう」
玲子は言った。
「貴族が動けば、当然雇われている冒険者も動く。ランキングを皆が気にすることになるでしょう? あとはアルスくんが、ちょこっと酒場で冒険者のイベント気分を盛り上げてやれば、自然発生的にお祭り騒ぎになるってわけ」
すばらしい! と、アンドリューが言った。
「皆様にお任せして、本当に良かった!」
「まだまだ、こんなもんじゃないわ。これからどんどん色んな施策を打っていくから、覚悟しておいてね」
「ええ。それはもう、お好きなように」
それはそうと……、と居住まいを正して玲子は宣言した。
「報酬の話をしましょう!」
アンドリューが、ぽかんと口を開ける。思ってもみない提案だったようである。
「報酬ですか? 衣食住を保証させていただくだけでは、ご不満でしょうか?」
「ええ、ご不満ですとも! 人はパンのみに生きるにあらずよ。やりがいが必要だわ」
アンドリューの表情が曇る。
「なるほど……。しかし、私たちといたしましても、報酬をお支払いできる状況にはなく……」
「ダンジョンの利益から、三%でどうかしら?」
玲子は指を三本立てて言った。
「私と、北條と、水谷で一%ずつね。先月の利益であれば、合わせて聖金貨百二十枚。そのくらいなら払えるでしょう?」
「なんと……。それだけでよろしいので?」
アンドリューは驚きの表情を浮かべる。
本当はもっと取ってもいいかもしれないが、生活を保障されているのだから、このあたりが妥当なところだろう。
玲子は不敵な笑みを浮かべた。
「言ったでしょう。こんなもんじゃ済まさないくらい稼いでやるんだから」
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