第99話 オルトロスとの遭遇
勇斗とアンジェロは、隠しエリアを探して、地下七階の探索を進めていく。
「まだ、地下七階全体の二十パーセントってところか……」
勇斗は、広げた地図を見て、ため息をついた。
二十パーセントというのは、地下七階が、前の階層と同じ程度の広さであればの話である。実際どの程度、地下七階の探索が進んでいるかは、勇斗にはわからない。
「どっか、怪しいとこある?」
横から地図を覗き込んで、アンジェロが尋ねた。
勇斗は首を振る。
「今のところ、隠しエリアがありそうなところは見当たらない。もっと階層の全体が見えてこないと、エリアを絞りきれないかもな」
勇斗たちが探しているのは、地下七階にあるはずの、隠しエリアである。
隠しエリアに通じる扉や通路が、地下七階のどこかに隠されている――と勇斗は思っている。
ただ、闇雲にディテクト・シークレット――秘密感知の魔法である――をかけて回るのも効率が悪すぎる。
ある程度、当たりをつけてから、隠し扉の探索に移りたい。それもあって、地図を作成しているのである。
たとえば、通路に囲まれてはいるが、入り口の見当たらない空間。やけに内側にせり出している壁。そういった、いかにも怪しいところから、探索を進めていきたいところであった。
だが、今はまだ、そういった場所は見当たらない。
「三日がかりでこの状況だと、想定より時間がかかりそうだな……」
地下七階までは、およそ五日で到達した。そこから地下七階を、三日をかけて探索して、二十パーセント程度の進捗なのである。もし全体を踏破するならば、単純にあと十二日かかる計算になる。
昨日、アイテム召喚の呪符を使って、一週間分の食料と水を補充しているので、そこについては問題ない。勇斗の懊悩は、別のところにあった。
「とりあえず一か月以上は休むって言ってきたから、大丈夫ではあるけど……なるべくなら早めに職場復帰したいところだなぁ」
勇斗の副業は、建築ギルドの職人である。冒険者と二足の草鞋だが、収入面では明らかに職人仕事のほうが上なので、どちらが副業かと問われると、実際のところは微妙である。
地下七階探索のために、多くの出費があったので、勇斗の懐事情は厳しい。
アンジェロが気合の入った声で言った。
「それじゃ、早く帰れるように、今日も張り切って探索していこう!」
「そうだな! いくか!」
勇斗は応えると、宿泊用の小型テントを撤収して、本日のダンジョン探索を開始した。
ステルススタイルでのダンジョン探索は、率直に言って効率が悪い。
まず、探知系魔法で周囲を警戒しながら進むので、移動速度が出ない。
もし魔物を見つけたら、それを回避する方法を検討する必要がある上、どうしても回避できない場合は、別の道を探す必要も出てくるし、モンスターに気付かれて逃走することもある。
したがって、思い通りの道を進むことはできず、勇斗たちのたどった道は、ぐねぐねと曲がりくねっていた。
目的地がどこかわからない以上、あらゆる場所を探索する必要があるので、それはまあ、いいのである。
ただ、もし、目的の場所が、どうしても勇斗たちの越えられない障害――たとえば、強力なルームガーダーの守る部屋の先などにあるとすると、匙を投げるしかない。
しかし、その可能性は、勇斗たちにとっては折り込み済みのリスクである。そのようなリスクがあることを承知で、彼らは地下七階を探索していた。
地下七階の一角ですら、網羅しているとは言い難い地図を見ながら、勇斗たちは未探索のエリアへ足を踏み入れていった。
勇斗が、起動していた魔法によって生命反応を探知して、アンジェロが斥侯に出る。
アンジェロが発見したのは、一体のオルトロスであった。双頭の犬である。
「どうする?」
アンジェロは勇斗に尋ねた。
勇斗は少し考えこみながら、確認する。
「オルトロスがいるのは、通路だよな……? どのくらいのサイズだ? 横を抜けられそうか?」
「そんなにでっかくなかったから、抜けられるとは思う。でも、オルトロスは犬の魔獣だから……」
「臭いでバレるかも、だな」
頷いてから、勇斗は再び考え込む。
インビジビリティは、対象の姿を透明にする魔法である。姿が消えるだけで、体臭や物音などが消えるわけではない。そのため、犬のように鼻の利くモンスターには、存在を察知される傾向にあった。
勇斗は尋ねた。
「オルトロスって、確か六階にも出るよな?」
「うん。僕らは遭遇したことないけどね。ていうか、地下六階ではモンスターと遭遇してない」
勇斗たちは、地下五階から、落とし穴を落ちて移動してきた。そのため、地下六階では、魔物との戦闘を行っていないのである。
「地下五階のモンスターは、なんとか俺たち二人で撃退できた。地下六階レベルのモンスターだと、どうだろう……」
地下五階の落とし穴は、上層から降りた階段から、若干の距離があった。そのため、ジャイアントバットと遭遇することになったのである。その時は苦戦したものの、なんとか撃退することができたのである。
地下七階のモンスターならば、かなり分が悪い。逃げるにしかずである。
しかし、地下六階にも出るレベルのモンスターならば――?
勇斗は言った。
「やってみるか?」
アンジェロも頷く。
「だね。インビジビリティで抜けられない可能性がある以上、引き返すか、戦うか、だもん。この調子じゃ、地図が埋まっていかないからね」
勇斗とアンジェロは頷きあって、戦闘の意思を固めた。
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
次回更新は、1/4を予定しています。




