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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
第一話 1年目 春 四月
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四章 クォ・ヴァディス(4)

 数分後、車上の人となった俺と少女は、ポートピアランド中埠頭倉庫街の俺の住む倉庫へ向かっていた。

 泣き止んで俺の方へ振り返った少女の見たものは、おばさんに大根で横っ面を張られてのけぞる俺の姿だった。

 少女が俺を怪しいものでは無いと説明してくれなかったら、俺は大根がへし折れるまで殴られ続けていたに違いない。

 少女は俺の事を遠い親戚の説明してくれたが、おばさんの俺を見る目つきは、ただ胡散臭(うさんくさ)い奴を見る目つきだった。

「本当に、酷い目にあった」

 俺がそう呟くと、助手席の少女はその光景を思い出したのか、くすりと笑みを見せた。うん、いい笑顔が出来るじゃないか。

「そういえば、まともに君の名前を聞いていなかったな」

 まあ、知っていたが本人の口から聞いたものでは無かったからな。

野島(のじま) 湖乃波(このは)。野原の野に島国の島、みずうみの湖、乃木将軍の乃、(なみ)と書いて、は、と呼びます」

「そうか、じゃあ湖乃波君。これからよろしく」

「はい」

 少女の返事に、俺は苦笑した。

 結局、湖乃波君の面倒を見ることは俺と湖乃波君の生活費を稼がなければならず、運び屋の仕事を続けて行かなくてはならない。

 全く、赤の他人の面倒を、しかも中学生とくれば俺の周りの奴等は何を言って来るか。馬鹿、とか、お人よしで済めばいいが。

 それに少女の寝床も作らなければ、取り敢えずあの散らかった寝室兼俺の部屋を急いで掃除して、いや寝袋しか持ってないから今日は事務所兼台所のソファーで寝てもらうしかないな。ベットや必要な生活用品は明日、三宮で揃えるとしよう。

 しかし、赤貧というのにいろいろ物入りになりそうだな、年頃の子と暮らすのは。ん、年頃。

 俺はふと、少女のこれだけは言っておかなければいけないんでは、と思った。誤解を避ける為、必要な事に違いない。

「で、湖乃波君」

「はい」

 湖乃波君は俺の改まった口調に、緊張した表情で俺を見た。

「はい、って別に改まって返事しなくていいよ。俺と君は契約で対等なんだ。それでだな」

 俺は声を低くしたので、湖乃波君はつばを飲み込んで身構えた。

「俺、ロリコンじゃないんで。誤解しないように」

「…………」

 さて、明日から今までと違った日常となるだろう。俺にとっても湖乃波君にとっても。出来れば、毎日が平穏であることを願って。

 しかし運び屋の平穏って、何だろう?


 運び屋の季節 一年目 春 四月 (完)


【運び屋の季節】第一話、ここまで読み上げていただき感謝致します。

皆様の想像する映画や小説のような格好良い運び屋でなく、ぼやいてばかりのちょっとひねくれたオジサンですが、少しばかり【アリでないか】と思って戴けたら幸いです。

それで次のオジサン運び屋と少女のゆるゆるとした日常で会いましょう。

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