表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/91

第20話 ランキングってなんですか?

宿屋の主人、モリスンは、街に普段より多くの冒険者がいることに驚く。

冒険者のジミーによれば、今日はある催しが冒険者ギルドで行われるらしく――。

 七月の月初め。そろそろ暑さを感じ始める時期である。

 宿屋の主人であるモリスンは、額の汗をぬぐいながら街を歩く。朝市で食材を購入した帰路である。


 ベルモントは計画都市だ。自然に生まれた街ではない。そのため、街区は綺麗に四つに分けられている。モリスンの営む宿屋は、西側の宿場地区にある。朝市の立つ商業地区は、反対の東側である。


 モリスンは、ふう、と息をつく。歩く距離もあるが、背に担いだ、食材を入れた布袋が重いのである。部屋は満室に近く、そのぶん食事を用意する必要があった。酒場に向かう者もいるが、モリスンの宿は食事が売りであるため、半数以上は宿でそのまま食事をとる。


 それにしても、とモリスンは思う。今日はいやに街で冒険者を見かけるな。


 ベルモントの冒険者は、定期的にダンジョンに潜る。街をうろついている冒険者たちは、それが休みの者たちである。

 そういえば、モリスンの宿に逗留している冒険者たちも、誰も今日はダンジョンに行っていない。だからこそ、食材がいつもより必要なのである。ダンジョンに向かう冒険者は食事が要らないので、その旨は伝えるように頼んである。


 なにかあるのだろうか?


 考えながら、モリスンは、汗をかきかき歩いていく。ようやく商業地区を抜けて、中央広場についた。

 ダンジョンをぐるりと囲むようにあるその広場には、冒険者向けの施設が建っている。そのうちのひとつが冒険者ギルドである。


 その冒険者ギルドの前に、人だかりができていた。

 がやがやと喧しい。集まっているのは冒険者のようである。

 まだか、まだか、という言葉が、方々から聞こえる。どうやら何かを待っているらしい。


 なるほど、とモリスンは思う。何だかわからないが、街に冒険者が多いのは、これが理由のようである。

 群衆の中に、見知った禿頭を見つけた。モリスンの宿に長逗留している冒険者である。ベテランの盗賊で、名はたしか、ジミーといったか。


 モリスンは、背中の荷物を下ろし、大きく伸びをした。

「ジミーさん!」


 モリスンの呼びかけに、ジミーが振り返り、軽く手を挙げた。

「やあ、モリスンさん」


 モリスンはジミーに近づいて尋ねる。

「この騒ぎは一体、何なんです?」


「ああ、そうか、意外と街の人は知らねえんだな。今日は月初めだろ?」


 ええ、とモリスンは答える。

「それがなにか?」


「冒険者ギルドの立て看板に、先月のランキングが掲示されるのさ」


「ランキングですか?」


「そう。誰が一番、ダンジョンを深く探索してるか。それが張り出されるんだよ!」


 ジミーはさぞ面白いことかのように言うが、モリスンにはピンとこない。

「へえ。ジミーさんたちのとこのパーティも、そのランキングとやらに載りそうなんですか?」


 いやいや、とジミーは大きく手を振る。

「ぜんっぜんダメだよ。先月の一位は地下六階だぜ。俺たちはまだ地下五階までしか探索できちゃいない」


「なのに、わざわざ探索を休んでまで見に来てるんですか?」


「そりゃそうよ。どこのパーティが一位になるか、なんたって、見ものじゃないか! 近頃の酒場じゃ、この話題で持ち切りよ」

 見な、とジミーが指をさす。

 その先にいたのは、豪華な服を着て、従者を従えた男である。


「えっ! 貴族様じゃないですか!」


「一人だけじゃない。他にも三、四人見かけたぜ」


「なんだって、こんなところに……」

 貴族たちの住む貴族区は街の北にあり、彼らはほとんど、そこから出てくることはないのである。


「ダンジョン探索の契約で、パーティの功績は、それを雇ったパトロンの功績ってことになってるんだ。つまり、ランキングに載るのは、その貴族様の名前になるってわけよ。プライドの塊の貴族様にとって、他の貴族より上に自分の名前があるかどうか、気が気じゃないんだろうさ」

 ジミーは、ししし、と厭味ったらしく笑う。

「うちのパトロンもうるさいったらありゃしねえ。どうしてもランキングに載るんだって、俺たちをせっついてくる。俺ぁ、無理だって言ってるんだけどな。そんなんで無理して死ぬなんざ、まっぴら御免だよ」


 わあっ、と、ひときわ大きく声が上がった。

 見れば、建物の入り口から、大柄な男が出てくるところである。ギルドマスターのギルガメッシュだ。手には、丸めた紙を持っている。


「やあやあ、待たせたな! お待ちかねのランキングだ! 道を開けろ!」

 ギルガメッシュが大音声で呼ばわると、冒険者たちが、さっと引いて道を作る。ギルガメッシュは立て看板の前まで歩いていくと、紙をあてがって鋲で止めた。

 振り返って、言った。

「さあ! これが先月のランキングだ!」


 おおおお! どよめきが上がった。


「おっと、ここじゃよく見えねえ。モリスンさん、前に行こうぜ」


 ジミーに手を引かれ、モリスンは前に出る。立て看板の前は、ランキングを見ようとする冒険者でぎゅうぎゅうである。


 ジミーが叫んだ。

「うわあ! 一位は地下七階だってよ! ついに来たな! 達成者は……やっぱりギルバート伯のところかぁ!」


 わああ、と歓声が上がる。大盛り上がりである。


 あっ、とジミーが声を上げた。

「ルミナス様の名前があるじゃねえか!」


「ルミナス様?」


「うちの雇い主だよ! 十位ぎりぎりだけどな! 地下五階の踏破率で差がついたみてえだ」


「踏破率?」


「ランキングに載るには、各々のパーティが作成した、ダンジョンの地図を提出しなきゃいけねえんだ。地図が全部埋まってたら完全踏破で、踏破率は百%。地下五階に到達したパーティは団子状態でな。そこで差をつけるのが、踏破率ってわけさ」


「はあ、なるほど」


「うちのパーティは慎重派だからな。めいっぱい準備してから、下の階に進むスタイルだ。地下五階の地図も、ほぼ完全なものが出来ちゃあいたんだが、まさかランキングに載るとはな!」

 ジミーは嬉しそうに笑う。


「ジミー、やったじゃねえか!」

「ボーナス出たら奢ってくれよ!」

 周囲の冒険者も、笑いながらジミーを祝福している。


 何かを叫んでいるのは、先ほど見かけた貴族である。地団太を踏んでいる。ランキングが、思ったような結果ではなかったのであろう。


 ジミーが言った。

「モリスンさん、今日は皆で酒場に行くことになりそうだ。悪いけど、飯はいらねえや」


 今日は、そのような冒険者が多そうである。用意した食材が無駄になるかもしれない。

 食材も安くはないのに……。

 モリスンは、はぁ、とため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ