第31話『大変バズ大変』
「こんな朝早くに申し訳ございません」
「いえ、ちょうど起きていたので大丈夫ですよ」
早朝、華音が秋兎に連絡が入っていた。
用件は『直接会って話したい』とのことで、こうして秋兎の部屋で対面している。
食卓の上にはスマホとタブレットが用意されており、華音は目線を行き来させて、どことなく神妙な面持ちをしている。
「早速2人の部屋を用意していただきありがとうございました」
「いえ、ちょうどよく空き部屋がありましたので。後は、本日中に家具などをご用意させていただきます」
「何から何まで助かります」
「一応その件でなのですが、他にもお仲間の方がいらっしゃるということはありませんか?」
「そうですね、今のところは。いや含んだ言い方はよくないですね。あっちの世界と行き来できるわけではないので、何か特殊なことがない限りは誰も心当たりがありません」
「わかりました」
「それにしても、これは?」
秋兎は、最初から気になって仕方がなかった電子機器への疑問を投げかける。
「俺、何度でも言いますけど機械操作とかは苦手ですよ」
「練習用だとしても、申していただけたらご用意させていただきます。ですが、今回は別件です」
華音はまずタブレットを起動。
そのままスッスッとタップ・スワイプを繰り返し、秋兎は初めて見る画面を提示される。
「こちら、先日秋兎様が配信にご利用された、配信サイトになります」
「利用者側からだと、こんな感じになっているのですね」
青と紫が基調になっているサイトトップと小さいウィンドウが数々表示されいている。
そのまま華音が操作し、1つの配信者ページへ。
「こちらがご用意させていただいたアカウントになります」
「【リターンズ】、ですか?」
「安直な命名をしてしまったのは申し訳ございません」
「いえいえ、俺たちにピッタリだと思います。特定もされにくい感じになっていると思いますし」
「そう言っていただけると助かります」
「右往左往しながらやってみましたが、全然でしたね。何をしたらいいのか、何を話したらいいのかわかりませんでしたし」
「誰でも始めたばかりはそうでしょう。それに、秋兎様はこちらへ帰還して間もないですので、勝手がわからないのは当然です」
「外見とか呼び名を変えてやってみたんですけど、大丈夫でしたか?」
「あれはさすがに驚きましたよ。急に別人が映っていたのですから、もはや焦りました」
ため息交じりに肩を落す華音。
「いろいろとツッコミを入れたいところではありますが、配信活動に関しましてはご自由にやっていただいて構いません。上に報告する義務はないので、私からもただ一視聴者として楽しまさせていただきます」
「ありがとうございます。一応、日常生活に支障が出ないようの偽装をしました」
「賢明な判断だと思います。ですが……」
華音は、配信のアーカイブを開きシークバーをちょいちょいと操作。
3人がモンスターを次々に討伐していく箇所を通過させ、秋兎たちがボス部屋へ入るところで停止。
「でも、さすがにこれだけは見過ごすことができないですけど」
「あー……やっぱり、これは行きすぎでしたよね。ごめんなさい」
「ええまあたしかに、視聴させていただいた感じ無理をしていないので判断は間違っているとは言えません。ですが、さすがにこれはやりすぎといいますか」
「反省してます」
「いえ、そうではなく。まさか、序盤とはいえボスを初見だというのにたった1撃で討伐してしまったことについてです」
「あれですよ、あっちの世界と構造や出現するモンスターも同じでして。ボスも初見というわけではないんです」
「たぶんその通りなのでしょう。でも、こちらをご覧ください」
華音は配信映像範囲外を指差し、秋兎も視線をそこへ移動させる。
「この数字はなんですか?」
「アーカイブの再生数です」
「え。俺が確認したときには視聴者は居ませんでしたよ?」
「私もリアルタイム視聴していたわけではないので、そこまでは把握できていません。でも、どこかのタイミングで誰かが視聴していたようです」
「なるほど」
「ですが……さすがに、たった1回の短い配信で1000回再生されているのは、正直異常です。なんなら、今も増え続けていますし」
「ごめんなさい、いまいち基準がわからなくてどう受け取ったらいいのかわからないです」
「基準というより、前提条件ですね。大手配信者やインフルエンサーなどを基準にしたら、多くはありますけど何倍もの差があります。数万から数千万回など」
「そう聞くと規模が大違いですね」
「それはそうです。ファンが居たり、海外の人も観に来ますから。ですが、秋兎様は登録者数0、ファン0、別業界から大手配信者でもなく、インフルエンサーでもない。そんな人間が、たった数十分程度の配信をしただけで1000回再生なんて通常ではありえないんです」
と、事細かく説明されて相槌を打っているが、秋兎はいまいちピンと来ていない。
「世間的には、この状態をバズっていると言いまして。この状況はまだまだ伸びていくと思います」
「なるほど? ちなみに、そのバズっていると何が起きるんですか?」
「名前が知れ渡る、登録者が増える、とかですね。登録者が増えると広告収益が増え、名前が知れ渡るとコラボを申し込まれたりスポンサーがついたり」
「でも、立場的にはコラボやスポンサーの件は断った方がいいんですよね?」
「そうですね……基本的にはご決断も自由にしていただいて構わないのですが、素性が知れ渡ってしまうと生活面にも影響が出ると思いますので」
「俺の第一優先が、『平穏な生活』なのでそうします」
華音はタブレットを置き、スマホを起動してとあるSNSを開く。
「そして、こちらはどのように広がっているか、です」
「うわー……全然わからないです」
「幸いにも配信サイトの規約でURLを外部で拡散できない仕様になっておりまして――」
「ごめんなさい、ちょっと何を言っているかわからないです」
「つまり、バズっている要因となる配信内容を外部へ持ち出せないということです」
「は、はぁ」
「ですので、こうして文字だけで注目を集めている現状なのです」
表示されている個所へ目線を落すと。
『【緊急速報】無名の新人探索配信者、ダンジョンを快進撃してボスまで討伐してしまう』――と入力された投稿が目に入る。
「この投稿にハートマークが500を超えていますよね」
「そうですね」
「目を引く内容ということもあるのですが、この投稿を見た人たちが流れるように訪れていると思われます」
「広告塔になってくれたわけですね」
「たぶんですが、これ以上の伸びは緩やかになっていくと思います。これも予想でしかないので、また逆もありますが」
「まあでも、しばらくはダンジョンに行けないと思うので登録者数も減りそうですが」
「判断はお任せいたしますので、それはそれで仕方がないことでしょう」
「お恥ずかしながら、学業の方に苦戦していまして……」
「ああ、そういえばそのようなことをおっしゃっていましたね」
秋兎は背もたれに体重を預け、ダラーッと姿勢を崩して天井へ目線を向ける。
「でも、妹が最近楽しそうにしているので一安心です」
「いろいろと助かってます、本当に」
「勉強のことならガンガン聞いちゃってください。人に教えるのが好きみたいなので」
「さっそく、教室に着いたら課題のわからないところを教えてもらおうと思います」
「ぜひそうしてあげてください。それでは、あちらの件は調査などが終わり次第報告させていただきますので」
華音はスマホをポケットへ、タブレットは脇に抱えて立ち上がる。
その音が耳に届いた秋兎は、姿勢を正す。
「それでは、失礼致します」
「いろいろとありがとうございました」
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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