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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
第二話 1年目 春 五月
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序章 |猛禽《もうきん》注意

 序章 猛禽注意


 俺は助手席から響く金属音に顔を顰める。

 荷を受け取ってから五分程度経過してから響き始めた金属音は、その合間に挿まれる独特の人を脅しつけるような鳴声と合わさって非常に耳障(みみざわ)りだった。

 この荷物を娘に届けてくれと持って来た依頼人は、誕生日に自らが届けるつもりだったが急な仕事が入ってしまい、慌てて輸送業者に依頼したところ、県内の近距離なら書類を揃えれば宅配可能との返答があった。

 しかし娘さんは大阪市福島区に住んでおり、神戸からそう離れていないものの県外であるからという理由で宅配業者より本日中の宅配不可能との結論が出された。

 途方にくれていたところ、商談相手の中華系企業の男から運び屋の話を聞き、俺への依頼となったのである。

 面倒臭い事に依頼人は十六時に生まれた娘の為に、十六時きっかりに届けてほしいと注文をつけた。

 まあ、サプライズをしたがる父親の気持ちも解からんでもないが、残り四十分で依頼するのは勘弁してくれ。

 俺は非常に混んでいる国道二号線と理不尽に混んでいる国道四十三号線の間の道路を、ジグザグに曲がりながら、どうにか間に合わそうと愛車プジョー207SWのアクセルを踏み続けている。

 不意に鳴声と金属音が途絶えたので、助手席にシートベルトで固定した荷物へ視線を向けた。

「うそ」

 鳥籠から大型の鸚鵡(オウム)科、ベニコンゴウインコの頭が突き出ていた。鳥籠の扉は押し上げられており、さっきの金属音は扉の固定金具を籠の中から捻る音だったに違いない。

 俺はいつまでも横を向いているわけにも行かず、ハンドル操作を繰り返しながらインコを盗み見る。白くて丸い目の中にある小さな瞳で俺を見た後、インコはいやいやをするように左右に首を振りながら徐々に徐々に鳥籠から出てきた。

「おおおおお」

 ずいっと、ついに高さ約五十センチの全身が出るとインコは左右を見回して、のっし、のっしと鳥籠を登り始める。

 巨体の為か、ものすごい威圧感があるぞ。

 鳥籠の頂上まで来ると、登頂成功の喜びかひと声上げる。その鳴き声は俺が今迄に聞いたことのあるどの鳥類よりも大きく、俺の鼓膜に耳鳴りを生じさせた。

「あぶね!」

 ハンドル捌きが狂い、もう少しで道端の自動販売機に突っ込みそうになるところをかろうじて立て直す。

 改めて見るとベニコンゴウインコはかなりでかい。

 木の実を(かじ)るに適した内側に曲がった(くちばし)、ぐりんぐりんとフクロウの様に良く回る頸、巨大な翼、そしてその巨体を支える太い鷲鷹(わしたか)等の猛禽類(もうきんるい)に引けを取らない足。これは鳥籠で飼える鳥類なのかと疑問に思う。

 最早、俺にとって、その一挙手一投足が脅威となり始めた赤い荷物は、首を前後に傾けタイミングを計ると助手席の背もたれにひょいっと飛び乗って、俺の隣に移動し始めた。

「こ、こら、運転中に来るんじゃない」

 当然、ドクタードリトルでもない俺の言葉は通じるわけもなく、インコは俺の肩に飛び乗ると、物珍しそうにハンドルとそれを操作する俺の両手を見比べる様に体を前に乗り出す。

「まさか、やめろよ、おい」

 俺は、次にこの巨大なインコが何をするか、おおよそ予想がついた。

 巨大な団扇を叩く様な音と共に、俺の眼前にベニコンゴウインコが舞い降りて、ハンドルを止まり木代わりにしたのである。

 完全に塞がれる俺の視界。

 俺はハンドルを左右に回してインコを落そうとするが、インコはバランスよく体重移動を行いハンドルから降りようとしない。

 むしろ、「褒めてくれ」とでも言いたいのか、リングに立つプロレスラーの様に胸を張って俺の眼前に巨体を(さら)してくる。

 くそっ、荷物でなけりゃ窓を開けて外に放り出すんだが。

 プジョー207SWの不規則な蛇行運転に、すれ違う車から「馬鹿野郎」と怒声が浴びせられる。

 叫びたいのは俺のほうだよ。

 インコは左右に回るハンドルが楽しいのか、羽をばたつかせて変な鳴声を上げている。

「誰か何とかしてくれー」

 明日から俺のルールに人間を除く生き物の輸送は引き受けないと付け加えよう。


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