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第98話 地下七階、探索開始!

落とし穴ショートカットを駆使して、地下七階に到達した勇斗たちは、探索を開始する。

「ここで改めて、目的の確認だ」

 勇斗は言った。


 アンジェロが頷く。


「俺たちは、ここ地下七階で、未探査の隠しエリアを探す。そのためには、まず、マップの作成を進めていかないといけない」


「そのために、高価な地図作成の魔道具を準備したんだもんね!」


 アンジェロの言う地図作成の魔道具というのは、周囲の壁を自動的に書き込んでくれる魔道具である。言うなれば、オートマッピングであり、地図作成の労力が大きく軽減されるアイテムである。


「聖金貨十枚もしたけどな……」

 勇斗はため息をつく。二人で折半したものの、これにより勇斗の貯蓄は大きく目減りした。


「お宝見つけたら、一気にプラスだから!」

 アンジェロはそう明るく言って、勇斗を慰める。


 その言葉に気を取り直して、勇斗は言った。

「探索の方針だが、ひとまずは左手法でいく。全体を網羅するには、それが一番手っ取り早い」


 左手法というのは、迷路の壁に左手をつけた状態で進んでいく方法である。スタートからゴールが壁で繋がっているならば、いずれゴールにたどり着くことができる。

 ただし、壁で繋がっていない構造の場合は、別の方法をとる必要が出てくるのだが、簡便で実行しやすいため、多くの冒険者が実践している手法であった。


 当然、アンジェロもその方法は理解していて、勇斗に頷き返す。


「魔物への対処だけど、基本的に回避する方向で進める。そのために、高い金払って、幻惑系の魔法を揃えたんだからな」


 今回、魔術師ギルドで各種魔法を揃えたことで、勇斗の使える魔法は倍増した。なんと、その魔法のほとんどが幻惑系である。

 幻惑系は、探知、隠蔽に特化した魔法系統であり、冒険者にその使い手は少ない。そのようなレアな魔法は、習得するのに、そうでないものより費用が掛かるのである。

 それでも、勇斗はこれらの魔法を揃える必要があった。なるべくモンスターと戦わずして、地下七階を探索するためである。


「うまくいってくれよー。いかなきゃ泣く」


 勇斗の言葉に、ははは、とアンジェロは乾いた笑いを返した。



『生命を知覚せしめよ』

 勇斗は古代語で詠唱した。手にした片手剣の刀身に、魔法回路が形成される。

「ディテクト・ライフ」

 魔力が魔法回路に流れ込んで、魔法が起動した。


 ディテクト・ライフは、生命探知の魔法である。

 勇斗の視界で、アンジェロの姿がぼんやりと赤く光った。アンジェロの生命反応が、光として知覚されているのである。


「よし。俺たち以外は誰もいないみたいだ」


 ひとまず、効果範囲内に、他の生命体がいないことを、勇斗は確認した。


 ディテクト・ライフの効果範囲は、およそ三十メートルに設定している。

 もっと広い範囲を探知することもできるのだが、その場合は多くの魔力を消耗することになり、効果時間が短くなる。

 探知系の魔法は、魔力の消費が少ないのがメリットである。術者の技量次第だが、魔石一つでかなりの長時間、効果を持続させることができる。

 効果範囲が三十メートル程度であれば、勇斗でも三十分は魔法を維持できるのである。


『魔力を知覚せしめよ』

 勇斗は続けて、古代語の詠唱を行う。

「ディテクト・マジック」

 魔力探知の魔法である。


 ダンジョンのモンスターは、生命体であるとは限らない。一定数、魔法生物が混じっている。

 生命探知だけでは、すべてのモンスターの存在を事前に察知することは難しく、そのため勇斗は、魔力感知も併用しているのである。


 魔力感知には、何も反応がなかった。魔法生物の発するような強い魔力はもちろん、魔法が使われた痕跡のような弱い魔力もない。


「オールクリアだ。周囲に障害なし。進むぞ」


「了解」

 アンジェロが先に立って歩きだす。


 左手に壁がくるようにしながら、二人はダンジョンを進んだ。左手に通路があれば、左手に折れる。右手側の通路は、ひとまず無視である。壁がつながってさえいれば、その通路にもいずれたどり着くからだ。


 五分ほど探索していると、赤い靄のようなうっすらとした光が、勇斗の視界に入った。

 生命反応である。


「ストップ。左前方、なんかいる」


「距離は?」


「ちょうど今、感知したとこだから、たぶん三十メートルだと思う」


 通路は、左に向かって折れている。その先にモンスターがいる可能性が高い。


 勇斗は目線でそちらを示しながら言った。

「アンジェロ、頼む」


「了解」

 短く言って、アンジェロが斥侯に出た。


 勇斗は、他にモンスターの反応がないか、周囲に気を配りながら、アンジェロの帰還を待つ。


 ややあって、アンジェロが戻ってきた。


「どうだった?」


「この先に小部屋があって、そこにグリフォンがいる」


「奥の扉は? 閉まってるか?」


「扉はなかった。どうやらルームガーダーじゃなさそう」


 小部屋にルームガーダーがいる場合、奥には閉ざされた扉がある。ルームガーダーはその扉を守っている魔物である。最悪の場合では、ルームガーダーを倒さない限り、その扉は開かない仕組みになっていることもあった。

 今回、その心配はないようである。


「部屋ってんなら好都合だ。うまくいくかわかんねーけど、例のやつを試すぞ」


「まあ、やってみるしかないよねえ」

 言って、アンジェロがため息をつく。

「僕たち二人じゃ、さすがにグリフォンは相手にできないしね」


「ていうか、地下七階に、俺たちが戦闘で切り抜けられる相手なんかいねーだろ」


「そうだよねぇ……」

 またアンジェロがため息をつく。


 勇斗は、まるで自信に満ちているかのごとく、断言した。

「俺たちにできるのは、ステルスプレイだけだ!」


「すてるす……って、隠れながら行くってことだよね」


「そうだ。こっそりと進んで、見つかったら逃げる」


「なんか冒険者っぽくないなぁ」


「戦うことばっかりが冒険者の仕事じゃないだろ」


「そうだけどさぁ……」


「つべこべ言うなって。じゃあ、例のやつ、いくぞ」

 勇斗は言って、古代語の呪文を詠唱する。


『彼の者の姿を隠せ』

 魔法の対象を、アンジェロにとる。

「インビジビリティ」


 その瞬間、アンジェロの姿が搔き消えた。


 インビジビリティは、対象を不可視にする、透明化の魔法である。効果対象は、完全に姿が見えなくなる。

 ただし、音や匂いはそのまま残るので、魔物によっては効果がない。グリフォンに効くかどうかは、正直なところ、試してみないとわからない。


「先に行ってくれ。俺は後から行く」


「オッケー」


 インビジビリティの効果時間は、非常に短い。勇斗の技量では、三十秒程度がいいところである。


 すぐに、ざっ、と床を蹴る音がした。

 姿は見えないが、アンジェロは、この先の小部屋に突入したはずである。


 二人同時に進まないのは、お互いが見えないことで、衝突などが懸念されるからだ。


 勇斗は、アンジェロがグリフォンに気づかれないことを祈りながら、腕時計を見る。


 十秒――二十秒――三十秒。


 ぺき、と魔石が砕ける。アンジェロのインビジビリティを起動するのに使用した魔石である。


 魔法は解除されたが、アンジェロの安否はどうか――?


 小部屋から物音はしなかった。どうやら、戦闘にはなっていない。無事、通過したようである。


 ふう、と勇斗はため息をついてから、自らにインビジビリティを施した。


 一歩を踏み出すと、眼前に、伝説に聞くままのグリフォンがいた。

 獅子の身体に鷲の頭部。翼を折りたたみ、頤をあげ、すっくと四つ足で立っている。


 体長は、三メートルにも及ぶだろうか。もし、通路で出会ったなら、その横をすり抜けることなどできはしまい。

 しかし、幸いなことに、今それがいるのは、小部屋である。左右には二メートルほどの隙間があった。


 勇斗は、巨大なグリフォンの威容を正面に捉えながら、小部屋に入り込んだ。

 なるべく音を立てず、それでいて、急いで――。

 グリフォンの横を、すり抜けていく。


 グリフォンは何の反応も見せなかった。頭部は鳥類のものなので、それほど嗅覚が鋭くないのかもしれない。


 勇斗は、ちらと時計を見た。――あと十五秒。

 小部屋奥の通路までは、あと五メートル。


 大丈夫だ。十分に時間がある。音さえ立てなければ、気づかれることもない。

 勇斗は、吐く息すらも最小限にしながら、じりじりと進み、奥の通路の入り口までたどり着いて――啞然とした。


 奥に続く通路は、直線である。五十メートルはあるだろうか。

 ――グリフォンから身を隠す場所がない!


 左前方に、生命反応を示す赤い光があった。おそらく、アンジェロのものであろう。


 くそっ!

 心の中で小さく吐き捨てる。インビジビリティの効果時間は、あと少しもない。


 勇斗は振り返って、グリフォンを見た。先ほどの姿勢で微動だにしておらず、こちらからだと背後を向いている。


 ぺき、と小さな音がした。魔石が砕けたのだ。インビジビリティの効果は、ここまでである。

 再詠唱するべきか、一瞬だけ迷う。しかし、その声が、グリフォンに届いてしまったら――。


 勇斗は、グリフォンを向いたまま、じりじりと後ずさる。

 ゆっくり、音をたてないように。ゆっくり……ゆっくり……。

 グリフォンの一挙手一投足に気を配りながら、永劫とも思える時間を、後ろ向きに歩む。


 不意に右手をつかまれて、声を上げそうになった。


「ユート、こっちだ」

 アンジェロの押し殺した声がして、そのまま、側道に引き込まれる。


 ばたりと倒れこんで、はぁ~~~~~と大きなため息を、勇斗はついた。


「こんな長い通路があるなんて聞いてないぞ!」


「僕だってびっくりしたよ! なんとか忍び足でここまで来たんだ」


 二人は小声で愚痴る。


「しかし、なんとか突破できたな」

 言って、勇斗は、にかっと笑ったが――。


 アンジェロはため息をついて、勇斗に尋ねた。

「これ、あと何回やらなきゃいけないの?」

今回は早めにアップできました。

次回更新は12/27予定です。

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