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第18話 街ブラしましょ

アルスに連れられて市場巡りをする玲子たち。

この世界の物価や貨幣について話を聞く。

そこでわかった、帰還するために必要な聖金貨一万枚の、日本円として価値は――?

 家々が立ち並ぶ通りを抜けると、広場に出る。

 市が立っているのだろうか。移動式の露店が立ち並んでいて、それぞれの露店の前は、町人と思われる人々で賑わっている。

 武装した者もちらほらと見える。ばらばらの武装で、とても衛兵には見えない。おそらく彼らが冒険者なのだろう。


 不意に、うまそうな匂いが漂ってくる。


 水谷が鼻をひくつかせながら言った。

「そういえば、まだ何も食べていませんでしたね」


 見れば、煙の立ちのぼる露店で、何らかの肉が焼かれているところである。


 水谷が尋ねた。

「あれは?」


「ハンバーガーという料理です。焼いたひき肉をパンにはさんで食べます」


「知ってます! ていうか、こっちにもあるんですね!?」


「ベルモントでは最近人気の品です。とある料理店の秘密のレシピが流出したとかで……。そうか。ではあれも、異世界から伝来した料理なのですね」


「そういう料理は多いんですか?」


「いくつか見かけますが、そんなに多くはありません。庶民の口に入ることは稀です。貴族を相手にしているような高級料理店が、転移者からレシピを買い取って、店の名物にしています。まあ、異国の味は、庶民の舌に合わないことも多いですから」


「そうなんですか?」


「異世界の知識で作られた料理は、複雑な味のするものが少なくありません。多くの人々は、その味を敬遠するでしょう。食べ慣れていないからです。舌というのは、意外と保守的なんですよ」


 玲子は意地悪く尋ねた。

「貴族にはその味がわかるわけ?」


「わかる、とまでは言い切れませんが、我々は珍しいものが好きですからね。食べたことのない味のする料理など、いくら払ってでも体験してみたいものですから」


「なんかゲテモノみたいな扱いね……」


「しかし、ハンバーガーはベルモントの町人にも人気です。結局のところ、ものによるといったところでしょう」


 四つくれ、とアルスは言って、露天商に幾ばくかの金を支払う。


 ハンバーガーには、パティのほかに、レタスとトマトのようなものが挟んであった。かぶりつくと、あたたかな肉汁が口の中にあふれ、鼻腔に炭の香りが広がる。


「おいしい!」

 と水谷が声を上げた。とろけそうに浮かべた笑顔がとてもかわいい。


 一口食べた北條が唸った。

「パティの味付けは塩と胡椒だけだね。このシャキシャキとした食感は、刻んだタマネギかな。ソースの類は使われてないけど、バンズをバターで焼いていて、それで味に深みが出てるんだな。なにより、この炭火のスモーキーな香りがたまんない」


 ほう、とアルスが感嘆の声を上げた。

「リョースケ殿は味のわかる方ですね」


「グルメリポーターか」

 と、玲子はつっこむ。しかし、実際、ファストフードのものより数段うまい。北條の言うように、炭火で焼いているのがポイントなのだろう。


 四人は食べながら露店を回る。

 売っている生鮮食料品、野菜や肉の類は、おおむね見たことのある形状をしている。当然、中にはよくわからない野菜もあるし、切り分けられた肉の元がどのような動物かは、まるでわからない。ただ、どれも、ちゃんとおいしそうに感じる。


「食べ物については心配しなくていいんじゃない?」


 北條の言葉に、玲子は頷く。


「ハンバーガー、おいしかったなぁ……」

 水谷が陶然として呟いた。あっというまに食べ終えてしまったようである。


 その外見のせいで、玲子は脳裏に、食べ盛り、という言葉を思わず浮かべたが、中身は四十六のおっさんである。

「水谷は食べすぎに注意だからね!」

 と釘を刺す。あの体型には戻ってほしくない。奇跡のかわいさを維持してもらいたいのである。


 はい……、と水谷は悲しげに答える。


 玲子はアルスに尋ねた。

「ハンバーガーはいくらだったの?」


「ひとつ、聖銀貨八枚でした。露店の品としては、少々値が張りますね。もっとも、ここ何年も市場の物価は高くなってしまっていますが」


「どうして?」


「国が重い税を課しているからです。先の魔王との戦争で荒れた国土の、復興のためだと聞いています。しかし、そのような状況では商売もしづらくなり、市場は活性化しません。できれば、税を下げてほしいところですが……」


 なるほど、と玲子はつぶやく。

「ところで、銀貨があるってことは、銅貨もあるってことかしら?」


「はい。貨幣は、聖金貨、聖銀貨、聖銅貨の三種類です。聖金貨一枚は、聖銀貨百枚の価値。聖銀貨一枚は、聖銅貨百枚の価値。そのように定められています。あとは、利便性のために、聖四半金貨と聖四半銀貨がありますね」


 北條が尋ねた。

「四半金貨っていうのは?」


「聖四半金貨は、聖金貨の四分の一の価値を持つ貨幣です。つまり、聖銀貨二十五枚ぶんになります。聖四半銀貨も同様で、聖銅貨二十五枚分の価値があります」


「なるほど。そういうのがないと、小銭でじゃらじゃらになっちゃうか」

 と北條は頷いた。


 玲子が尋ねる。

「その決まりは、国の法律か何か?」


「いえ、貨幣とはそういうものなのです。そのように神より賜られましたので」


 驚いて玲子は言った。

「え? この世界では、神様がお金を作ったの?」

 だから、聖金貨と呼ぶのかと納得する。


 アルスが不思議そうに尋ねた。

「そちらの世界では違うのですか? じゃあ、お金の価値は誰が保証しているんです?」


 言われて、玲子は考え込む。

「国かしら? いや、自由市場? ……厳密に言ったら、誰も保証していないわね」


 今度はアルスが驚く番だった。

「えっ!? それで問題は起きないんですか?」


「起きてないわね。言われてみれば不思議だわ」


「やはり、我々と常識が違いますね。実に面白い」

 そう言ってアルスは笑う。人好きのする、魅力的な笑顔である。


 北條の目が細まるのを、玲子は見た。



 玲子はハンバーガーを食べ終えて、露店に並べられた商品の値札をチェックする。

 だが、読めない。

「数字くらいは読めるようにならないとだなー」


 玲子の呟きに、水谷が疑問を口にする。

「そういえば、この世界は十進法なんですかね?」


「さっきの貨幣の話からしたら、たぶんそうなんじゃない?」す


「すみません。十進法とはなんでしょう?」


 アルスの質問に、水谷が説明する。


 説明を聞いたアルスが頷いた。

「はい、はい。数字の桁の繰り上がりは、ミズタニ様の仰る通りですね」


「よかった。頭が混乱しなくて済みそうだわ」

 玲子は胸をなでおろす。


「しかし、十進法、ですか? そちらの世界では、それ以外の数え方が存在するということでしょうか?」


 水谷が頷いて答える。

「それ以外の方法が使われるのは、主に数学の世界ですね。日常では十進法を使っています」


「数学……。数に関する学問ですか?」


「はい。僕の専門であるプログラミング、情報工学も、広く言えば数学の範疇に含まれますね」


「いやはや、正直なところ、私には全く理解できませんが、すごい世界ですねえ。実に面白い」

 アルスは、異世界のことであれば、なんでも面白いようである。


 玲子は言った。

「それはそうと、アルスさん。そこの値札を読んでもらえる?」


 いくつか値札を読んでもらうと、玲子にも、数字はすぐに理解できるようになった。

 この世界でも、数字の記法は、元の世界と同じである。つまり、0から9の各数字に一文字が対応しており、大きい桁が左側に来るように書く。十進法であることを踏まえれば、簡単に読むことができる。


「野菜はおおむね、銀貨一枚から五枚といったところね。値段はだいたい大きさによってるみたい」


 玲子の言葉に頷きながら、北條が言う。

「お肉は量り売りだね。百グラム銀貨二枚から十枚って、結構幅が広い」


 アルスが言った。

「肉の値段は、品種と部位で決まります。品種でいうと、豚が一番安くて、鶏が一番高い。部位は普通に、柔らかくておいしい部分ほど値段が高くなっています」


「へえ。俺たちの世界では、鶏が一番安かったよ」


「鶏は卵を産みますからね。食肉に回るのは、老鶏とオスだけです」


「市場の価格からすると、銅貨一枚が一円くらいの価値かしら?」


 玲子の言葉に、北條が頷く。

「キャベツみたいなのがひと玉で銀貨三枚、安い肉百グラムが銀貨二、三枚だよね。言われてみれば、そのくらいな気がする」


「てことは、聖銀貨一枚が百円、聖金貨一枚が一万円ってことよね……? じゃあ私たちが帰るのに必要な聖金貨十万枚は……えっと……およそ十億円ってこと!? え、ほんとに?」


「えっ!? そんな大金をかけて僕たちは召喚されたんですか!?」


 驚愕する水谷に、アルスが言った。

「使われた召喚の魔道具は、アンドリュー様がダンジョンから発見されたもので、購入したものではありませんので、お金はかかっていないと言えばかかっておりませんが……。しかし、とても貴重なものですから、同じものを入手するとなると、相当な金額が必要になるでしょう」


 そういえば、報酬の話をしていなかったことに玲子は気づく。早急に、アンドリューと話し合わねばならない。できれば、ダンジョンの売り上げから歩合でもらいたいところである。


 そうすれば、ダンジョン運営を頑張る、イコール、帰れるってことになるから、一石二鳥よね! 別にダンジョン運営の決意がぶれてるわけじゃないわよね!

 と、玲子は自分へ言い訳をする。


 しかし、十億円となると、さすがに遠い目になってしまう。


 そんな玲子を横目に、アルスは言った。

「それでは、冒険者ギルドに向かいましょうか」

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