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砂賊のオランジェ  作者: 発素勇気
序章:砂漠の義賊と護送の荷
1/10

前書き 「それは彼女の色」

新作始めました。宜しくお願い致します。

 一面を砂と岩礁で覆われた砂原。風が吹けば大量の砂埃が舞い上がり、照りつける日光が容赦なく肌を焼く過酷な大地。

 

 ひとの影はなく、砂の中に蠍のような生き物や、岩礁から蜥蜴のような生き物がチラホラ顔を覗かせる程度のその空間に、遠くから振動が木霊してくる。


 音の主は馬車だった。

 と言っても、馬車を牽くのは馬ではなく、ラクダのような二頭の生き物。

 容姿はラクダに似ているが、脚回りは馬のように太く逞しく発達しており、ラクダの速度それとは比べ物にならない早さで砂煙を上げながら馬車を牽引していた。


 ここは異世界にある【アランヴィア国】。

 砂漠の国【アランヴィア】において、移動にはこのラクバと呼ばれる動物を利用していた。

 馬のような脚力とラクダのようなスタミナを併せ持つ生き物。

 無論飼うにはある程度の財力が求められるため、ラクバを所有しているというコトはイコール財力を持ち合わせていると他者に見せつける効果がこの国にはあった。


 馬車ならぬラクバしゃを砂漠で走らせるのはこの国一番の金持ち、国王の所有する家紋が入った国王軍の制服の人間。

 普通の箱形馬車とは逆に御者のいるスペースに覆いが作られ、荷台部分が露になっているこのラクバ車。さしずめ軽トラックのような形状をしていると言えば伝わるだろうか。

 ただし動力はラクバ二頭。動物に牽引される軽トラもどきの馬車。車体には制服に刻まれたのと同じ、オレンジ色の目立つマーク。


 御者室(運転席)にはふたり。やや表情を堅くさせながらラクバを手綱で操る男と、その隣で対照的にのんきな表情を浮かべる男。


「おい、そんなにビクビクすんなよ。こちとら天下の国王配下のラクバ車だぜ?

 こんな白昼堂々俺らを襲おうなんてバカはいねえだろ。」

 助手席で紙巻きタバコを吹かしながら髭面の男が言った。

 が、その発言を受けて手綱を握る男が反論する。


「バカ、なに言ってんだ。お前知らねえのか? この辺りだろ。最近話題の盗賊が出るのはよ。」

「盗賊ってアレだろ? 最近平民たちの間でチラホラ言われてる【水泥棒】。

 ハハッ。おめえビビりすぎだろ。

 こちとら天下の国王軍だぜ? このラクバ車を襲おうとは考えねえだろよ。」

「けど申し送りで聞いたろ? この間は国王の息が掛かった貴族の輸送車が襲われたって‥‥。」

「それだってその輸送車、ケチって護衛つけてなかったって話じゃねえか。

 そんだったら盗賊の目には絶好のカモに映るわな、『襲ってくれって言ってる』ってな。

 けんど俺たちのラクバ車には見ろよ? 天下の国王マークがバーーンと入ってんだぜ? 天下の国王に弓引こうってバカはいねえだろうよ。この国一番の国王軍に手を出して、あとが怖いなんてことはガキだって知ってらあ。そんなビクビクすんなや。」

 助手席の相棒はとにかく国王軍が天下一と言いたいらしい。

 或いは「天下の国王軍」というフレーズが好きなのか。やたらと天下のという(その)言葉を使いたがった。


 ガハハと豪快に笑い、手綱の男の背中を無遠慮にバンバンと叩いた。








───────────────





(そろそろか‥‥‥)

 ラクバ車の荷台。ゴトゴトと音を立てながら揺れる無数の樽。

 ラクバ車は国王の宮殿からとある要請を受け、指定の場所へ荷物を届けるために砂漠を横断中であった。


 その荷台の中、頭から布を被り直射日光から身を守りつつ黙って座り込む男がいた。

 男は目的地まで同行させてほしいと頼み、荷物である樽と共に荷台にいた。


 ちなみに当初、移動の際は御者室の助手席に‥‥という提案があったものの、男はソレを断り半ば強引に荷台の一角に自らの席を陣取ったのだった。

 御者のふたりは「変わってるなあ、この人。」とくらいしか思わず、自分が荷台に座らなくて済んだ幸運に呑気に喜んでいたが、この男の身分を知っている者は内心青ざめていたことを誰も知らない。


 男の目的は移動だけでなく。むしろ輸送の道中にあった。

 御者のふたりが口にしていた”噂の盗賊”。

 彼はその存在に邂逅するコトを望んでおり、このような無茶な行動に出たのであった。





 

───────────────


「お。来た来た。」


 崖の上から遠くを目視する存在がいた。

 ガトラと呼ばれるアラブの帽子に似た被り物を頭に被り直射日光から頭を守り、目元を残し顔全体をスカーフで隠していた。

 しかし声は女性のもの。だが女性ものであるヒジャブではなく、男物であるガトラを被る。そしてフェイスベールではなく、スカーフで口元を隠すという一見チグハグなファッションだった。

 

 かと思いきや、身体は男物衣装トーブではなく身体全体をすっぽり覆えるマントに身をやつしている。アバーヤではないのはまだしも、トーブでもない。

 随分個性的な出で立ちだった。


「”ノーヴァ”。今日の獲物が現れたよ。」


 声の主が振り返りながら後ろの存在に声を掛ける。

 するとグググッ‥‥と岩の塊が動き出した。


 よく見るとそれは岩ではなかった。


 黒っぽい褐色のソレは、それまで身を丸めて寝ていただけ。声を掛けられ身を起こすと、ノソっと首を前に出し、そのシルエットの全体像を白日のもとに晒す。


 ドラゴンだった。

 サイズは人ひとりを乗せられる程度の、そこまで大きくない体長だったが、間違いなく竜種の一体。イグアナのような姿に大きな翼を背中から生やした翼竜‥‥

 

 ノーヴァと呼ばれたそのドラゴンは、白い衣装に身を包んだ声の主の後ろから首を伸ばし、かの者の肩口に自らの顔を突き出す。


「クルゥ?」

「そっ。アレ。」


 ノーヴァは言葉は話せないが人語を解し、「アレのコト?」と言わんばかりに鳴き声を上げる。白い衣服の人間はそれに「正解だ。」と答えると、優しくノーヴァの頬を撫でた。


 目を細めながらグルグルと喉を鳴らすノーヴァ。

 ノーヴァを撫でる人間は、その様子に、スカーフで隠された中で唯一覗かせる目元を、微笑みの表情に変えた。


「お前はいい子だねえ、ノーヴァ。」


 優しい声色で翼竜=ノーヴァに語り掛ける人間。しばしの間かの竜を愛でていた彼女であったが、次第に近づきつつあった気配に気づき手を止めると、ノーヴァからソレへと目線を移した。


 近づいてくる気配‥‥”今日の獲物”と彼女が称した存在は、最初に目視したときよりも確実に大きくなっていた。それは距離の違い。最初に発見したときは豆粒大で、言われないとソレと気づけないサイズにしか見えなかったそれは、現在いまはハッキリと輪郭が確認出来る大きさまでになっていたのだ。


 それは土煙を上げながら砂漠を横断するラクバ車‥‥‥車体には大きく国王軍のマーク。


「じゃ‥‥今日もお願い出来るかな? ノーヴァ。」

「キュッ!」


 彼女の呼び掛けに、ノーヴァは「任せろ」と言わんばかりに鳴き声を上げ、その場に伏せる。

 白い装束の彼女はバッと跳躍し、ノーヴァの背にある鞍に跨がると、手綱を握りしめた。


 主人が鞍に跨がった気配を察したノーヴァは、勢いよく立ち上がる。


 立ち上がった勢いによって、彼女と翼竜の視界に大きく揺れる物が一瞬映りこんだ。


 それは赤み掛かったオレンジ色の髪の毛───


 白一色に整えられた彼女に唯一映える腰まで伸びた深いオレンジの髮。


 彼女の動きに合わせ、赤いリボンで大雑把に纏められたオレンジの髮が大きく揺れ動く。


 

 オレンジは太陽の色。

 オレンジは砂漠の大地の色。

 灼熱の大地、砂と岩の国【アランヴィア】。

 その国旗はオレンジ色であり、オレンジは国王を象徴する。

 国王軍のマークにもオレンジ色が使われ、今このとき、オレンジ色を冠したラクバ車が一台、このオレンジの大地を駆けている。





 オレンジは彼女の色。

 オレンジは彼女の名前。


 白に身を包んだ彼女の、一番目立つ特徴となっているその髮の色。

 彼女は盗賊。戦い、奪う存在。

 竜に跨がりこのオレンジの大地に駆け出す一陣の風。


「さあ‥‥‥行こうかっ!!!」


 掛け声を上げ、翼竜の腹を足で蹴ると、黒褐色の翼竜は羽根を広げ猛然と駆け出し始める。

 すぐさま崖の切れ目が視界に現れ、翼竜はそのまま速度を落とさずに飛び出す。


 


砂賊さぞくのオランジェ! 参るっっっ!!!」





 物語は、ここから始まる──────






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