暖炉の火
北方の標高が4〜5000メートルある大山脈に連なる雪山の中腹1500メートル付近に、別荘を建てた。
夏は避暑地として冬はウインタースポーツを楽しむ拠点として活用し、今年も学生時代の友人たちと別荘に来てスノーモービルで新雪の上を走り回って遊んでいる。
別荘から数百メートル程上にある平坦なところにテーブルを置き、その上にホットドリンクや軽食と共にラジオを置いて音楽を流していた。
そのラジオから流れていた音楽が突然途切れ、切迫した口調の男性の声で臨時ニュースが流される。
『高度4000メートル付近を極地から南下していたマイナス100℃の寒波が、大山脈の峰にぶつかって高度1500メートルから2000メートル付近に降下しつつあります。
その付近にいる方は直ぐに屋内に避難してください!』
え! そのニュースを耳にして反射的に雪山を上に向って駆け上がって行った友人の姿を探す。
友人がスノーモービルごと真っ白に凍りついて行くのが目に映った。
ヤバい逃げなくては。
テーブルの周りにいた俺や友人たちは慌ててスノーモービルに飛び乗り、別荘を目指す。
別荘の扉の前でスノーモービルから飛び降り中に転がり込む。
扉の鍵を開けている最中、着用しているスキーウェアの背中部分が凍りつき始めているのを感じ、別荘の中に転がり込んで直ぐに足で扉を蹴り閉める。
扉を閉めた俺は暖炉に暖炉脇に積んである薪を数本入れ、ガスバーナーで炙って火を点けた。
ホッと一息付いてから窓から外を見る。
俺の後ろにいた友人が、別荘から7〜8メートルのところでスノーモービルごと凍りついていた。
そして今俺は、消えかかっている暖炉の火を見つめている。
あまりの寒さに暖炉脇の薪を次々と焚べていたら薪が無くなった。
7〜8メートルのところで凍りついている友人の直ぐ側に薪を積み上げてある小屋があるのだが、別荘から出たら友人の二の舞い。
思案した俺は別荘内にあるベッドやソファーや椅子などの可燃物を、全て暖炉の中で燃やしたが焼け石に水。
椅子だった物の断片が暖炉の中で燃え切り煙をたなびかせてから消え黒い燃えカスになっているのを、服だけで無く毛布など羽織れる全ての物に包まった俺は何時までも見つめ続けていた。