第1章9話:盗賊
「さっそく、準備に取り掛かろう」
と俺は言った。
俺は、手頃な岩を拾う。
そして木に登った。
獣道のすぐそばの樹木だ。
太い樹木であり、枝も太い。
俺は、その枝のうえで、岩石を脇に抱えながら待機する。
一方――――
ラミアリスは、獣道にぺたりと座り込んでいる。
右の足首を、右手で押さえている。
(俺もラミアリスも、スタンバイ完了だ)
と。
そのとき。
話し声と、足音が聞こえてきた。
盗賊がやってきたようだ。
ジャストタイミングである。
盗賊の討伐作戦は、ラミアリスの演技から始まる。
ラミアリスが、声を上げた。
「だ、誰か! 誰かいませんか!?」
すると盗賊たちの足音が止まった。
「あん? いま人の声がしたな?」
「女か?」
盗賊たちがやってくる。
俺が予言したとおり、二人組である。
黒髪の盗賊と、茶髪の盗賊。
どちらも男性である。
盗賊たちは、座り込んだラミアリスを発見する。
「足をくじいてしまったんです! お願いです。助けてください……!」
とラミアリスが状況を説明する。
もちろん、足をくじいたというのはハッタリだ。
作戦であり、演技である。
「怪我人かよ。うわ……!? こいつ、ルーカーだぜ?」
「……! ほんとだ。ルーカーだな。近くの集落から逃げ出してきたのか?」
盗賊たちがラミアリスに【階級判定魔法】を使ったようだ。
すぐにラミアリスをルーカーだと見抜く。
「しかも、結構可愛いぞ」
「ああ。……ツイてるな。これは楽しめそうだぜ」
下卑た笑みを浮かべる男たち。
ニヤニヤしながらラミアリスに接近する。
樹上にて、俺は両手に岩石を持つ。
――――黒髪の盗賊は斧を携帯しており、茶髪の盗賊は短剣を携帯している。
まず潰したいのは、斧使いのほうだ。
俺は黒髪の盗賊に狙いを定める。
そして。
樹木の枝から飛び降りた。
黒髪の盗賊の脳天に、岩石を叩きつける。
「ぐごッ!!?」
頭をかち割られた盗賊が、あっけなく昏倒する。
よし、初手で一人目を倒すことができた。
残るはあと一人だ。
「な、なんだいきなり!?」
と、茶髪の盗賊が慌てふためいた。
俺は茶髪の盗賊に向かって、岩を投げつける。
「ぐあっ!? いってぇ!!」
勢いよく岩をぶつけられた茶髪の盗賊が、苦悶の表情を浮かべた。
俺は間髪入れず、茶髪の盗賊に殴りかかる。
「ぐばっ! ごっ! がはっ!!?」
あごに一発。
みぞおちに一発。
脇腹に一発。
拳を叩き込み続ける。