第3章54話:上級魔族
串刺しになったまま死んだイザナ。
その亡骸が急速に風化していく。
最後には枯れ木のような色になって、ボロボロと砂のごとく崩れ落ちた。
また、召喚魔法陣のうえに転がっていた、生け贄の女性の死体も、同じように崩れていく。
崩れた命と血液が、召喚陣に吸収される。
召喚陣の光が一層、輝きを増し……
その陣の中央から一匹の魔族が現れはじめた。
「魔族が……」
とラミアリスがつぶやく。
「イザナが死んだことで、生け贄の数が揃ったんだ」
「それって、イザナが生け贄になったってこと?」
「そうだ」
この魔法陣は、上級魔族を召喚するための儀式陣だ。
召喚に必要なのは人間の生け贄である。
既に何人かのルーカーが、儀式の生け贄に捧げられていたようだが、生け贄の必要数が足りていなかった。
しかし女領主イザナが死去し、その血と命が儀式陣に流れた。
これにより、生け贄の必要数が満たされ、儀式陣が発動してしまったわけだ。
「ふう……」
召喚を終え、現界した魔族がひと息つく。
男性の魔族だ。
銀色の髪と、赤い瞳。
赤い体表。
二本のツノ。
身長190センチぐらい。
上半身が裸体。
下半身には高貴なズボンを履いている。
上級魔族――――ザファトロスである。
上級魔族の召喚が完了したことで、召喚魔法陣が光を失っていく。
ザファトロスが言った。
「くくくく。ようやく現世に舞い戻ることができたぞ」
とザファトロスが歓喜に打ち震えていた。
「我は大魔族ザファトロス。召喚主・イザナは死んだ。おかげで我は完全に自由というわけだ」
一般的に召喚陣によって召喚された魔族は、従魔として召喚主に従うものである。
ところがザファトロスはイザナを食い殺す形で召喚されたので、従うべき主は存在しない。
完全に解き放たれた上級魔族というわけである。
「まずは、貴様たちを食い殺す」
とザファトロスは宣言した。
ザファトロスの両眼が、俺たちを射抜くように見つめてくる。
ラミアリスが反論した。
「……なぜ? 自由になったなら、どこへなりと行けばいいじゃない」
「まだまだ血と命が足りぬ。もっと生命力を得なければ、全盛期には程遠い。貴様たちを食えば、その不足も多少なりとも満たされよう」
ザファトロスの言葉に、ラミアリスが俺に聞いてくる。
「あいつ、あんなこと言ってるけどどうするの? さすがに上級魔族を相手にするのは、厳しくない?」
ラミアリスは冷や汗を浮かべていた。
上級魔族は戦闘能力が高く、ちょっとしたドラゴンぐらいの強さがある。
まともにやりあったら危険だと思ったのだろう。
しかし俺は……
むしろ笑いが込み上げてきていた。
「ははははははは!」
豪快に笑った。
なぜなら、ザファトロスの討伐は簡単だからだ。
俺の持つ剣・シルバーソードには『特定の魔族を一瞬で討伐する』という特殊効果があるのだが……
まさにザファトロスはその討伐対象である。
(ここでザファトロスが召喚されたのは大きい)
ザファトロスは一定確率でしか召喚されない魔族だ。
しかも倒した場合に落とすレアドロップが美味しい。
RTAにおいては絶対に欲しいアイテムなのだ。
「貴様……なぜ笑う」
とザファトロスが不愉快そうに聞いてきた。
「いや、俺はツイていると思ってな」
そう答えると、ザファトロスが吐き捨てるように言った。
「我の到来に絶望するばかりか、歓喜するとはな……人間の分際で不遜であるぞ!」
「自分が狩る側だと思ってるのか? 生憎だが、それは間違いだ。お前は狩られる側だよ」
と俺は応じた。
さらに俺は言い放つ。
「上級魔族の死体からは良い装備が作れるからな。お前をぶち殺して、今後使っていく武器の素材にしてやるよ」
「……ッ」
挑発的な俺の言葉に、ザファトロスが青筋を浮かべた。




