第1章6話:川辺
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!」
ゲームでは何度も経験したこと。
しかし、これはゲームではない。
一度死んだら終わりだ。
だから俺は、崖からのダイブに、心臓が縮こまるような思いだった。
ラミアリスも落下しながら泣き叫んでいる。
空気抵抗の風圧が下からびゅうびゅうと吹きつけてくる。
川の水面が近づいてきた。
そして。
ザバアアァァンッ!!!
……と、俺たちは着水する。
水面に叩きつけられる衝撃に痛みを覚えながら、水中で目を開く。
結構深さのある川だ。
冷たい水が肌を冷やす。
水中に魔物らしき魚の姿はない。
このまま陸地まで泳いでしまおう。
「ふう……」
陸地から這い上がる。
砂利の河原である。
すぐ先には森林地帯が広がっている。
ラミアリスも川からあがってきた。
「無事だな」
俺も怪我はない。
ラミアリスも無事のようだ。
「はぁ……はぁっ……はぁ……死ぬかと思った。あなた……いつかゼッタイぶっ飛ばす!」
とラミアリスが怒りを込めた瞳で俺をにらんできた。
俺がラミアリスを突き飛ばしたから、憤怒しているのだろう。
俺は肩をすくめる。
「怒るなよ。助かったじゃないか。あのまま立ちすくんでいたら、衛兵に捕まって終わってたぞ」
「それはそうだけど……何も突き飛ばすことないじゃない!」
「突き飛ばされたくなかったら、次からは自分で飛び降りることだな」
「次なんてないわ。崖から飛び降りるなんて、二度としないんだから!」
とラミアリスが憤慨していた。
よほど落下が恐かったらしい。
俺は、くく、と苦笑する。
「とにかく衛兵を一時的にまくことができた。けど、ここからが本番だ。気持ちを切り替えろ」
ラミアリスに睨まれたが、俺は無視して続けた。
「とりあえず水と食料を確保しながら、盗賊を探すぞ」
「盗賊?」
「このシフォンド山には盗賊がいるんだよ。二人組でうろつき回っている。そいつらを殺して、装備やアイテムを奪う。火おこしをするための火打石も欲しいが、それも盗賊たちが持っているはずだ」
火おこしをしないと食料もまともに食べられない。
水も沸騰させないと、腹を壊しかねないだろう。
火打石は絶対に手に入れたい道具だ。
するとラミアリスが怪訝そうな顔を向けてくる。
「なんでそんなことわかるのよ? まさか、あなた、その盗賊の一味とか……?」
盗賊が二人組でうろついていることや、火打石を持っていることは、前世知識である。
通常は得られる情報ではない。
だからラミアリスからすると、なぜ盗賊のことに詳しいのかと不審に思っただろう。