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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
第六話 運び屋の季節 1年目 冬 十二月
158/196

前編 湖乃波SIDE(5)

「あのー、済みません。狗狼に連絡を取りたいので電話をお借り出来るでしょうか?」

「お、旦那にね。ちょい待ち」

 おじさんは腰のポシェットからスマートフォンを取り出すと私に手渡してくれた。

「旦那に連絡行くようにしてあるから」

「あ、有り難う御座います」

 耳に当てると数回の呼び出し音の後、「おやっさん、どうした?」と狗狼の無愛想な声が響いた。何やら向うは騒がしく、狗狼の声が聞き取りにくいが私は用件を説明する。

「狗狼、その、クリスマスパーティー用の食材を買いに来たんだけど、鮭が売り切れなの。その代り、ブリ、サバ、タラが四割引きで安く買えるから、それで何か料理できるかなあと思って」

「へえ、四割引きとは、おやっさんも思い切った事をするね」

「うん、ここは買いと思うの」

「そうだな、となると皆で食べられる事を前提とした料理を選ぶか……」

 スマートフォンの向こうが沈黙する。

「【魚スキ】にするか」

「うおすき?」

 聞き慣れない料理名に私は困惑するようにその名を繰り返した。

「スキ焼が牛肉とすると、魚スキは魚肉のスキ焼だ」

「そんな料理があったの?」

「ああ、魚しゃぶでもいいかもしれんが、此処はひとつ、何か手を加えて置きたいからね。おやっさんに代わってくれるか」

「う、うん」

 私はおじさんに「狗狼が」とスマートフォンを返すと、おじさんは怪訝そうな顔で耳に当てる。

「やあ旦那、久し振り。……お、おお、あるよ、ホタテとサワラ、ワカメ、あと甘海老ね。ちょい待ち、今、計算するから」

 おじさんが書き留めたメモの内容をおばさんが確認しながら、電卓のキーを叩いていく。

「旦那、八千八百六十円だ。……ああ、お金は湖乃波ちゃんから受け取ればいいんだね。……解った。毎度あり」

 私が財布から一万円札を取り出すと、おじさんが受け取ってお釣りを渡してから「ちょっと待ってな」と店の奥へ踵を返した。

「此奴はサービスだ。今が美味いよ」

 その右手には黒味の掛かった銀色で五〇センチ程の全長をした魚がぶら下がっている。

「此奴はサンバソウだ。脂の乗っていないイシダイや、図体が大きくて味の落ちるクチグロじゃない。身が柔らかくて甘いから刺身にすると良いよ」

「え、ええ! そんな安くしてもらっているのに、悪いです」

「気にする事はないわ。じゃあ、私達からのクリスマスプレゼントにすれば受け取って貰えるかしら?」

「あ、有難う、ございます」

 礼をする私に「いいから、いいから」と微笑んで見つけるおばさんの横で、おじさんが手際よく発泡スチロールの箱に購入した食材を詰めていく。

「じゃあ、旦那に頼まれたとおり、あの倉庫の前まで此奴等を運んでおくから。他の野菜とかは別の奴が持って来るから、湖乃波ちゃんは手ぶらで帰っていいって」

「別の?」

「おう、湖乃波ちゃんは帰って出汁を作っておいてくれって、旦那からの伝言」

「はい」

 私は【魚政】のおじさんとおばさんにもう一度礼をする。

「有り難う御座いました」

「いいって、いいって。じゃあメリークリスマス」

「はい。メリークリスマス」

 【魚政】を後にした私は、【魚スキ】に合う食後のデザートを選ぼうと青果店へ向かう事にした。

「湖乃波ちゃん、ちょっとおいで」

 呼び止められて振り返ると、漬物・味噌の専門店である【北浜漬物店】を切り盛りしている北浜の御婆さんが私を手招きしていた。

「北浜の御婆さん、こんにちわ」


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