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第16話 また契約書にサインするの!?

ダンジョンの管理者変更のため、別室に案内された玲子たち。

そこで出されたのは、またしても契約書――!?

「では、ダンジョンの管理者を変更することにいたそう」

 そう言ってフェリスは、玲子たちを隣室に案内した。


 そこは、大学の講義室ほどの広さがあった。薄暗い中、中央に光る物体があった。何らかの鉱石のように見える。


 玲子は、ファイナルファンタジーのクリスタルを思い出した。どのような仕組みによるものか、宙に浮いているところなど、そのままの印象である。


「あれは?」

 と玲子が尋ねると、フェリスが答えた。


「あれは、ダンジョンコア。その、レプリカじゃ」


「ダンジョンコア?」


「ダンジョンの力の根源、マナの結晶にして魔導回路を宿した、古代魔法テクノロジーの遺産じゃ。ダンジョンコアの魔法によって、ダンジョンは存在しておる」


「レプリカっていうのは?」


「その複製、といったところじゃな。本物のダンジョンコアには遠く及ばぬ代物じゃが。それでも、このレプリカは、ダンジョンの深奥にある本物のダンジョンコアとリンクしておるゆえ、その魔導回路を書き換えることが可能になっておる」


「魔導回路? 書き換えるって?」


「簡単に言えば、このレプリカによって、ダンジョンそのものに干渉することができるということじゃ。例えば、ダンジョンの壁を消したり、作ったりなどもできる。やりようによっては、今はダンジョンにおらぬ魔物などを作り出すことも可能じゃろうて」


 なるほど、と玲子は言った。

「じゃあ、これを扱えるようにならないと、インゲームの改修はできないってわけね」

 言ってから、水谷を見る。


 水谷が頷いた。その表情には、気合がみなぎっている。こういうところでは、頼りがいのある男である。

「フェリスさん、よろしくお願いします」

 と水谷が頭を下げる。


 それに対して、フェリスも頭を下げ返した。

「わらわもダンジョンのすべてを知るには至っておらぬ。ミズタニ殿、こちらからもご協力をお願いいたす」


 玲子は尋ねた。

「このレプリカは誰が?」


「わらわが作った。一年はかかってしまったかの」


「いやいや。十分すごいじゃない」


 フェリスは首を振りながら答えた。

「そうでもない。レプリカの作成に使った魔法は、ほとんどが現代のものじゃ。ダンジョンを構成する魔法は、現代のそれとは異なる高度な古代の魔法なのじゃ。その解析は思うように進んでおらぬ」


 それにしても、と玲子は呟く。

「ダンジョンコアなんてとんでもないもの、いつ、誰が作ったのかしら?」


「わからぬ。まだ神がこの世におられたという、神代の時代のものやもしれぬな。歴史書を紐解いても、ダンジョンはダンジョンとしてそこに在った、ということしかわからぬのだ」


「アンドリューさんは、本物のダンジョンコアを見たことがあるの?」


「はい。魔王を封印したのち、ダンジョンの最奥にて」


「そこで、ダンジョンの管理者になったわけね」


「左様でございますが、正直なところ、如何なる経緯で私が管理者となったのかは、わからぬのです」


「わからない?」


「おそらく、私の前の管理者は、魔王であったのだろうと思われます。管理者である魔王を私が封じたがゆえに権限が委譲されたのか、はたまた何らかの理由でダンジョンコアが私を管理者に選んだのか……」

 アンドリューは首を振りながらそう言った。


 さて、とフェリスは気を取り直すように言った。

「何はさておき、管理者の変更をいたすとしよう」


「どうやるの?」

 と玲子が尋ねると、フェリスは懐から一枚の紙を取り出した。


「契約魔法じゃ」


 ああ、と玲子は嘆息する。

「私たちを召喚したやつね」


「うむ。契約魔法はわらわの得意とするところでの」

 言って、アンドリューにその紙を手渡す。

「まずはアンドリュー殿。こちらにサインを」


「承知した」

 紙と羽ペンを受け取ったアンドリューが、おそらく自分の名前であろうものを書き込んだ。


「続いて、タチバナ殿」


 渡された紙を見れば、玲子には読めない文字で、つらつらと何かが書かれている。居酒屋での出来事が思い出される展開である。

「これ、たぶん、契約書よね? 読めない契約書にサインするの、めっちゃ怖いんですけど!?」


 元の世界であってすらも怖いのに、この契約書は間違いなく魔法のかかったものなのである。普通の契約書以上に強制力があことは、既に身をもって知っている。


「では、私が読み上げます。その内容に間違いがないこと、わが命と名誉にかけて保証いたしましょう」

 アンドリューはそう言って、契約書の文面を読み上げた。


 甲は乙にダンジョンの管理者としての権限を委譲する、という内容の文面である。文面に意味としておかしな点はないのだが、この世界でも契約書には、甲と乙が使われるのかという点がおかしい。


 うーん、と唸って動こうとしない玲子を見て、北條が手元の紙を取り上げる。


「いつまで迷ってるの。先に書いちゃうよ」

 ここでいい? とフェリスに確認してから、さらさらと書類にサインをしてしまった。

「はい、水谷くん」


 北條から手渡された水谷もまた、あっさりとサインを済ませる。

「はい、橘さん」


 水谷の差し出す書類を見て、玲子は大きくため息をついた。

「あんたら、ぜんぜん躊躇ってもんがないのね」


「だって、ダンジョン運営するためには、管理者ってやつにならないといけないんでしょ? 迷うだけ無駄だって」


 玲子はもう一度ため息をついてから、よし、と気合を入れる。

 書類に自身の名前を書き込んで、フェリスに手渡した。


 書かれたサインを見もせずに、結構、とフェリスは言って、それをダンジョンコア、そのレプリカに向けて放った。


 ボウ、と青白い炎のようなものが、書類にまとわりつき――一瞬で紙は燃え尽きた。


 そして。


 今、繋がった、と玲子は思った。

 何かはわからない、巨大で強力な何かが、玲子の魂のどこかと結びついた感覚が、確かにあった。


「無事に術式は起動した」

 とフェリスが言った。


 アンドリューは三人に向けて頭を下げた。

「ダンジョンのこと、これからよろしくお願い申し上げます」


 顔をあげてから言った。

「さて。これにて管理者の変更は完了いたしました。配下の者に街を案内させるといたしましょう」



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