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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
第二話 1年目 春 五月
27/196

一章 そういえば俺は保護者だった(2)

 彼女、野島(のじま) 湖乃波(このは)と俺は先月から共同生活を送っている。

 運び屋の俺が最後の仕事として引き受けた依頼の荷物が彼女であり、依頼人である彼女の叔父が行方を晦ましてしまったので、行きがかり上、湖乃波君が中学校を卒業するまで保護者として面倒を見る事となった。

 何故、そうしてしまったのかは自分でも分からない。

 その為、俺は彼女と俺の生活費及び、彼女の通う私立中学校の授業料を稼がなければならなくなった結果、昼間の様な安い仕事もこなしていかなくては生活出来なくなったのであった。

 それを気にしているのか、湖乃波君は今まで俺が気にしていなかった生活費の遣り繰りを担当する事となり、学校帰りにタイムセールを制覇するような中学生主婦としての生活を送っている。というか生きがいにしている。

 ここに来た当初、彼女は俺を警戒していたのか聞かれたことにしか答えない、この年代の子供と接したことのない俺にとって非常に扱いづらい子供だったが、ほぼ一か月たった今は何とか感情の起伏ぐらいは読み取れるようになった。

 俺としては中学三年生だから学業に専念するか、お友達と遊ぶとか今しか出来ない事を楽しんでほしいのだが、「別にいい」と却下されてしまった。

湖乃波君の興味は今のところ、いかに生活費を節約するかと、週末に俺の教える料理に向いている様だ。


 食事後の片づけを終え、ナチュラルハウス無農薬栽培の三年番茶を味わう。少々割高だがお茶だけはいいものを愉しみたいのだ。

 湖乃波君は片付けが終わると、元は俺の寝室兼書斎だった部屋で宿題や授業の予習、復習をしている。二時間程経ってから部屋から出てきて、三十分ほど風呂に入ってから就寝するのが彼女の日課だ。

 俺の仕事が運び屋である以上、夜中の輸送もあるわけで、その時は前もって一声かけるなり、メモを残す等して連絡を取るようにしている。

 今日は夜中の仕事が無いので、こうしてのんびりと過ごしている。湖乃波君が眠った後、大人の時間を過ごすべく飲みに行くかは俺の懐具合で決まる

 今日は……無理だな。

 台所兼応接間兼俺の寝室と彼女の部屋を隔てるドアが開き、湖乃波君がプリントを手にして俺の前に腰掛けた。

「これ、学校から」

遠慮がちに彼女が差し出したプリントには、俺が子供の頃にしか見たことのない語句が倍角で記されていた。


 三者面談のお知らせ


「……」

 俺はプリントの文面に視線を走らせると、そこには四月に三者面談について連絡したが、彼女の叔父は返事すら寄越さなかった事と、湖乃波君が四月前半に学校を休みがちだったこと、そして学校の授業料を滞納していたことについて、今後どうするべきか確認を取りたいと記載されていた。

「うーむ」

初めての三者面談にしては難易度が高い。

 俺の記憶では中学三年生の面談といえば、これから進路をどうするか、とか志望校に見合う学力を持ち合わせているか担任を交えて話し合う場だったと思うのだが。

私立中学で学費を滞納したのが不味かったかな、と、ぼんやり考えていると湖乃波君の問い掛けるような視線に気が付いた。

「いつ、がいいのか聞いてきなさいって、先生が」

「うーん」

 行かねばならぬのだが、正直、気が進まない。

 早い話が行方不明になった彼女の叔父の尻拭いをさせられるわけだ。が、湖乃波君との契約上、保護者役は勤め上げなければならないしな。しかし、担任の先生から叔父の所業についてグチグチと小言を聞くことになりそうだし、やっぱり気が進まない。

「私のクラスの担任は女性だよ」

 ふむ、男の愚痴を聞くのは御免だが、女性の愚痴は可愛らしいと思えることもある。特に美人の女性の愚痴を聞くことは、男の器量を相手に示すもので男にとっても無駄な事でもない。

 まあ、湖乃波君は学校でどのように過ごしているか知る必要もある。

「解った湖乃波君。俺が無事三者面談を成功させてやるから、君は大船に乗ったつもりでいたまえ」

湖乃波君は俺の義務感に感動したのか、暫く俺を見つめた後「それで、希望日は、いつかな」と区切るように聞いて来た。

 善は急げといわれるが、残念ながら明日は仕事がある。

「明後日、金曜日の放課後にしてくれ。予定を空けておこう」


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