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第101話 二体のサイクロプス

冒険者アラートを確認した玲子たちは、ダンジョン内の映像を確認する。そこには、二体のサイクロプスと対峙するルーベルンたちパーティの姿があった。

二体のサイクロプス


「あっ!」

 ナイフでステーキを切り分けながら、玲子は不意に声を上げた。


 夕食の席である。メルルとアルスが不在であったが、それ以外の運営メンバーが、同じテーブルを囲んでいる。


 デザイナーの北條が尋ねた。

「どうかしたの?」


「冒険者アラートが出てる」


「おお! 例のやつだね!」

 北條は嬉しそうに言った。


 プログラマーの水谷が尋ねた。

「何番です?」


「コード7。こないだ追加したやつね」


「なるほど。ルームガーダーのやつですか」


 地下八階でルームガーダーの守る部屋は、一つではない。そのすべての部屋について、冒険者が侵入した場合に、アラートが上がるように追加したのである。


「マップ・ダンジョン」

 指輪に触れながら玲子が唱えると、ダンジョンの地図が中空に現れる。

 地下八階のそれを表示させると、一つの部屋が赤く点滅していた。


 玲子はそこに触れつつ、続けて呪文を唱える。

「モニター・ダンジョン」


 ウインドウが開くようにして、ダンジョン内の映像が展開された。


 北條が、おお、と声を上げた。

「解像度すごいね。4K?」


「それ以上あると思いますよ。まあ、魔法ですから……」


 北條の軽口に、水谷が律儀に答えている。


「これから戦闘が始まる感じかな?」

 北條の言うように、画面内では、ルームガーダーであるサイクロプスと、冒険者パーティが対峙している。


「ルーベルン、だっけ? ギルバート伯のところのパーティよね?」


 玲子が言うと、アンドリューが頷く。


 冒険者は、先日見たのと同じ、ギルバート伯の雇う、ルーベルンたちのパーティであるようだ。


 アンドリューは言った。

「サイクロプスは強敵ではありますが、既に一度戦って、勝っている相手です。さほど苦戦せず倒せるのではないでしょうか」


「いや、そう簡単でもなさそうだよ」

 北條が言う。


 玲子が、あっと声を上げた。


 映像では、一体のサイクロプスの後ろから、のっそりともう一体、一つ目で巨躯のモンスターが現れるところであった。


「えっ!? サイクロプスが二体いるじゃない!」


「なんと!?」

 と、アンドリューも驚愕の声を上げる。彼にとっても予想外のことだったのだろう。


 当事者であるルーベルンたちからも、映像越しに動揺が伝わってくる。

 しかし、さすがは一流の冒険者である。すぐに戦う姿勢に変わった。


 そして――戦闘が始まった。



「いや、これ無理だろ!」

 狩人のジェイルが悲鳴にも似た愚痴を吐く。


 狙うべきは、サイクロプスの目である。

 そして、確実に目を狙うには、まずは足を狙って動きを止めるのが肝要だ。


 わかってはいる。わかってはいるが、実行が難しい。


 サイクロプスは、自己再生力を持っている。皮膚が再生する程度で、深い傷を負えば回復に時間がかかる。

 そんな弱い再生能力ではあるものの、敵が二体となると、これが厄介であった。


 一体を無力化しようと攻撃している間に、もう一体が攻撃を加えてくる。そのもう一体に対処している間に、最初にダメージを与えた個体は回復してしまう。


 既にそれが、四回ほど繰り返されていた。


 一度、引くべきか――。

 ルーベルンは思案を巡らす。


 ジェイルはまだ戦えそうだ。ミグラスとハーディはどうか。

 視線を送ると、ミグラスとハーディが頷きを返す。

 問題ない、ということである。


 しかし、このままではジリ貧であることは明らかだった。


 問題は攻撃力にある。

 ルーベルン隊で、最大の攻撃力は、ルーベルン自身の持つ魔剣による攻撃であったが、それでも一撃でサイクロプスを倒すような威力はない。パーティの連携で倒すしかないのである。


 その、連携で倒せる相手も、どうやらサイクロプス一体までのようだ。

 二体を相手するには、この四人だけでは厳しかった。


「くそっ!」

 とルーベルンは吐き捨てた。


 ここは、ひとまず撤退を選ぶしかない。冷静に考えて、それしか結論できなかった。

 同時にそれは、ルーベルン隊による単独攻略の、限界を認めることに他ならない。


 ここ以降は、エース級であるルーベルン隊だけでなく、複数パーティで連携した、レイド体制で攻略するしかないだろう。


 ルーベルンは、撤退の宣告をすべく、口を開いた。


 そのとき――。


「助太刀いたします!」

 声と共に、ルーベルンの眼前に、人影が走り出た。


 重量級のフルプレートアーマーを着ているにもかかわらず、その動きは軽い。


 鎧に描かれた意匠を見て、ルーベルンは舌打ちした。

 それは、先月からダンジョン攻略に乗り出した、神殿の紋章である。


 神殿騎士は、サイクロプスの振り下ろす棍棒を、ハルバードで受け止めた。

 そう。受け止めたのである。


 ――バカな。

 ルーベルンは心の中で驚きの声を上げる。


 神殿騎士は、びくとも動かない。恐るべきサイクロプスの膂力と、拮抗しているのだ。


 いや、むしろ鍔迫り合いで優勢なのは、神殿騎士の側であった。

 じりじりと棍棒を押し返していく。


「はあああああっ!」

 気合一閃すると、そのままサイクロプスを押し飛ばし、転倒させた。


 同時に、神殿騎士が跳躍する。空中で、両手に握ったハルバードを下に向けて構えた。


 尻もちをついた格好のサイクロプスの目に、ハルバードが突き立てられる。ハルバードは眼球を破壊し、そのまま後頭部に突き抜けた。

 ごぼりと血を吐いて、サイクロプスは動きを止める。


 驚くべきことに、神殿騎士は、一撃のもとにサイクロプスを倒したのであった。


 ルーベルンには、神殿騎士の放った最後の技に、覚えがあった。


「ミューゼル流……」


 それは、ルーベルン自身も幼いころに師事したことのある、鎗術流派の名であった。


 その流派はもう存在していない。何故なら、その流派の宗主が、人魔戦争で亡くなったからだ。

 しかし、流派として存続しなくなっても、その技を継いだ者はいる。

 彼の噂は、ルーベルンも聞いていた。


「……聖騎士ヒョードルか」


 その呟きが聞こえたのか、ヒョードルと思われる騎士は、振り返ってルーベルンを見た。

 ゆっくりと頷き、いかにも、と言った。

「こちらは片付きました。お仲間を助けに行かれるとよろしいかと」


 ヒョードルの言葉にはっとして、ルーベルンはジェイルたちを見る。ヒョードルが一体のサイクロプスを相手取っている間に、ジェイルたちはもう一体のサイクロプスの目を潰すことに成功していた。


 ルーベルンは、サイクロプスに止めを刺すべく、彼らの元に駆け出して行った。

すみません。また時間が空いてしまいました…。

次回更新は2/9を予定しています。

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