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運び屋の季節  作者: 飛鳥 瑛滋
番外編 夏 七月 野島湖乃波の夏休み
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四章 スイート・ビター・チョコレート(7)


 ベッドに横になり天井を見上げる。

「四年間」

 それが私を救った運び屋の下で私が暮らせる期間だ。

 狗狼は契約違反の違約金の代わりに面倒を見ると言っているが、どう考えても彼が契約違反で支払うべき金額より、四年間で私の面倒を見ることにより掛かる諸費用の方が大きいと思う。

 ならば、何故、狗狼は四か月前の春に私と契約して、また延べ四年間の契約延長としたのか。

 何故私を助けたのか。それが解らなかった。

 ただ、今解っている事は、狗狼は、あの伯父や私の知る大人達とは全然別の人間で、私に対して何の見返りも求めていなかった。

 狗狼は彼の言うとおり、自分の決めたルールに従って私と契約しているのだろう。彼はそれで満足しているのかもしれない。

 私は今日まで、そんな彼のことが理解出来ず、いや、今でも理解出来ているとは言えないけど、どこかで彼を警戒していた。

 伯父のような部分が必ずあるものだと、安全な距離をとり、いつでも逃げだせるようにしていた。

 でも私や工藤さん、佳代さんに対する行動は自分自身の利益不利益すら無視していた。

 きっと、狗狼は伯父同様に日に背を向ける生き方を選んでいるが、それはまったく違う理由でその生き方を選んでいるのだと思う。

 彼にしか解らないルールに従って生きていて、彼にとってそれを破る事は死のも等しいのかもしれない。

 そうあるべきことを自分自身に強制しているのかもしれない。


 左手の袖をめくり、手首の傷を(あらわ)にする。

 でも今日はその傷を見ても世界や生きることに対する恐怖は湧かなかった。

 彼と共にいる限り、そんな事は起こらないとさえ思えるのだ。

 その代わり、泣いた。

 嬉しくて、哀しくて、涙が流れた。

 契約、ルールでしか他人(ひと)と関わる事の出来ない彼の孤独を感じたのだ。

 彼は、私や工藤さんを救っても、それを遠くから眺めて見返りを求めない人間なのかもしれない。

 それ以外の事は余分でしかなく、だからこんな元倉庫でただ独り運び屋を続けている。そんな気がした。

 四年間。

 それが、彼と私が共に暮らせる時間だ。

 契約でしか結びつかない、仮の保護者と子供のいびつな擬似家族だけど、四年間共に暮らせば傍目(はため)には親子に見えるかもしれない。

 四年後の私や狗狼がどうなっているかは解らない。

 もしかしたら途中で契約を解消しているのかもしれない。

 ただ、明日は笑顔で挨拶をしてみよう。

 何時も眠たそうな目をしている彼に、新しい朝を教えて上げよう。

 そして四年後には、お互い笑顔で挨拶をするのだ。

 独りではない。そう自分と相手に伝えるために。

「おはよう」

 それだけで幸せだと感じられるように。



運び屋の季節 番外編 野島湖乃波の夏休み 完



*参考文書

 朝日文庫「私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築」  緒方貞子 著

 朝日文庫「職業は武装解除」                  瀬谷ルミ子著

 白水社 「国際協力師になるために」              山本敏晴 著

 昭文社 「兵庫県道路地図」

 昭文社 「福井県道路地図」


  




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