第1章5話:崖
たしかに危険だ。
しかしリターンは大きい。
なにしろ、崖を飛び下りることに成功したら、一時的に衛兵を振り切ることができる。
もちろん衛兵たちも、崖を迂回して俺たちを追ってくるだろうが……
しばらく時間が稼げる。
そのあいだに衛兵と戦うための装備やアイテムを、シフォンド山の中でゲットするのだ。
これが俺のプランである。
「ルーカーが幸せを掴むには、無理をするしかない。何かを得るためには、勝負に出るときも必要――――いや、説教をするつもりはない。やるか、やらないか、選べ」
「……」
ラミアリスは難色を示していた。
しかし。
ややあって、ため息をついてから言った。
「わかった。やってやるわよ」
「……決まりだな」
ラミアリスの同意が得られたので、さっそく細かい作戦を説明する。
数分後。
準備が整った。
俺は告げる。
「いくぞ」
「ええ!」
俺たちは幌馬車から飛び出した。
まず俺は、一番近くにいた女衛兵の顔面に拳を叩き込む。
「がっ!!?」
女衛兵がひるんで尻餅をついた。
俺たちは崖に向かって走る。
他の衛兵たちが叫んだ。
「ルーカーどもが逃げ出したぞ!」
「捕らえろ!!」
衛兵たちが慌てて俺たちを取り押さえようと迫ってきた。
一人の男衛兵が俺の前に立ちはだかる。
槍を向けてきた。
だが、俺は衛兵の攻撃パターンを熟知している。
RTAでは、このタイプの衛兵とは散々やりあったからな。
突破に苦労などしない。
「退け!」
俺は槍の攻撃を避けつつ、カウンターで男衛兵のあごを殴りつけた。
「ぐはっ!?」
もろにあごへとクリーンヒットしたため、衛兵がふらつく。
そのあいだに俺は、衛兵の横を走りぬける。
既にラミアリスは崖のふちに到達していた。
しかし崖の高さに怯えて、飛ぶ勇気がないようだ。
俺は叫んだ。
「バカが! 立ちすくんでんじゃねえよ!」
怒鳴りながら俺は。
ドンッ、とラミアリスの背中を突き飛ばした。
「きゃっ、ああああああああああああっ!!!?」
ラミアリスが崖の向こうへと身を躍らせた。
俺も後に続いて、崖から空へとダイブする。
すぐに自由落下にしたがい、断崖の下へと急降下を始めた。




