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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
第二話 1年目 春 五月
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三章 青い空と緑の大地の祝福を(2)

 富樫理事と美文さん、カテリーナ君、湖乃波君の四人はそれぞれプジョーに乗り込んだ。理事が運転席、美文さんが助手席、カテリーナ君と湖乃波君が後部座席に着席する。

 おっと、出る前に理事殿に説明しないと。俺は既にサングラスを掛けて直ぐにでも207SWを発進させそうな理事長に近付き運転席のガラスを軽く叩いた。

「何?」

 ウイーンと窓ガラスを下げながら理事が迷惑そうに聞く。その口調は「とっとと出させろ、このうすらトンカチ」と翻訳出来そうなほど切り口上だ。

「いや、シフトレバー横のSって文字が掛かれたスイッチ。それを押すとスポーツモードに切り替わってきびきび走れるから。あとハンドル横のスイッチ、そう、それ。スロットルコントローラーのスイッチで押すたびに色が変わるんだ。今は点いてないけど、一回押すと緑、二回押すと赤に変わる。緑がやや出力が上がって、赤はターボ車並みに速くなるから。シフトレバーを右側に動かすとMモードに入ってマニュアル車と同じようにシフトレバーを上下に動かすとシフトチェンジ出来ます」

 ふむふむと理事はそれぞれのスイッチを確認しながら頷いている。

 近づけた彼女の首筋からラベンダーの香りがすることに、俺は平然とした表情を保ちながらも彼女の中の女性を意識した。

「今日は一般道を走るから必要のない機能ですけど、一応教えておきます」

「ええ、有り難う」

 にっこり笑ってスポーツモードON。

 スロットルコントローラー赤モード最大出力。

 ()る気だよこの(ひと)

「じゃ、ゴールは六甲山牧場北駐車場。先に行ってるわよ」

 え、何、何を始めるんですか、貴女?

 止めようと手を伸ばした俺の指先をかすめて、エンジン音を響かせて四人を乗せた207SWは駐車場を出て直角に曲がり、さらにスピードを上げて一般道に出ると、あっという間にシルバーライオンが小さくなり見えなくなった。

 駐車場を出る前に美文さんの声で「助けてー」と声がしたような気がしたのだが、どうしようもないので気のせいだと納得しよう。

 さて、俺もトゥインゴで出るとするか。北駐車場側に行けばいいんだな。

 トゥインゴの南米の巨大げっ歯類カピパラの顔にも似たフロントマスクを眺めながら、つくづく唯一無二のデザインだなと実感する。

 ではいきませう、と、トゥインゴに乗り込む。

 前後の座席はピクニックに行ったとき下に敷くシートの様な緑と黄色のチェック柄だ。

 座り心地は少々柔らかめで長時間運転しても尻の下が痛くならないように設計されている様だ。そこらへんは俺の207SWも同じような感触で、長距離運転時にはとても助かっている。四時間以上だと流石に辛くなるが。

 運転席(コックピット)のステアリング、シフトノブ、コンソール類、ハザードランプスイッチ、そのすべてが円、もしくは半円形のデザインを強調されており、この車の持つどこかのんびりした雰囲気を更に高めている。

 イグニッションキーを回してエンジンを始動させる。振動と共に小排気量特有の軽快なエンジン音が響いて来た。

 バックで向きを変えて出るとしよう。

 このトゥインゴのシフトレバーは特殊で、バックギアに入れる時はシフトレバーの突起を上に引き上げないといけない。よっと。

 ガキッ

「……」

 指先に軽い痛み。突起を引き上げた際、シフトノブと突起の間に指先を挟んでしまった。手袋を履いているから良かったものの、素手で挟み込むとけっこう痛いぞ。

「さて」

 向きを変えるとシフトを一速に切り替えてゆっくりと一般道に出る。

 アクセルを踏んでエンジンの回転数を上げながら二速、三速とシフトチェンジを続けてトゥインゴを加速させた。車体が軽いためかのびやかに加速していく。

 このトゥインゴは前期型で運転席の足下にはアクセル、ブレーキ、クラッチの3ッつのペダルがある。

 これが後期型となると【イージーシフト】や【クイック5】などのセミオートマチックとなり、アクセルとブレーキの2ペダル方式が出回っている。

 ただ北駐車場まで行くだけでは面白くないので、先に出た富樫理事より早く北駐車場に着いて驚かせてみよう。

 そうなると場所までのルート選びが結果を左右すると言っても過言ではない。いくら高性能なスポーツカーを駆っていても、車は道が通れなければ意味が無いのだ。

 彼女等の乗った207SWは運転者(ドライバー)の性格からすると出来るだけ曲がらない速度を出せる直線の多いルートを選ぶに違いない。

 俺は頭の中でここら辺の地図を展開、彼女等のルートを推測した。

 須磨区高倉台を抜けて六十五号線を横断、啓明学院横のY字路を左手に行き白川ランプまで直進するのだろう。そこから神戸加古川姫路線に乗り換えひよどりIC(インターチェンジ)まで進み、県道十六号線に入る。後は十六号線に沿って北署前で右折、六甲山牧場に到着するだろう。

 そんな彼女等に先行するルートを取るべく、俺は啓明学園横のY字路を右折、神戸三木線である県道二十二号線を選んだ。

 この道は平日は通行量も多く、大型車もよく通ることから南下する車両にとっては避けたい道路だ。

 しかし今日は土曜日。通勤者の減るこちらの道で神戸加古川姫路線と神戸三木線の交差する車大橋前に、彼女達より先に到達出来ればこちらの勝利は間違いない。

 トゥインゴはエンジンは非力だが小柄で軽い車体を生かして、軽快に街中を走り抜けて行く。

 妙法寺駅傍のスーパーマーケット前で信号待ちをしている時、その店の制服を着た若い女性の二人組が傍らを通り過ぎた。

 彼女等はトゥインゴを目に留め「可愛い」だの「おしゃれ」だのこのフレンチカーを褒めていたが、ふと運転席に座る俺に気付くとばつが悪そうにそそくさと離れて行く。

 失礼な人達だ。黒背広にサングラスの男がトゥインゴに乗ってはいけない法律でもあるのだろうか。

 逆にとっても御洒落かもしれないではないか。

 難なく二十二号線に乗り込み車大橋を目指す。

 此処から十六号線までは緩やかな上り坂が続くのだが、途中の若草町あたりから車大橋まで急に勾配(こうばい)がきつくなる。

 五十八馬力の非力なトゥインゴにとっては天敵ともいえる難所であろう。そこをいかに早く通り抜けるかでこのレースの勝敗が決まる。

 ぶうごおー、ぶうごおーとエンジン音を響かせながら急な坂道を上る。

 エアコンも切っておいて、少しでもエンジンの出力を高めておこうとするが、やはり上り坂は苦手なようで右側車線の国産車がどんどんトゥインゴを抜かして行く。

 これはルート選びを間違えたかもしれない。とにかく頑張って早く登ろう。

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