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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
第一話 1年目 春 四月
3/196

一章 最後の依頼(3)

 ドアを開けると四月の強くも弱くもない微妙な日差しと、日差しを反射する海面が目に飛び込み、塩の臭いが鼻腔を満たす。

 ここは神戸ポートアイランド中ふ頭倉庫街のはずれであり、俺は人が住めるように改造された小さな倉庫を格安で借りて住まいとしている。

 元は輸入業を営む個人商店の持ち倉庫だったが、この不景気の中、経営手腕に問題があったのか莫大な借金を抱えて二進も三進も行かなくなった。借金返済の為、倉庫内の商品を二束三文で売り払い、それでも足りないので自宅をも手放してこの倉庫で生活していたのだが、ある日ぷっつりと姿を見せなくなった。

 困った借金取りはこの倉庫を賃貸に出したのだが、そこへたまたま通りかかった宿無しの俺が、家賃月々一万五千円で値切って契約したのだ。

 この場所は駅から五百メートルしか離れていないのに人があまり立ち寄らない、わずらわしい事が苦手な俺にとっては理想的な住まいといえた。

 俺は倉庫の右側の路地に回りこみ、仕事の相棒に掛けられたシートを捲りあげた。シートの下から藍色の車体が姿を現す。

 プジョー207SW、全長四・一五メートル、幅一・七五メートル、千六百CC直列四気筒のエンジンを積んだショートワゴンが俺の相棒だ。

 車に興味を持たない者はあまり知らないだろうが、この獅子をシンボルマークとするフランスの自動車メーカーの車は、そのしなやかなコーナーリング性能と快適な乗り心地から猫足と称されている。

 ラリーで有名な205、206の後継機として開発されたコンパクトハッチバックの207のボディを十二センチほど延長してワゴンスタイルとしたこの車は、五名乗車で三百三十八リッター、後部座席を倒すと千二百五十八リッターもの積載空間が確保されている。

 また207では窮屈と評価されていた後部座席も余裕が出来ており、荷物や人を乗せることの多い俺にとっては、このヨーロピアン・コンパクトワゴンは理想的な車と言えた。

 いま俺の傍らにある207SWはスプリント・ブースターを取り付けスタートダッシュ時の反応を良くした上、エンジンの出力をパーツ交換とチューニングにより百二十馬力から百六十馬力まで上昇させ、パイプ類も放熱に耐えれるように、耐熱性の優れたものに取り替えている。

 またホイールとタイヤも十五インチから十七インチへと一回り大きなサイズに取り替えて僅かだが安定性を向上させた。

 ブレーキパッドとディスクローターはディクセルというブレーキパーツ専門メーカーのMタイプに変えて、制動性能も上昇させてある。走り屋では無いから、この程度のレベルアップで済ませておく。

 仕事の相棒として使い続けると「目つきの悪いクジラの笑った顔」と言われた207SWのフロントマスクも頼もしく思えてくる。

 207SWに乗り込みエンジンを始動させる。プジョーとBMWによって共同開発されたエンジンが小気味良い音を立てて震えた。

 運び屋と言えばベンツやらBMW、アウディといった大出力の大型サルーンに乗り込むと思うだろうが、実際はこのぐらいのサイズが扱いやすく人気がある。フランスではこれをタクシーとして採用している会社もあるのだ。

 アクセルを踏んで、スプリント・ブースターのロケットスタートを味わいながら走り出す。取り敢えず、コンビニで求人の貼り紙があるかどうか確かめて雇用。

 確かめて雇用。我ながらいいダジャレだ。


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