第6話「2人でいられる幸せの中身」
だいぶ間が空いてしまいましたが、第6話更新です
今日から妊娠24週、7ヶ月に入った。
もうお腹も大きくなってるのがはっきりと分かるレベル。
だんだん、とっさの動きも難しくなってきた。
今も、これからそろそろ起きようかなー、と思って、お布団の中でもぞもぞ動いてたところ。
「んー・・・ユウカさん、おはよー・・・」
「あっ、ごめん、起こしちゃった?」
「ううん・・・大丈夫・・・ん~・・・」
私の隣にはマイちゃんがいる。
・・・いや、さも当然のように言ったけど、そうなんだよ。
私の隣でマイちゃんが寝てるんだよ。そろそろ起きそうだけど。
そう。
私とマイちゃんは、2週間ほど前から一緒に暮らしている。
言ってみれば同棲みたいな。いや、同棲そのものだわ。
4週間前の健診で、2人一緒にまとめて診察を受けたこともそうだけど、
元々前から一緒におでかけしたり遊んだりしていたこともあって、
お互いにシングルマザーな私たちは一緒に暮らすことにしたのだ。
そのほうが何かあったとき、お互いに支え合えるしね。
そんなこんなで、いつの間にか2週間が過ぎていったけど、
ここまでの暮らしは至って順調だし、私もマイちゃんも、そして私たちのお腹の赤ちゃんも順調に来ている。
思えば、もう15週間経ったんだなぁ。
こうしてお腹が大きくなっていって、どんどん妊婦さんらしさが増すごとに忘れそうになるけど、
ほんの15週間前まで、私はれっきとした「男性」だったのだ。
それが今では立派な妊婦さんになり、ママ友もできて、なんならそのママ友と同棲してる。
そのママ友にしたって、私が男のままだったら絶対に声をかけてた、私の好みそのものの可愛い子だ。
ひょんなことで女性になって妊婦さんになったとはいえ、
それすらも込みで、私は今、すっごい幸せな時間を過ごしている自覚がある。
こんなに幸せでいいのかなって、最近はほぼ毎日思ってるくらい。
「さーてと・・・そろそろ動こうかな。」
「ん・・・じゃあ私も~」
掛け布団をめくると、そこから出てきたのは2つの大きなお腹。
もちろん1つは私のお腹で、もう1つはマイちゃんの。
「マイちゃん、おはよ。」
「ユウカさんもおはよ~。赤ちゃんもおはよ~。」
そう言って、マイちゃんは私のお腹を撫でてくれる。
一緒に暮らし始めてから、毎朝のルーティンになってる。
それに返すように、私もマイちゃんのお腹を撫でる。
最初は恥ずかしかったし、「いいのかな・・・」って不安になったけど、
それで何日かいたら、マイちゃんが悲しそうな顔をしてるのに気付いた。
それからは私も、お返しでマイちゃんのお腹を撫でるようになった。まだ少し恥ずかしさはあるけどね。
「今日はどうしようね?」
「私、ちょっとお買い物行きたいかな。少なくなってきたものとかあるし。」
「そうね、さっき見たら調味料とかも少なくなってたから、お買い物行かなきゃね。」
健診は明日だし、今日は特に予定もなかったから、一日のんびり過ごすことになりそう。
私たちは朝ご飯を食べながら、テレビをつけて朝のニュースを見る。
『・・・は晴れ間もありますが、午後からは天気が急変し、早いところでは正午過ぎから雨が・・・』
「あら、お昼からは雨になるみたいね。」
「あっ、ホントですね。」
「荷物多くなりそうだから、もう早いうちにお買い物行っちゃいましょうか。」
「ですね!」
ささっと朝ご飯を終わらせて、お片付けを済ませてからお買い物へ。
とにかく降ってくる前に済ませないと・・・あっ、洗濯物!
そうだ、雨が降ってくるんだったらベランダには干せないな・・・
午前中は大丈夫って言ってるから、とりあえず家に帰ったら部屋干しにしなきゃ。
雨が降ってきたら、それこそやれることなくなっちゃうし、
マイちゃんと2人でソファーに座りながら、ネトフリでなんか適当に見ようかな。
マイちゃんと一緒に暮らし始めてからは、本当にこういう生活が続いてる。
別に私一人で暮らしてたときと、そこまでやることは大きく変わったわけではないけど、
やっぱり誰かが一緒にいる、しかもその誰かがマイちゃんってことで、
そこまで変わらない生活のはずなのに、一気に楽しくなったって本当に思ってる。
「2人とも順調そのものですね、体重もキープできてるし。」
今日は妊娠24週の定期健診。
今までは1ヶ月に1回だったけど、今回の健診から2週間に1回になる。
もちろん、これからも私とマイちゃんは1セットで診てもらえることになった。それだけで安心できる。
「特に何もなくてよかったね!」
「そうね、マイちゃんも私も順調みたいでよかったわ。」
昨日のお昼から降っていた雨も、今日はすっかり上がっていて、
道路はまだ少し湿ってたけど、空はきれいな青空で、風も気持ちいい。
病院からの帰り道を、いつもと同じように、特にとりとめもない会話をしながら歩いていく。
よくよく考えてみると、2週間一緒に暮らしていて、毎日なんかしらの会話をしてるのに、
それでもなお、こうしておしゃべりしながら過ごせてるんだから、よっぽど私たちはお似合いなのかもしれない。
それでも、まだまだ話しきれてないことはたくさんある。
そもそもなんでマイちゃんはシングルマザーになることになったのか、
なんで私がシングルマザーになることになったのか、そういったことも全然話してない。
というか、私のことに関しては話せるわけがないし、話したところで信じてもらえるはずがない。
マイちゃんのことにしても、結局そういうのってかなりプライベートなことだし、
人によってはそういうのを聞かれるのがすごい嫌なこともある。その辺はマナーみたいなもん。
だから、私もマイちゃんに聞こうとは思わない。
ただ、初めてマイちゃんを見たときから、ずっと心の中で思ってることはある。
絶対にどこかで見たことある顔なんだけどなぁ・・・
これくらい私の好みな上に、初めて会ったときからこれだけ印象に残ってたってことは、
それよりも前にどこかで見たことがあってもおかしくないと思うんだけど・・・
まぁ、他人の空似ってこともあるし、あまり気にしないことにするのが一番かな。
そんなことよりも今は、この幸せを噛み締めていたほうが、絶対に自分にとってプラスだ。
「じゃ、このままお買い物行きましょうか。」
「は~い!」
さて、と。
今日のお夕飯は何にしようかな?