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第23話『黄色い声援と超人たち』

 平和な世の中で、平穏な毎日を謳歌する。

 学生であれば学業を、学生であれば運動を、学生であれば友達と。


 ふとした瞬間からそんな日常とは程遠い世界で生活することになった秋兎(あきと)

 こちらの世界へと帰還して、それらが作られた日常だとわかっていながらも心地良く思っていた。

 だからこそ、この平和が脅かされるのであれば世界をも敵に回そうと思っている――いるが。


 まさかの身内がその枠に当てはまることを予想できていなかった。


「きゃぁあああああっ」

「うっひょおおおおっ」


 この時間に行われているのは、校庭にて体育の授業。

 2クラスの男女合同で、様々な場所で各競技が行われている。


 そしてまず初めに黄色い声援が響いている場所は、1周が200メートルの周回走路(トラック)

 現在は1000メートルの持久走を実施されているわけだが、オルテが容赦なく、しかし手加減はしつつ次々に生徒を抜き去って行く。


(あいつ、実力を抑えつつも探り探りやっているのはいいが……さすがにやりすぎだろ)


 爽やかな笑顔で走っているその姿は女子からすれば目を奪われる存在であり、男子からは憧れの的となる。

 抜かれていく生徒たちは、別次元の運動能力に驚愕しない方が無理であり、それらを見守っている教師は目が飛び出そうになっていた。


(時間がなかったとはいえ、オルテに力の制限を伝えてなかったから責めることはできない。それに、自分勝手に立ち回っているわけではなく、周りの様子を見ながら調節しているから、なおさら)


 最後の一周では、さすがに疲れの色を感じさせる風に減速し始めるオルテを見て、秋兎(あきと)は「これからどうしたものか」とため息を零す。


(まあ、あの空間で俺の行動を観ていたのなら、不良たちとの一件を見て加減を学んだろうけど……フォルの結界に頼って俺もやりすぎた感はあるかなぁ。お互い様、という落としどころになるか)


 自分は次の組だから余裕をもって全体を見渡せているからこそ、次の声が湧き上がっている方へ目線を向ける。


(あっちはあっちで、加減しているのはわかっているけど……)


 立ち幅跳びと走り幅跳びを砂場で行っている女子。

 そちらでは、セシルがオルテと張り合うように前人未到な結果を叩き出し続け、おしとやか清楚な外見からは想像もつかない結果に黄色い声が響き渡っていた。


(ったく。あの2人が同じ教室で、これから大丈夫なのかよ。いつも通りに張り合って大変なことにならなきゃいいんだが)


 秋兎(あきと)はあちらの世界であったこと踏まえて懸念しているわけだが、残念なことに、既に2人は互いを意識して張り合い、秋兎へ自分の優位性をアピールしているのであった。


「はぁ……」


 人目が付く場所で身体的な能力を発揮してしまったからこそ、今後の方針をどうやって決めていくか頭を抱える秋兎。

 当然、自身は平和な日常を楽しみたいがために能力は凡人程度に抑えようと思っていた。

 だからこその、不良たちとの一件で記憶を消したように。

 しかし今回はそうもいかず。


 そして、同じく互いを(つい)のように意識しているフォルとエグザは、どうか冷静に物事を考えてほしい、と願うばかりであった。


「……」


 オルテは一番にゴールし、あれやこれやと称賛の嵐に囲まれている。

 セシルもまた同じく。

 爽やかな笑顔を浮かべながら、人当たりのいい対応をしている2人であったがお互いにバチバチとライバル心を燃やしていた。


 そして次は秋兎の番。


 注目している人間は少ないものの、ちゃんと尊敬や好意を向けらている。

 当の本人は、周りの人間から逸脱しないように立ち回ろうとしているが。


(せっかくだし、持久走の最中にいろいろと考えておくか)


 前半グループが全員ゴールし、秋兎たちのグループがスラーとラインへ並ぶ。


「どれだけ遅くてもいいから、必ずゴールするように。最悪、歩いてもいいからなー――よーい、ドンッ」


 教師が手を振り下ろし、一斉にスタート。

 秋兎は想定通り、周りのペースに合わせる。


(さて、地上での立ち振る舞いは全員に伝えておくとして。こうなってしまったら、もうそれぞれ運動能力が優れている設定で過ごしてもらう。で、問題は学力の方だな。5人はいろいろと苦労するだろうが、頑張ってもらうしかない。当然、俺も例外じゃない。頑張らないと、全くと言っていいほど勉強についていけない)


 できることなら、勉強から逃げない――という気持ちはあるものの、自分も望んだ生活なのだから諦める他ない。


(ダンジョンでの立ち振る舞いは、もう少し相談した方がよさそうだな。配信に関しても全然わからないし。だがまあ、もはや俺たちが苦戦するような場所ではない。問題は特殊部隊とかいうのは、未だに得体が知れない。挨拶はしたものの、どれだけの力を有しているのかがわからないし、どんな活動をするのかもわからない。時機に説明があるんだろうけど、帰ったら話だけでも聞いてみるか)


 ――と、いろんなことを考えている内に、持久走は完走し終えてしまった。


 ここからも、まだまだ2人の活躍は授業に参加している生徒たちを賑わせることになる。

 だが、秋兎は自分の思考を優先し続け、まさか自分へのアピールだとは終始気付くことがなかった。

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