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7 翌日

瑠華が東京第七ダンジョンにソロで探索に入った日の夜、二十七階層ボスのソロ撃破は軽く一言二言ニュースで告げられるだけで終わった。テレビでは大したニュースとはならなかったものの、ネットでは大いに賑わいSNSを使う人たちの口から話題になることも多かった。電車で、学校で、職場で、他愛もない会話の一場面で話されたことが、彼女のもとに繋がったのは事実だった。


「炎の覚醒者が東京第七ダンジョンにいる、か。まだ探索中らしいが、今から行って会えるかどうか。いやそもそも東京第七ダンジョンってどこだ?それがアイツとも限らんしなあ。」


都会のビルの屋上、立ち入りが禁止されているであろう場所でビルの淵に座りフェンスに背を預け足をブラブラと揺らす。真下では多くの人や車が行き交い、傍目から見れば自殺しようとしているようにしか見えないが、誰もその姿を咎めることはない。

漆黒の長髪が風でふわりと揺れる。


「他に良さそうな情報もなかったし、行ってみるしかないか。だめだったらその時また考えるとしよう。それにしても、世界はまた様変わりしたものだ。だんじょんどろーんにすまーとふぉん、か。いまいちよくわからんな。」


軽やかに立ち上がり、月明かりが街を照らす様子を眺める。日が完全に落ちてもそこらじゅうで電気がついているため街の中は明るい。多くの人がモンスターの脅威も知らず平和にただ暮らしていた。


「さて、東京第七ダンジョンはどこだろうか。」


月が雲に隠れ、再度街を照らしたときには影もなく、街の喧騒だけがかすかに聞こえていた。




翌日になっても瑠華は東京第七ダンジョン二十九階にいた。二十七階のボスを撃破し、その後二十八階のボスも撃破した。それらは同日に行われ、それなりに時間もかかったため、瑠華は休憩のため二十九階の入り口で簡易的な結界を張って体を休めていた。


結界と言っても本当に簡素なもので、行き止まりになっている道で段階的に炎の魔法を設置して自動的に敵の接近を察知かつ防衛するというものだ。

一番外側の炎は見せかけの炎で触れても火傷することはない。外側から二番目の炎は触れると火傷するため防衛と焼けた音や匂いで接近を知らせる役割があり、三番目は指先が触れただけで全身に燃え移る仕様となっていた。


瑠華は壁にもたれかかるように座り、携帯食料を口にしていた。瑠華の持つ収納袋は多くの荷物が入るがセーフエリアでもない限りダンジョン内で落ち着いて食事をすることは難しく、いつでも戦闘ができるよう食べるのは携帯食料ばかりだ。口の中から水分を奪われるのは難点だが、味もそれほど悪くなく瑠華は特にこだわりもないので同じ携帯食料ばかり食していた。


この簡易拠点で休み始めたのが午後十時を過ぎた頃だった。ダンジョン内では日没などが分からず時間の感覚がずれることはよくある。瑠華もそれに漏れず、気がついたときには夜遅くなっており、ちょうどいいと朝まで休憩することにしたのだ。


ダンジョンドローンで時刻を確認すると、午前九時を示している。携帯食料を食べ終わり、コメントに軽く目を通す。


<『王子』の寝息が聞こえた>

<寝顔も美人>

<それ幻聴、『王子』は浅い眠りしかしてないから>

<夜をともにしたと言っても過言ではない>

<おはよう>

<これから仕事ですいってきます>


特に意味もないコメントばかりだが、瑠華がコメントを見ていることに気がついたのが挨拶がいくつか流れる。先程まで緩やかだったコメントの流れが早くなり、朝から多くの人が視聴しているのか、なんて思う。


「今日はどうするか良い意見はあるか?まだ先生のもとに話が届くには足りないかもしれない。」


<朝から『王子』見て元気なった>

<今日もソロ探索?>

<隠し部屋探すのは?>

<先生って誰?>

<レアドロ探すとか>


「レアドロ…、俺はそういった物に興味はないが、面白いものでもあるのか?」


<レアドロとかそれこそパーティーで挑戦するやつじゃん>

<東京第七なんかあったっけ>

<収納袋探してくんねえかなあオークション出してほしい>

<高いやつって言ったら回復系?欠損回復とかでたら数千万じゃん>

<能力付きアクセとか>


「アクセサリーはいい意見だ。先生に贈るために集めてはいるがまだ足りないし、なんだったら宝石を探して加工させるのも悪くないな。」


<『王子』がつけてる装備も良いやつだよね>

<ポーションとか見つけるとうるさいのが騒ぐからおすすめしない>

<アクセかー>

<東京第七のダンジョン産アクセサリーとかどれだけあるんだろう>

<また先生でた、『王子』先生好きすぎじゃね?>

<『王子』から贈られるアクセサリーとかやばそう>


「今日はこのまま二十九階の探索を行い、ドロップ品や宝箱からの宝飾品を探すとするか。期限は今日の午後二時までで、それまでに満足できるものが何も得られなかったら運が悪かったと帰るとしよう。」


最後にそう言うと瑠華は立ち上がり、近くに置かれていた荷物を全て片付けると炎の結界を解除しながら探索に向かうため歩き出した。


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