悪魔と共闘
サタンに首元を掴まれて一階に叩きつけられた。
「今から殺しに行こうと思っていたが、わざわざ出向いてくれるとはな」
首が絞まる、声が出せない。このままじゃ死ぬ。
意識が遠のく中で俺の体とサタンの体は炎に包まれた。
サタンは俺から離れて距離をとった。
「この私に攻撃するとはなんのつもりだ」
黒龍の姿になったジミマイが言う。
「まだ気づかないのか、この鈍感野郎め、サタンを殺し、ジミマイ様が魔王になるんだ」
「お前の力では到底私には敵わんぞ」
ジミマイは悪魔の姿に戻って言う。
「一人で倒せなくても二人ならサタンも怖くないってわけさ!」
「ジミマイを戦力に換算してなかったよ」
「おい!ジミマイ様だって戦えるし強いんだぞ!」
「二人がかりでも関係ない、殺せると思っているのなら試してみるといい」
俺は剣で斬りかかりジミマイは黒ヒョウに変身して襲いかかる。
サタンはアルバの連携を意図も簡単にいなしてカウンターとなる一撃を確実に喰らわせてくる。
刀と拳が何度も交わり続けるが、一方的に疲弊していくのはアルバだった。
アルバの体は無数の打撲痕が残る。骨折と自己治癒を繰り返し、体力の損耗は激しかった。
「どうにかして戦局を変える一刀を喰らわせてないと、ジリ貧で死ぬな」
ジミマイが言う。
「一撃でいい、サタンの分厚い皮膚に傷をつけてくれよ」
「やってやるよ、サタンに一撃くらわせてやる」
火花を散らす渾身の一刀により、サタンの体に傷をつけた。ジミマイが噛みつき傷を広げる。
「傷から発火しているだと、痛い苦しい焼ける体が焼けるぅぅ」
サタンが狼狽えている隙にジミマイが更に噛み付く。牙から緑色の毒をだしサタンの体内へと流し込む。
サタンの体に入れ墨のような模様が刻まれていく。即効性の毒のようだ。
サタンは悶え苦しみながも右手に闇の力を込めて光線を放つ。
黒線は俺の体を貫く。
サタンは翼を生やし息を切らしながら、上の階に逃げていく。
元の姿に戻ったジミマイが心配して寄ってくる。
「立てるか、よーい」
「傷は深いが、まだ戦える」
「サタンが弱っている今がチャンスだぜ!早く追おう」
俺は傷を抑えて立ち上がる。
「先の見えない長い階段をまた上れというのか?」
「その通り!全力で走ればすぐ追いつくさ」
「鬼かお前は」
「鬼じゃない悪魔だよ」
上の階からルナリアーナの叫び声が聞こえてくる。
「急ぐぞ、例え今日死ぬ事になろうともルナリアーナだけは助けてみせる」
俺は全速力で階段を上る。サタンにやられた傷が痛む、体が弾けそうだ。痛みに耐えかねて足を踏み外し、転倒してしまった。
「おい、寝てる暇はないぞ、立ち上がれい」
起きあがろうと足に力を入れるが動かない。
「すまない、もう一歩も進めそうにない」
「嫁を助けに行くんじゃなかったのか?力を振り絞るんだよ、カラカラのミイラになるぐらい振り絞るんだ!」
「螺旋の階段を上よりも速い翼が欲しい。ルナリアーナの身に脅威が迫れば瞬きをするよりも早く駆けつけられるような翼が欲しい。もう2度とルナリアーナに苦しい想いはさせたくない。その為なら悪魔にこの魂を売り払おう」
「契約だ、俺に翼をくれ。ジミマイが望む対価を差し出す覚悟だ」
「いいぜ、対価はジミマイ様が魔王になる手伝いをすることだ」
ジミマイが俺の体内へと入り込む。
ジミマイが脳内に直接話しかけてくる。
(背中が少しチクっとするかも知れねぇが我慢しな)
背中から翼が生え、体を鱗が覆い頭部から2本の角が生えた。
「ドラゴンのような見た目になるんだな」
「サイキョーの異能力である『変身』によるスペシャルなサプライズだ、ハッハハ」
階段から乗り出し上空を舞い、最上階を目指して加速する。
最上階に着き、王座に足を組んで座るサタンを見つける。
「魔王サタン、お前を倒しルナリアーナを奪還する!」
「随分と遅かったじゃないか、君の愛するルナリアーナなら床に倒れ伏しているぞ」
ルナリアーナは涙を流し、呼吸を乱している。
「ルナリアーナ!」
俺がルナリアーナに近づこうとすると、それを妨げるように一本の槍が飛んできた。
「触れさせないぞ、それは私の物だ」
「ルナリアーナに何をした」
「ギャーギャーと喚くのでな、一発殴ってやっただけだ」
「ルナリアーナを傷つける奴は俺が許さない、覚悟しろよサタン、お前の腐った脳みそを燃やしてやるからよ」
「魔王たる所以をみせるか、俺が異能力を使えば貴様など羽虫同然だ」
最大火力を先手でサタンにぶつける。
「龍をほふりし、灼熱の業火よ。わが刃に宿り魔王を燃やせ」
俺は一気に加速し、燃えさかる剣で魔王を斬る。
剣が魔王の頭に触れると刀は触れた先から砂に変わった。
俺は後方へ飛び距離をとる。
「俺の異能力は『崩壊』だ。俺の体に触れたものを砂に変える。貴様がどれだけ強力な魔法を練ろうと近接戦闘しかできない貴様に勝ち目はない」
「そんな強力な異能力を持っているなら、最初に戦った日に何故使わなかった?一撃で俺を殺せただろ」
魔王は玉座から立ち上がる。
「力とは常に代償を伴う、魔王であろうと例外なくな」
「次はこちらからいくぞ」
魔王は両手に魔力を集中させ、アルバに向かって放つ。
アルバは光線を避けようと空を飛ぶが、光線がアルバを追尾して撃ち落としてしまう。
アルバは地面に倒れて動けなくなる。
触れられない敵をどうやって倒せっていうんだ、サタンを倒す手段が思いつかない。
(おいおい、弱気になってねぇで考えやがれ、サタンはお前の事を恐れていた。何故恐れていたのか考えるんだよ)
口元の血を手で拭い、立ち上がる。
下級魔法しか使えない俺を恐れる要素なんてあるのか?
考えてもわかんないし意味がない。結局俺にできる事はサタンの顔面を一発ぶん殴ることだけだ。
俺が魔王を倒せなかったらルナリアーナだけじゃない、エルベス王国にいる全国民の命が失われるんだ。相打ち上等だ、サタンの顔面を一発ぶん殴って倒してやる。
(サタンは殴られたぐらいじゃ死なないぜ、それにアルバの腕が砂に帰る方が早いかも知れないぞ)
俺に妙案がある、一か八か挑戦だ。
「傷が癒えるまで待ってくれるとは、魔王と呼ばれる割には優しいんだな」
「既に勝敗は決しているからな、緑が広がる庭園で優雅に紅茶でも飲みながら待ってやってもいいぐらいだ」
「その慢心が身を滅ぼすんだ」
術式は組み終わった、後はサタンに触れるだけだ。
(サタンに近づくのは困難だぜ、さっきのビームをまともに喰らえったら次こそ死ぬなー)
サタンに近づくにはジミマイの協力が不可欠だ、頼んだぞ。
(はー???頼まれても何したらいいかわかんねぇよ、しっかり説明しろ!)
俺は無数に飛んでくる槍を避けながら、距離を詰める。余りの量に避けきれず足に刺さる。
「貴様は剣山のように串刺しになって死ぬのだ、穴だらけになった姿をルナリアーナに見せるのが楽しみだ」
2本、3本と槍が体に刺さっていく。体中が激痛に襲われるが走る速度は落とさない。
後3歩も進めばサタンに触れられる、俺の体よ耐えてくれ。
サタンはニヤリと笑う。
「至近距離では避けられまい、灰になれ竜血のアルバ。くらえ『ブラックノヴァ』」
サタンは黒い光線を放つ。
俺は直感で悟る。この光線を避ける事はできない、そして直撃すれば確実に死ぬと。だが俺は動じずに更に距離を詰める。はなから避けるつもりはない。
俺の姿は光線が当たる瞬間、マントをまとったバンパイアへと変身した。マントの端を掴み体をマントの内側へと隠し光線を反射する。
光線がサタンに直撃して、吹き飛び壁めり込んだ。
「この一撃で魔王サタン、お前を伐つ! 血沸き燃えろ、竜炎爆烈拳!」
アルバがサタンの顔を殴ると同時に腕は砂になり崩れ落ちた。アルバの渾身の一撃ですらサタンに目立った外傷はない。
サタンは声高らかに嘲う。
「ハッハハ、貴様の拳では俺に傷一つつけられんわ、何がこの一撃で俺を伐つだ、何が竜血だ、恐るに足らん。恐るに足らんのだよ」
サタンは吐血する。
「流石に至近距離で『ブラックノヴァ』は体に堪えるな」
「腕一本を犠牲にした価値は合ったな。練った魔術式は既にサタンの体内に刻まれている。その吐血が果たして本当に自傷によるダメージだったのかな?」
「何が言いたい」
サタンは額から垂れる汗を拭う。
「既に術式の効果が表れていると言っているんだ。体がほてって仕方がないんじゃないか」
「体は確かに熱い、だが熱いだけだ。なんの問題もない」
「俺が魔力を込めれば込めるほど、体は熱くなり、火柱高く燃え上がるぞ」
左手をサタンに向けて魔力を送る。
「さあ踊れ、哀れに踊れ」
サタンの体は火柱を上げて燃え上がる。そして熱さに耐えかねて物を破壊し暴れ回る。
声にならない声を上げながらルナリアーナの元へと地面を這いつくばって向かう。
「エルベス王国の民を殺し、ルナリアーナを傷つけた。殺すには十分な理由だ。今まで殺してきた人の怒りと苦しみをその身をもって知れ」
サタンは黒焦げになりながら声を振り絞って言う。
「次はない、次にこの世に顕現した時が貴様の最後だ。必ず殺すからな。何十年何百年後になろうと必ず転生し、一族諸共皆殺しにしてやる」
そう言い残しサタンは灰になった。
「約束しよう、何度転生しようとも俺か俺の子孫が必ずサタンを倒すと」