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第13話 インゲームとは何でしょう?

ソシャゲ運営における、インゲームとアウトゲームの重要性とは――?

 北條は言った。

「でも、冒険者の死を回避する方法なんてあるのかな?」


「要するに、死者蘇生ってことですよね? 魔法でなんとかなるんでしょうか?」


 水谷の疑問に、アンドリューが答える。

「僧侶の行使する神聖魔法に、死者蘇生がございます」


「あるの!?」


「……ございますが、ほとんど行使されることはございません」


「えっ、どうしてですか?」


「神殿に高額な喜捨をして、非常に強大な力を持つ僧侶が、魔法陣などの入念な準備と時間をかけたうえで、膨大な魔力を用いて施し、それでも稀にしか成功することがないゆえにございます」


「稀に、というのはどのくらいなの?」


「おおよそ百回に一回程度でございますね」


「あー、それはきついわ」

 一般的なユーザーの感覚では、一%は成功を期待できる確率ではない。


「いくらかかるんです?」


「死者蘇生の術は、神殿でしか行えません。神殿の秘匿する、特殊な魔法術式が必要となるためです。その際に、神殿への喜捨として聖金貨一万枚が求められます」


 玲子は、ぽかんと口を開ける。ダンジョンの五か月分の売り上げである。

「うーん、魔法でどうにかするのは無理そうね」


 ですが、とアンドリューは言った。

「ダンジョンであれば、どうにかできる可能性はあります」


「え? それはどういうこと?」


「あなた様がたには、ダンジョンの管理者になっていただきます」


「ダンジョンの管理者……?」


 首をかしげながらの玲子の問いに、アンドリューが答える。

「はい。ダンジョンの管理者は、ダンジョン内に限り、無限の力の行使が可能とされています。あくまで、可能性として、理屈の上では、と但し書きがつきますが」


「無限の力って?」


「詳しくお話ししましょう」

 アンドリュー曰く――


 ダンジョンを構築しているのは、膨大な魔力だという。ダンジョンを構成する壁や床といった物質すらも、それを顕現させる術式によって存在している。その術式を稼働させる力こそが、魔力――マナと呼ばれるものである。

 ダンジョンには無限のマナが存在しているため、それを利用すれば理論上はいかなる魔法も行使することが可能である。ありとあらゆる奇跡を、ダンジョン内では現実のものとすることできる。


「ですが――」

 とアンドリューは続ける。


 ダンジョンを構築する術式は、はるか昔に失われた知識によって記述されている。現代の知識によって解読できるのは、そのうちのわずか一部に過ぎない。術式の改変が可能なまでに研究の進んだ個所は、更にごくごくわずかな範囲にとどまっている。


 アンドリューは言った。

「現在のダンジョンの管理者は私ですが、正直なところを言えば、ダンジョンの改変までにはいまだ至っておりません」


 玲子は尋ねた。

「魔法について、もう少し詳しく聞きたいんだけどさ」


「なんなりと」


「この世界の魔法ってさ、才能なの? 知識なの?」


 アンドリューはすぐに断言する。

「知識にございます。むろん知識の探究に対する天賦の才はございましょう。しかし生まれついての魔法使いというものはおりません。長い研鑽が必要です」


「さっき言ってたマナっていうやつだけど、その保有量が人それぞれで違ったりしないの? それで魔法の威力が変わったりとか」


「いえ。マナは自然界に存在する力ですが、人間の中にそれはありません。魔法というものは、そのマナを用いて様々な現象を発生させる技術と、それに類する知識のことを言います。魔法使いは、知識を用いてその技術を行使する者です」


「つまり、知識さえ身に着ければ、私たちでも魔法はつかえるのね?」


「その通りにございます」


 なるほどね、と言って玲子は腕を組んで考え込む。


 少ししてから、言った。

「じゃあ、水谷。よろしく!」


「えっ? なにがよろしくなんですか?」


「だって、水谷って魔法使いじゃん」


「それって三十過ぎて童貞って意味じゃないですか!?」


「いやいや、超スーパーハッカー、イコール、ウィザードって意味だよ」


「それであれば、ベルモント領で最高の魔法使いをご紹介いたしましょう。少々、個性が強いきらいはあるのですが、ミズタニ様とは相性がよさそうに思われます」


「いやいや、まだオーケーしてないですけど!?」


「だって、インゲームいじれないと、運営なんかできないもの」


 はて、とアンドリューは首を傾げた。

「インゲームとは一体……?」


「うーん、何て説明したらいいんだろう。ゲームにおけるメインコンテンツ、って言ってもわかんないか」


 玲子は天を仰いで、しばらく考えてから言った。

「たとえば、狩猟のことを考えてほしいの」


「狩猟でございますか?」


「狩猟がゲームだとするわね。実際、狩猟はゲームの語源なわけだけども、それはおいといて。狩人が、動物を追跡して、それを狩る。それが、一般的には狩猟と言われる行為よね」


 はい、とアンドリューは頷く。

「でも、狩猟って、実はそれだけでは完結してないわけ。狩りの前には、計画を立てる、狩猟具を用意するなんかの準備が必要で、狩りのあとには、獲物の解体、売却なんかがあるわけよ。それらすべてが、狩猟っていうゲームの全体を構成しているわけ」


「なるほど」


「その中で、最もコアに体験してほしい部分――この場合は、動物を追跡して狩るっていう部分ね、そこのことを私たちはインゲームと呼んでいるの。要は一番楽しいところ」


「それ以外のところは?」


「インゲームに対して、アウトゲームって呼ばれるわ。狩猟もアウトゲーム部分がないと成立しないように、近代のゲームはアウトゲームがないと成立しない」


 なるほど、と言ったのは北條だった。

「言われてみれば、ファミコンとか昔のゲームには、インゲームしかなかったかも」


「そうなの。アウトゲームが生まれたのは、ソシャゲとかの運営型ゲームが主流になってから」


 水谷は頷きつつ言った。

「それで、ダンジョンにおけるインゲームは、ダンジョン探索そのものなわけですね」


「ええ。インゲームとアウトゲームは、運営型ゲームの両輪なの。どっちが欠けても成立しないわ」


「そうか……。だから、ダンジョンに関する魔法を把握する必要があるわけですね」


「頼むわね。でも正直、すぐにってわけにはいかないわよね?」


「当り前じゃないですか。使ったことのないプログラミング言語を覚えるみたいにはいかないでしょう。魔法っていう、異世界の論理体系から学習しないといけないので」


「そうなると、まずはアウトゲームから手を付けたいところだけど……」

 と玲子は考え込む。


 アンドリューが尋ねた。

「どうなさるのですか?」


「ダンジョンの外側で、ユーザーの継続率を上げる方法が何かないかしら?」


「それでは一度、冒険者ギルドと話をしてみるのはいかがでしょう?」


「なるほど。一番、冒険者とやり取りしているところね。何かヒントが見つかるかもしれないわ」

 玲子は、考え込むように天井を見上げて――、はっと我に返った。


「うっかり仕事してしまってる!」


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