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第38話『契約が英雄を解き放つ時』

「――ここまで来たら大丈夫だろう」


 秋兎(あきと)たちは、正門方面の入り口から校庭へ移動。


「フォル、エグザ。状況を説明してほしい」

「まず、敷地内全てに認識疎外の結界は展開してある」

「妾の索敵に反応したのは、正門、西門、東門、南門じゃな」

「――既に囲まれているということか。じゃあ他の場所も……」

「でも、あの場所に関しては任せて大丈夫なんでしょ?」


 オルテが言っているのは、ここに移動している最中に入った連絡について。

 時間差ではあったものの秋兎(あきと)たちに、工場跡地に向かった特務部隊の出動について報告があった。


「だけど、もう対応策は決まってるんだよね」

「ああ。フォル、エグザ。結界は2人でなら維持は可能か?」

「妾の計算なら力を合わせたら可能じゃの」

「我は初めて故、勝手がわからぬが。フォルがそう言うなら、そうなんだろう」


 エグザは腕を組んで眉を寄せ、フォルは少しだけ目線を上げて学園の敷地全体を覆う結界へ目線を向ける。


「ちょうど全員がここに集まっていたよかった」

「ということは1、2、2、でいいんだね」

「ああ」

「一番多いところは?」

「正門じゃな」

「わかったよ。じゃあ先に行ってるね」

「頼んだオルテ」

「はいはーい。久しぶりに全力のアキトを観ることができないのは残念だけど」


 とだけ言い残し、オルテは正門方向へ歩き出した。


「わたくしも同意見です。アキト様がご活躍するお姿を間近で見ることができなく残念です」

「ボクも久しぶりに見たかったなぁ~」

「こればかりは仕方がない」

「なあアキト、どんな感じになるんだ?」

「契約の対価と代償――契約が成立している間は、俺の力がかなり減衰する代わりにみんなの力を同じく減衰した状態で使用できる。だが逆に、みんな側は能力をそのままに俺の力を行使することができる」

「自分が弱くなる代わりに、仲間を強くするってか。なんともお前らしいというかなんというか。減衰しても余裕なところは気に食わないが」


 エグザは心の中で「だったら機会さえ伺えば勝てるのでは」と心躍らせるも、契約状態の3人に加え、「我に対して特殊効果攻撃が可能な勇者が居るのだった」と一瞬で冷静になる。


「んで、じゃあ今から契約破棄するってことなんだな?」

「いいや、そうじゃないんだ。契約解除は、基本的にできなくてね。命ある限り続くんだ」

「え、何それ聞いてないんだが」

「まあ契約でもあり鎖でもあるからな」

「くぁー、これだから英雄様は――」


 ――の続きを口に出そうとしたエグザだったが、自身に向けられる3つの()を察知して口を閉じた。


「それで、これから契約反転を行う」

「け、契約反転?」

「まあそのままだ。俺が元の力を使えるようになり、代わりにみんなの力が減衰する。と言っても半減ぐらいだが」

「え。我、弱くなるの?」

「ああ。だから人数がちょうどいいんだ」

「あー」


 エグザは全てを悟った。

 自身は元々敵であり、完敗しただけではなく争う理由もなくなったとしても、裏切りのリスクは払拭されないはず。

 ではなぜ魔王である自分と契約したかというと、対となるフォルと肩を並べられる存在であり、不足している戦力をどう供するため、だと。


 煮え切らない気持ちは正直あっても、それはそれで認めてもらえていることに少しだけ嬉しくもなってしまう。


「正面はオルテがどうにかする。だから、それぞれの面へ2人組で向かってほしい。今回は相性は考えず、能力を把握しきっているセシルとマリー、フォルとエグザで別れてほしい」

「お任せくださいアキト様。確実に承ったご命令を遂行致します」

「任せてください。1体も残さず倒します!」


 セシルは地面へ膝を突き、右手を胸に頭を下げ、マリーもまた同じく。


「共闘するのは初めて――」

「いいや、初めてではない」

「そうじゃの。じゃが、随分と久しいが」

「まさかこんな日が来るとはな」

「そうじゃな。二度とこんな日は来ぬと思っておったわ」

「大丈夫そうだな」


 秋兎(あきと)は、敵対の可能性を懸念していたが2人の勝気な表情に安堵する。


「それで? 契約反転とやらに必要な儀式はあるのか? キスとか?」

「いいや、そんな無理強いをする行為は必要じゃない」

「ほう?」


 4人の方へ手を差し出し、秋兎は宣言する。


「――契約反転――」


 すると全員が薄っすらと光に包まれ、秋兎は失っていた感覚が全身に戻っていき、4人は体が重くなっていき初めてのエグザは気怠さまで覚える。


「な、なるほど。これは確かに力を上手く使える気がしない」

「知識や技術はそのままに、魔力を放出できる出口が絞られる。と、フォルから教えてもらった」

「そうじゃな。この状態じゃと、慣れるまでは威厳などないと思った方が楽じゃぞ」

「それはそれで歯痒くて暴走しそうだが。わかった」

「リスク分散で2人組になってもらっているわけだからな。じゃあみんな、学園は任せた――」


 そう言い終えると、秋兎は土埃だけを残して姿を消した。


「うーっわ、速すぎだろ」


 そして立ち上がるセシルとマリー。


「当たり前です。アキト様が【暁煌(ぎょうこう)の英雄】と呼ばれているのは建前ではないのですから」

「お、おう」

「能力解放時にのみ使用なされる、暁の短剣。その圧倒的な速度により、漆黒と暁の線が残光となり、人々は『暁に煌く神速の英雄』と呼ぶようになったのですから」

「お、おう……――ん? じゃ、じゃあ」

「気づいたかの」

「おいおいおい。じゃあ我は、あやつの本気じゃない力に負けたってことなのか……?」

「そういうことじゃ」


 エグザは決心する――『金輪際、絶対に敵対してはならない』と。


「それでは、わたくしたちは東門へ」

「かっ飛ばすぞーっ」

「妾たちは西門へ」

「この状態の感覚を少しでも慣れておきたい――ん? 南門はどうするんだ?」

「当然、アキト様が既に討伐されています」

「は? そんなことが」


 エグザは索敵を任せているフォルに目線を向けるも、なんの疑いも躊躇(ためら)うこともなく、なんなら半ば呆れているかのような表情で首を縦に振る。


「う、嘘だろ……」

「残念ながら本当じゃから仕方がない」

「それでは」


 口をぽっかりと開けたままのエグザをそのままに、セシルとマリーは東面へ移動開始。


「ほらエグザ、行くぞ」

「なあ。フォルもそうだが、あの2人も常軌を逸した強さを持っているはずだ」


 歩き出すフォルに追いつくエグザは、純粋な疑問を口に出す。


「てことは、力比べに負けて契約したって感じなのか?」

「そう思うのも無理はない。じゃが、そうであったなら妾たちを対等に扱うと思うか? ましてや自分が弱体化するだけではなく、その条件などを明かすと?」

「性格もあるだろ」

「それはそうじゃの。まあエグザにもいずれわかるはずじゃ。アキトの魅力は純粋な強さだけではなく、心の強さと優しさもあるということを」

「まあ、それはそうなんだろうな。強制的に転移させられた世界の危機を救うぐらいの、生粋のお人好しなんだから」

「そういうことじゃ」




「僕は勇者で本当に良かった」


 正門へ向かう最中、オルテは呟く。


「アキトとの契約をしてもらえないのは寂しいけど――」


 笑みを浮かべ、高鳴る勘定を表すように両拳を握る。


「――僕だけがアキトと対等で居続けられるんだ。『もしものときのために』ってアキトは言ったけど、絶対にそんなことは起きるはずがない。なんせ、人類最強と呼ばれた僕でさえ致命傷を負わせるまでしかできないんだから」


 歩きながら左手を腰に添え、鞘に収められた直剣を召喚。


「しかも、そもそも攻撃を当てることができたらの話だし。当たらなければ、この【絶空の宝剣】でさえ普通の剣と変わらないんだから」


 茶色い髪を揺らしながら、右手で純白の剣を鞘から引き抜く。


「でももしかしたら、こっちの世界なら活躍次第では契約してもらえるんじゃ――よし……と思ったけど、ここにアキトが居ないんじゃ意味がないか。まあいいさ」


 久しぶりに剣を握る感触を確かめるよう、一振りだけ空を斬る。


「――肩慣らしといこうじゃないか」

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