第2章33話:出発
――――――第2章
翌日。
朝。
晴れ。
川で魚が獲れたので、焚き火で朝食をおこなった。
朝食が済んだら、さっそく出発の準備をする。
とりあえず俺たちは、衛兵隊長から回収した【ボルケウスの戦衣】に着替える。
ボルケウスの戦衣は、男性用と女性用があり、それぞれ見た目が違う。
男性用は、まさしく戦衣というべき装束である。
一方、女性用は、胸を覆う装束と、ショートパンツのような腰装備。
かなりラフな格好であり、露出が多めである。
人によってはなかなか着るのが億劫になるような装備だが……
「なかなか素敵な装備じゃない? これ」
とラミアリスは気に入っていた。
「この時点で手に入る防具としては一級品だ。しばらく使っていこう」
「わかったわ」
とラミアリスがうなずいた。
さて着替えが終わったところで、さっそく出発する。
シフォンド森林を歩き始める。
俺は歩きながら、ラミアリスに説明をした。
「今後の目標を明確にしておこう。まずはアイテムや装備を集めつつ、レベリングをおこなう」
「んで、準備が整ったら領主を討伐しにいくわけね?」
「そういうことだ」
と俺は肯定した。
俺はさらに続ける。
「森を抜けた先にある、シフォンド岩場に移動する。そこには【シフォンドダンジョン】という洞窟があって、隠し部屋に宝箱があり、アイテムバッグが入っている。これをまずは回収する」
アイテムバッグは最優先で入手したい代物だ。
なにしろ、通常のバッグではアイテムを拾いきれないからだ。
アイテムバッグを手に入れるだけで、所持容量の問題が大きく改善される。
「……なぜ隠し部屋の宝箱の中身を、あなたが知っているのかについては、詮索しないほうがいいのね?」
「そうだな。聞かないでくれると助かる」
前世の知識をベースにしていることは、話すつもりはなかった。
話したほうがスムーズにいくこともあるかもしれない。
しかし今のところ話さなくても上手くいっている。
だから、これでいいと思う。
「アイテムバッグを拾うついでに、他の重要アイテムも拾っていく。何か質問はあるか?」
「特にないわ」
とラミアリスが答えた。
「じゃあ、いま言った手筈でいこう」
と俺は言った。
森を歩き続ける。
数時間後。
いよいよシフォンド森林が終わった。
ここからはシフォンド岩場だ。
むきだしの地面と、芝生。
それらのうえに横たわる無数の巨大な岩石。
大きな岩石や、高台や断崖が無数に点在しているため、ここは『岩場』という名前がつけられている。
岩や断崖の合間を縫うように進んでいくことになるが、ちょっとした迷路みたいになっている。
目的地は、この岩場の奥にある【シフォンドダンジョン】だが……
先にシフォンド岩場で取っておきたいアイテムを回収しておきたい。
基本はシフォンドダンジョンへ向かって進みつつ、細かく寄り道をおこなうことにしよう。
シフォンド岩場を進む。
途中、正面に道があり、横にも通路がある。
正面が正規ルートだが、横の通路のほうが近道であり、宝箱もある。
なので横の通路に入る。
すると。
そこに1メートルぐらいのサイズの巨大なクラゲがいた。
あのクラゲは、通称【お宝クラゲ】と呼ばれる存在だ。
魔物ではなく、精霊の使いとされている。
―――――この異世界には、フィールドにもダンジョンにも、宝箱が存在する。
果たしてその宝箱が、いったいどこから現れたものなのかというと、【お宝クラゲ】が作ったものである。
精霊の使いである【お宝クラゲ】は、フィールドやダンジョンのあちこちに宝箱を配置してくれるのだ。
ちょうど、眼前のお宝クラゲも、宝箱を製作しているところだった。
伸ばした触手の先端が光りかがやき、次の瞬間。
そこに宝箱が出現する。
宝箱を製作し終わった【お宝クラゲ】は、スゥッと虚空へと消えていく。
あとには宝箱だけが残されていた。
俺たちは宝箱に近づき、開けた。
中には【低強化石】が入っていた。
俺が求めていたアイテムである。
もちろん回収する。
そして先を進む。
やがて【シフォンドダンジョン】の入り口へと辿り着いた。
断崖の下に作られた青銅の扉が入り口である。
「ここがシフォンドダンジョンだ」
「ここまでほとんど敵と交戦しなかったわね。しかも宝箱やアイテムだけはきっちり回収しつつ……」
「効率が良くて最高だろ?」
「効率が良いとか、そういう問題なの? 普通だったら魔物と遭遇せずにフィールドを進むなんて無理だけど……あなた、魔物の巡回ルートとか、全部把握してるわけ?」
「当然だ。戦わなくていい魔物とは極力戦わないのがRTAの基本だからな」
「RTA?」
「……なんでもない。こっちの話だ」
と、はぐらかす。
俺は言った。
「さて、ダンジョンに入ろう」
「そうね。あたしが開けるわ」
ラミアリスが青銅の扉に両手で触れる。
ぐっと、奥に押し込んだ。
扉が押し開かれていく。
中は洞窟である。
俺たちは、ダンジョン内部へと足を踏み入れる。




