第1章24話:動揺
俺がクレオンを煽った理由は、単純に怒らせることで集中力を鈍らせる狙いもあるが……
ラミアリスのほうに意識が向きにくくするためだ。
『加速移動』は、対処法がわかっていても、なかなか回避しにくいユニークスキルである。
したがって、回避に慣れている俺が攻撃を引き受けるのが、得策だと思った。
「この野郎……!」
とクレオンは顔を真っ赤にして、怒りをあらわにした。
俺に向かって叫んでくる。
「2対1になったら勝てると思ってんのかよ、アァ!? 舐められたもんだな!」
さらに続けて言った。
「ルーカーみたいなカスどもが、俺ら衛兵に反抗しやがって! なぶり殺しにしてやるから覚悟しろや!」
そう告げたクレオンは、右手を横に突き出す。
『加速移動』の予備動作だ!
次の瞬間。
クレオンが高速で接近してくる。
まさに疾風のごときスピード。
その状態で、クレオンがダガーによる突きを放ってくる
ユニークスキル『加速移動』はやはり凶悪である。
初見だったら絶対に対処できなかったに違いない。
だが……俺は初見ではない。
最速のRTAのために、幾度となく、このユニークスキルの回避を練習してきた。
だから完璧に見切ったうえで、俺は『加速移動』の攻撃を回避する。
「なっ!? 避けられただと!?」
クレオンの空振った刺突。
「悪いが、あんたのユニークスキルに予備動作が必要なことはわかっている」
「なっ!?」
クレオンが驚愕に目を見開いた。
「右手を横に突き出す……それが『加速移動』の必要モーションだ。そして、わかっていれば回避もたやすい」
実際には全く回避はたやすくないのだが、あえてカンタンであるかのように言っておく。
楽勝で回避できると豪語したほうが、クレオンに動揺を与えられると思ったからだ。
クレオンは驚きと、焦りに打ち震えている。
彼は言った。
「馬鹿な……なんで俺の弱点を知ってやがる!?」
「俺の情報網を甘く見てもらっては困る」
と鼻で笑いながら告げた。
クレオンは、まるで自身の中にある焦りを振り払うような声で。
「くそがァッ!! 舐めるなよォォオオッ!!!」
そう叫びながら、ふたたび『加速移動』を使い、突っ込んできた。
今度は、ただ俺は避けるだけじゃない。
カウンターを食らわせることにした。
クレオンの高速の突撃にあわせて、俺はラリアットを放った。
クレオンは『加速移動』をキャンセルできず、そのままラリアットの腕に突っ込んできた。
「ぐばぶっ!!?」
俺のラリアットがクレオンのあごに直撃して、彼はひっくり返る。
クレオンが気絶こそしなかったが、相当ダメージを負ったようだ。
起き上がろうとするが、起き上がれず、膝をついてしまう。
その首に、俺はショートソードを突きつけた。




